運の総量保存の法則
〜お節介な神様と三十八回目の月曜日〜
2047年・近未来東京
〜まえがき〜
「運は巡る / プラスマイナスゼロの法則」。
何かを差し上げると、巡り巡って何かが返ってくる。それは物ではなく、気持ちの行き来だ。貰いっぱなしではダメ。計算で与えても滞る。
では、それが国家システムになったとしたら? AIが運を管理したとしたら? そして、その隙間を埋めるべく、お節介な神様が東京の街を歩き回ったとしたら——?
どうぞ、お気楽にお読みください。
まずは、あなたにこの物語を……どーぞ。
第一章 神様、ハローワークへ行く
西暦二〇四七年。東京は今日も晴れである。
渋谷スクランブル交差点の上空、海抜三十二メートルのところで、一柱の神様がぼんやりと浮いていた。
その神様の名前は、タマキチ。正式名称は「縁結び・福分配・因果調整担当補佐代理神(見習い)」という、どこかの省庁も真っ青な長ったらしい肩書きを持っていた。外見は七十代の小太りなおじさんで、紺色の作務衣を着て、腰には黒い板のようなものをぶら下げていた。これが、現代の神器「運命端末・カルマパッド」である。
「うーん」とタマキチは唸った。
カルマパッドの画面には、こんな文字が踊っていた。
『システムエラー:運の総量が規定値を〇・〇三二ポイント超過しています。早急に調整を行ってください。担当エリア:東京都渋谷区一帯。調整期限:七十二時間。未対応の場合、自動リセットが発動します』
自動リセット。その言葉がタマキチの丸いお腹をきゅっと締め付けた。自動リセットとは何か。平たく言えば、その地区の人々の運が、あらゆる記憶もろともゼロに戻ってしまうことである。要するに、タイムループの強制発動だ。
「またか……」タマキチは天を仰いだ。「またタイムループか。先月も先々月も……って、あれ、先月はワシが手動でやったんだっけ」
空の彼方から、無感情な声が降ってきた。AIである。
『タマキチ神、お話し中のところ恐れ入りますが、現在ループ回数の上限に近づいています。このエリアの住民・田中ゆかり(二十八歳・渋谷区在住・フリーランスのグラフィックデザイナー)は、過去三十七回のループにおいて一度も「与える行動」を取っておられません。彼女の運のマイナスが、このエリア全体の総量に影響を与えています』
「三十七回……」タマキチは唸った。「それ、もう嫌がらせの域じゃないか」
『嫌がらせではございません。統計的な傾向です。彼女は平均的に見て、受け取り専門の人間です。ただし』AIが一瞬間を置いた。『可能性は、あります』
タマキチはため息をついた。こういうときのAIの「可能性は、あります」は、たいてい「神様が地上に直接介入してください」という意味である。
「わかった、わかった。行けばいいんじゃろ」
タマキチは作務衣の袖をまくり、カルマパッドを腰に差し直すと、渋谷の雑踏へと降りていった。人間には見えない姿で、である。いちおう。
第二章 田中ゆかり、三十七回目の月曜日
田中ゆかりは月曜日が嫌いだった。
今週で三十七回目の月曜日だとは、当然知らない。記憶はリセットされているので。しかし何となく、この曜日に漠然とした嫌悪感を持っていた。理由は不明。体がどこかで覚えているのかもしれない。
彼女は渋谷のカフェで、ラップトップの前に座り、クライアントからのメッセージを読んでいた。
「やり直してください。コンセプトから」
以上。
ゆかりはエスプレッソを一口すすった。苦い。人生と同じくらい苦い。
その瞬間、隣のテーブルの老人がふいに言った。
「お嬢さん、それ、ひっくり返りますよ」
ゆかりが顔を上げると、紺色の作務衣を着た小太りのおじさんが、ニコニコしながら彼女のカップを指差していた。
次の瞬間、カップは本当にひっくり返った。
「わあっ!」
コーヒーがラップトップに向かって流れる。ゆかりは咄嗟にバッグを盾にして被害を最小限に食い止めた。なんとかパソコンは無事。しかし白いシャツの袖が茶色に染まった。
「……なんで先に教えてくれなかったんですか」ゆかりは老人を睨んだ。
「先に教えたら、あなたが自分で止めてしまうじゃろ」
「それでいいんですよ!」
老人——タマキチ——は、まったく悪びれず、むしろ興味深そうにゆかりを観察していた。「うんうん。この子は口が達者じゃな」と、小声で独り言を言っている。
「なにか言いましたか」
「いや何も。ところでお嬢さん、気分転換に散歩でもどうですか。近くにいい公園がありますよ」
「なぜ見ず知らずのおじさんと散歩しなきゃならないんですか」
「縁があるから、です」
ゆかりは立ち上がり、荷物をまとめた。「失礼します」と言って店を出た。完全無視。三十七回のループの中で、これは比較的早い「撃沈」だった。
タマキチはカルマパッドを取り出し、メモした。「拒絶パターン:タイプ3(警戒型)。有効アプローチ:未発見。残り時間:六十八時間十四分」
AIが耳元で囁いた。『タマキチ神、ドンマイです』
「ドンマイ言うな」
第三章 運の見える化と、その弊害
読者の皆さんに、少し背景の説明をしよう。
二〇三〇年代後半、人工知能の発展は神の領域に踏み込んだ。いや、比喩ではなく、文字通りに。高天原クラウド株式会社(本社:東京都千代田区・時価総額四十二兆円)が開発した「カルマOS」は、人間の行動データをリアルタイムで解析し、「運」の総量を数値化することに成功したのだ。
これは革命だった。
人々は自分のスマートフォンで「今日の運スコア」を確認できるようになった。朝起きて「今日は運スコア72! ラッキーデイ!」などと喜ぶ文化が生まれ、運スコアの高い人間がSNSで称賛され、低い人間が「運貧乏」と揶揄される時代が来た。
しかし高天原クラウドは、もう一つ重要なことを発見していた。
運の総量は、常に一定である。
誰かの運が増えれば、誰かの運が減る。与えれば巡り、溜め込めば滞る。古来の民話や格言が言っていた「情けは人のためならず」「お天道様は見ている」の類は、データで裏打ちされた物理法則だったのだ。
この発見を受けて、日本政府は「運総量保存法」を制定。カルマOSを国家インフラとして採用し、各地区の「運の調整」を担当する神職AIを配備した。これが、タマキチの上司にあたる存在「カルマ中央AI・アマテラス9号」である。
アマテラス9号は優秀だった。賢く、公正で、感情がない。
しかし一つだけ、苦手なことがあった。
「人間の気まぐれ」である。
だからこそ、タマキチのような「現場の神様」が必要とされた。AIが計算できない、人間の不合理な善意。それを引き出すのが、タマキチの仕事だった。
「つまりわしは、AIの下請けか」とタマキチはいつも嘆く。
『正確には「ヒューマン・インターフェース担当神職」です』とアマテラス9号は答える。
「同じじゃろ!」
第四章 三十八回目の試み
翌朝、タマキチは作戦を変えた。
ゆかりが毎朝立ち寄るコンビニで、彼女より先に並んでいる老人を演じることにした。レジ前で財布をごそごそやり、小銭が足りないふりをする。古典的な作戦だが、三十七回中一度も試したことがない手だ(なぜかというと、タマキチ自身が気乗りしなかったからである。神様にも好き嫌いはある)。
ゆかりがやってきた。ペットボトルのお茶と、おにぎり一個。いつもと同じ。
タマキチはレジで「あれれ」と言いながら財布を漁り始めた。
ゆかりが後ろに並んだ。
五秒後、ゆかりはイヤホンをつけてスマホを見始めた。
十秒後、タマキチはまだ漁っている。
三十秒後、店員がタマキチに「大丈夫ですか」と声をかけた。
一分後、ゆかりが「すみません、私が払います」と言った。
タマキチは心の中でガッツポーズをした。ついに。三十八回目にして、ゆかりの口から「払います」という言葉が出た。
しかし次の瞬間、ゆかりはこう付け加えた。
「PayPayのポイントが余ってるんで、使いたいだけですけど」
タマキチのカルマパッドが震えた。『善意判定:不成立(動機が打算的です)』
「……それでもええやろ!」タマキチは小声で叫んだ。
『規定では、純粋な善意のみカウントされます』
「融通の利かないシステムじゃな!」
ゆかりはPayPayで百九十円を支払い、何事もなかったかのようにコンビニを出た。
タマキチは、おにぎりと引き換えに受け取ったお釣りを、呆然と眺めた。
第五章 ゆかりの事情
タマキチは、ここで少し立ち止まって考えることにした。
神様の仕事は、人間を「良い方向に動かす」ことだ。しかし動かすためには、相手を知らなければならない。三十七回のループで、タマキチはゆかりの表面しか見ていなかったのではないか。
カルマパッドを開いて「田中ゆかり・深層データ」を呼び出す。
『対象者の直近の行動パターン:受け取り専門、施し行動ゼロ。しかし——注記あり』
注記。タマキチはそこをタップした。
『対象者は五年前、父親の介護のために仕事を三ヶ月休んだ記録あり。父親の死後、葬儀費用が払えなくなった際、近所の見知らぬ老夫婦が費用を一部負担。対象者はこれを「信じられないこと」として記憶しており、現在も「いつかお返しをしなければ」という義務感を持ち続けている。ただし、その「いつか」がいつなのか、自分でも分かっていない模様』
タマキチはカルマパッドをゆっくり閉じた。
「そういうことか……」
ゆかりは、もらいっぱなしが嫌な人間だった。だから受け取ることに慎重で、与えることへの恐れがあった。完璧に返せるまで、与えてはいけないと思い込んでいた。
「なんじゃ、ただの不器用な子じゃないか」
アマテラス9号が囁く。『しかしその不器用さが、三十七ループ分の歪みを生んでいます』
「わかっとる。でも……やり方を間違えておったわ、ワシは」
タマキチは空を見上げた。東京の空は、今日も狭い。ビルとビルの間に切り取られた、青い細い帯。
「正面突破は諦める。遠回りじゃが、本筋を行くとするか」
第六章 お裾分けという名の革命
タマキチは翌日、ゆかりのアパートの前に現れた。手には大きな紙袋を持っている。
中身は、みかんである。熊本産。二十個入り。
タマキチは、ゆかりの隣の部屋の住人・マツモトさん(六十三歳・元トラック運転手・現在は半隠居)に変装して呼び鈴を押した。これも神様の仕事のひとつで、人間に化けることは朝飯前だ。ただし規約で「本人と同世代の姿は禁止」とあるので、いつも老人か子どもになる。
「はあい」
ゆかりがドアを開けた。
「やあどうも、隣のマツモトです。いやね、田舎の親戚からみかんが届いてね。多すぎてね。よかったらどうぞ」
タマキチは紙袋をゆかりに差し出した。
ゆかりは一瞬、固まった。
(これは……もらっていいのか? でももらったら返さなきゃいけない。何を返す? いつ? どれくらいの量で?)
ゆかりの頭の中で計算が始まった。タマキチにはその様子がカルマパッドの「思考可視化モード」でうっすら見えていた。
「気にしないでください。食べきれないんで、本当に」
「……ありがとうございます」
ゆかりはみかんを受け取った。
三時間後。
ゆかりはみかんを四つに分けた。一つは自分用。一つは向かいの部屋の若いカップル用。一つは下の階の一人暮らしのお婆さん用。そして一つは、タマキチこと「隣のマツモトさん」のお返し用だ。
廊下に出たゆかりは、三方向のドアに小さなビニール袋を下げた。中にはそれぞれみかんが入っており、小さなメモが添えてあった。
「よかったらどうぞ。田中より」
カルマパッドが静かに鳴った。
『善意行動:検出。動機分析:純粋度七十一パーセント。タイムループ解除条件まで残り:二十九パーセント』
タマキチは自分の部屋の前に下がったみかんの袋を見て、小さく笑った。
「始まったな」
第七章 連鎖
みかんはドミノ倒しを起こした。
向かいのカップルは、みかんをもらったことで気分が良くなり、ずっと先延ばしにしていたケンカの仲直りをした。男の方が「ありがとう」と言い、女の方が泣き、二人は抱き合った。そして翌日、男は職場の後輩に奢ってやった。後輩は感激して、帰りに献血をした。献血センターのスタッフが後輩に「ありがとうございます」と言い、スタッフは気分がよくなって、バス停で迷っていた観光客に丁寧に道案内をした。観光客は感動して、ホテルのレビューに「東京の人は親切だった」と書いた。そのレビューを読んだ外国人が東京旅行を決め——
「まあ、そのくらいにしとこか」タマキチは独り言を言った。「連鎖を追いかけるとキリがないんじゃよな、いつも」
問題は、下の階のお婆さんである。
お婆さん——山田フミコ、七十九歳——は、みかんの袋を見て泣いた。
「こんなことをしてくれる人がいたんか……」
お婆さんは三ヶ月前から近所づきあいを断っていた。息子に「いい加減に施設に入れ」と言われてから、人が怖くなったのだ。
お婆さんはみかんを一つ剥いて食べた。甘かった。
次の日、お婆さんは自分で廊下に出た。久しぶりに。ゆかりと廊下でばったり会った。
「あのう……みかん、ありがとうございました」
「ああ、いえ。おいしかったですか」
「甘かったですよ。あなたって、何してる人なの」
「デザイナーです。ロゴとか作ったり……」
「あらそう。うちの息子が今度お店開くって言っててね。ロゴが要るって言ってたけど……頼めるの、こういうの」
ゆかりは少し考えた。「……ぜひ」
カルマパッドが震えた。
『仕事受注:検出。給与予定:二十二万円。対象者・田中ゆかりの運スコア上昇率:プラス十七ポイント。タイムループ解除条件まで残り:三パーセント』
「三パーセント!」タマキチは小躍りした。「あとちょっとじゃ!」
第八章 最後の三パーセント
残り三パーセント。
タマキチは考えた。何が足りないのか。
アマテラス9号が分析した。『田中ゆかりは現在、「もらったから返した」という意識が残っています。純粋な善意の発露がもう一押し必要です。具体的には、見返りを期待しない行動、かつ相手が見知らぬ他人であることが条件です』
「むずかしいな……」
しかしそれは、翌朝に、予想外の形でやってきた。
ゆかりが渋谷駅の改札を出たとき、若い女性がホームで泣いているのを見た。就活帰りらしく、リクルートスーツを着て、手には不採用通知の紙を持っていた。
ゆかりは一歩進んで、止まった。
(関係ない。急がないといけない。関係ない。でも……)
ゆかりは鞄の中を探った。ポケットティッシュがあった。それと——みかんが一つ残っていた。お昼用に入れておいたものだ。
「あの……」ゆかりは声をかけた。「大丈夫ですか」
女性は顔を上げて「す、すみません」と言った。
「ティッシュ、どうぞ。それと……みかんしかないんですけど」
ゆかりはみかんを差し出した。
女性は呆然とした顔でみかんを見た。それからぷっと吹き出した。
「みかん……」
「なんか変でしたね、ごめんなさい」
「ありがとうございます。なんか……なんか元気出ました」
ゆかりは微笑んで、改札を出た。
その瞬間。
カルマパッドが音楽を奏でた。明るく、軽やかな音楽を。
『善意行動:完全認定。純粋度:九十八パーセント(残り二パーセントは本人が後で恥ずかしくなった分です)。タイムループ解除条件:達成。渋谷区エリアの運の総量:正常範囲内に収束。お疲れ様でした、タマキチ神』
タマキチは渋谷の雑踏の中で、一人静かに目を閉じた。
「ようやっとか……」
三十八回目の月曜日が、静かに終わっていく。
第九章 神様の残業
事件は解決した。しかしタマキチの仕事は終わっていなかった。
アマテラス9号からの新着通知が、カルマパッドに十四件届いていた。
『緊急案件:世田谷区・梅が丘エリア。対象者・鈴木一郎(四十五歳)、過去五十二回のループにおいて「わざとマイナスを背負い、その後のプラスを待つ」行動パターンを繰り返しています。現在、このエリアの運の歪みが臨界値に達しつつあります。直ちに対応をお願いします』
タマキチは読み終えて、深々とため息をついた。
これは、やっかいな案件だ。
わざとマイナスを背負う人間。先に損をして、運の反動でプラスをもらおうとする人間。計算の上で「お裾分け」をする人間。
「純度がゼロじゃもんな……」
タマキチは梅が丘の方角を見た。カルマパッドには、鈴木一郎の行動記録が列挙されていた。わざと財布を落とす。わざと電車を一本遅らせる。わざと同僚の仕事を手伝い、心の中で「これでプラスが来るはずだ」と計算する。
善意のふりをした損得勘定。
「こういう人間が一番むずかしい……」タマキチは天を仰いだ。「悪人より手がかかる。悪人は素直じゃから」
『タマキチ神、移動をお願いします。残り時間:四十八時間』
「わかっとる、わかっとる」
タマキチは立ち上がり、作務衣の裾を整えた。渋谷の夜風が、少しだけ優しかった。
「鈴木一郎か……。どんな事情があるんじゃろな」
神様は、夜の東京を歩き始めた。
カルマパッドを腰に差して、眉間に皺を寄せて、でも足取りは少しだけ軽やかに。
運は、今夜も巡っている。
終章 プラスマイナスゼロ
むかし、ある神様が言った。
運とは気持ちの行き来である、と。
物が巡るのではない。気持ちが形を借りて、世界の中を泳いでいる。みかんになったり、百九十円のPayPayポイントになったり、渋谷の駅ホームでのティッシュとみかんになったりしながら。
その総量は、常に一定だ。
失えば補われ、与えれば戻り、計算すれば滞り、忘れて与えれば流れる。
AIにも計算できないのは、人間の「忘れて与える」瞬間である。見返りを考える前に手が動いてしまう、あの一瞬。田中ゆかりがみかんを差し出した、あの瞬間。
それだけが、本物だ。
二〇四七年の東京で、お節介な神様は今日も歩いている。カルマパッドを腰に差して、次の案件へ向かいながら、ふと思う。
ワシはいったい、何回ループさせてもらっているんじゃろか、と。
神様にも、わからないことはある。
ただ一つ、確かなことがある。
運が欲しかったならば——誰かに、何かを差し上げてみると良い。
心があれば、そのものは姿を変え、巡り巡って、戻るかもしれない。
では、まずは——
タマキチは、梅が丘の夜空に向かって、ニヤリと笑った。
「僕に……どーぞ!」
(完)
Amazon Kindle
〜あとがき〜
タマキチ神は今も、どこかの街を歩いている。
カルマパッドには、今日も十数件の未処理案件が積み上がっている。
渋谷のコンビニ。梅が丘の団地。池袋の雑踏。下北沢の古着屋。新宿の地下通路。東京という街は、運の歪みが生まれやすい場所だ。人が多すぎるから。孤独が多すぎるから。
でも、だからこそ。
誰かがみかんを一つ、差し出した瞬間に——街全体が少しだけ、柔らかくなる。
この物語を読んでくださったあなたに、運が巡ってきますように。
そして願わくば、あなたからも誰かへ。

