近日 Kindle 予定作
『21世紀のあなたへ 届かなかった未来と、時効の恋』
ーはじめにー
二十一世紀になれば、世界はもっと輝いていると信じていました。
幼い頃に思い描いた未来には、空を飛ぶ車や、生活を支えてくれるロボットが存在し、人はただ穏やかに生きるだけでよいはずでした。
しかし、実際に辿り着いた現代は、その理想とはどこか違う場所にあります。
便利さの裏で、失われていく心の余裕。
繋がりやすくなったはずなのに、深まらない人と人との距離。
そんな時代の中で、ふと思い出したのは、かつて届いた一通の手紙でした。
それは、二十年の時を越えて届けられた「未来への問い」でした。
そして今、さらに二十年という歳月を経て、私は人生の節目に立っています。
過去は戻りません。
けれど、記憶は消えません。
この物語は、ある一人の男の回想であり、かつて未来を信じていたすべての人へ向けた、小さな記録です。
読み終えたとき、あなたの中に、わずかでも静かな風が残ることを願っています。
第一部:失われた未来
二十一世紀になれば、世界はもっと優しくなると思っていた。
それは、誰かに教えられたわけではない。
ただ、子どもの頃に見た未来図が、そう語っていただけだ。
だが現実は違った。
世界は便利になり、速くなり、繋がりやすくなった。
それでも、人の心はどこか置き去りにされたままだった。
ニュースは絶えず誰かの過ちを告げ、
人は簡単に他人を切り捨てる。
若者は未来を語らない。
語る前に、諦めてしまう。
——何かが、間違っている。
そう思いながらも、その「何か」を掴めないまま、時間だけが過ぎていく。
眠れない夜。
机の引き出しを、私は開けた。
そこにあったのは、かつて捨てたはずの記憶の欠片だった。
擦り切れた一枚の紙。
そして、かすかに残る言葉。
「お元気ですか?」
その一行だけで、時間は巻き戻る。
——まだ、終わっていなかったのか。
第二部:あの頃の光
彼女と出会ったのは、夏の終わりだった。
駅前の喫茶店で、偶然隣に座ったのが最初だった。
特別な出来事は何もなかった。
未来を語り、
笑い、
同じ時間を共有するだけで満たされていた。
「二十一世紀って、きっとすごいよね」
あの頃の私たちは、未来を疑わなかった。
あの日のことを、今でも覚えている。
雨が降っていた。
喫茶店の窓を、細い雨筋がゆっくりと流れていく。
店内には古いジャズがかかっていて、客はまばらだった。
彼女は、いつものように本を持ってきていたが、その日はほとんどページをめくらなかった。
「ねえ」
ふいに、彼女が言った。
「もしさ、未来が思ってたのと違ってたら、どうする?」
私は少し考えてから、肩をすくめた。
「そのとき考えるよ」
「ずるい答え」
彼女は笑ったが、その目は笑っていなかった。
「私はね」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「たぶん、ちゃんと悲しむと思う」
その言葉は、妙に心に残った。
未来は、裏切ることがある。
でも、それを受け止める準備をしている人間と、していない人間がいる。
彼女は、前者だったのだと思う。
私は、そのとき初めて、彼女が自分よりも少しだけ大人であることに気づいた。
違和感は、少しずつ積もっていた。
言葉の端々に、わずかな距離が生まれていた。
沈黙の時間が、以前よりも長くなっていた。
それでも私は、それを見ないふりをしていた。
ある日、帰り道で彼女は立ち止まった。
「ねえ」
呼び止められて振り返ると、彼女は少しだけ困ったような顔をしていた。
「あなた、未来のこと、ちゃんと考えてる?」
私は答えられなかった。
その瞬間、見えない何かが決定的にずれていることだけが、はっきりと分かった。
別れは、静かだった。
「あなたは、このままじゃいけない人だから」
私は、何も聞かなかった。
第三部:時間の手紙
二〇〇一年。
届いた一通の年賀状。
それは、二十年前の彼女からだった。
手紙を開くまでに、少し時間がかかった。
紙の感触が、妙に生々しかった。
二十年という時間を越えてきたはずなのに、
それはまるで「今」書かれたばかりのようだった。
「お元気ですか?」
その一行で、視界がぼやけた。
呼吸を整え、続きを読む。
「そして、そこに私もいますか?」
時間が、止まった。
私は、そこにいなかった。
彼女も、いなかった。
それだけが、はっきりと分かった。
私は、その手紙を捨てた。
第四部:再びの現在
さらに二十年が過ぎた。
還暦を目前にした私は、ようやく理解し始めていた。
人は、すべてを持って進むことはできない。
何かを置いていくことでしか、前に進めない。
だが、それでも——
完全に手放すことなど、本当はできないのだ。
私は考えた。
会いに行くべきか、と。
そして、その答えは静かに決まった。
終章:未来へ
彼女には、会わなかった。
会わないほうが、美しいものがある。
あの手紙の中の彼女。
記憶の中の彼女。
それは、時間に触れられていない、唯一の場所にあった。
私は、あの問いに答える。
「そこに私もいますか?」
——いる。
ずっと。
君は、あの頃のままで。
そして私は、机に向かった。
便箋を取り出し、静かに書き始める。
未来の自分へ。
あるいは、まだ見ぬ誰かへ。
二十一世紀は、思い描いていた未来ではなかった。
それでも。
人は、誰かを想い、言葉を残すことができる。
それだけで、未来は完全に失われたわけではない。
書き終えた手紙を、そっと封じる。
今度は、捨てない。
残す。
届くかどうかではなく、
ここに確かにあったという証として。
夜は静かだった。
それでも——
確かに生きてきた時間だけが、
胸の奥に、わずかな温もりとして残っていた。
私は目を閉じる。
振り返ることはしない。
ただ、抱えたまま、生きていく。
それでいいと思えた。
ーあとがきー
二十一世紀は、もっと優しい未来だと思っていた。
空を飛ぶ車、穏やかな暮らし、満ち足りた時間。
けれど私たちが辿り着いた現実は、どこか違っていた。
そんな時代の中で、ふと届いた一通の手紙。
それは、二十年前に書かれた「未来の自分へ」の言葉だった。
「お元気ですか?
そして、そこに私もいますか?」
かつて愛した人からの問いに、今の自分は何を答えられるのか。
再会しない選択。
それでも消えない記憶。
そして、時間の中に残された想い。
本作は、過ぎ去った時代と、届かなかった未来を静かに見つめる、ひとりの男の回想です。
派手な出来事は何もない。
けれど、誰の心にも確かにある「失われた時間」と「忘れられない人」を描いた、静かな物語。
読み終えたあと、あなたの中にも、ひとつの記憶がそっと息を吹き返すかもしれない。
ーおまけー
これは以前
ブログで書いたものを
物語に仕立てたものです
その時のブログを
そのままここに載せて置きます
2001年のお正月に
実家へと
年賀状に紛れて届いた手紙
差出人は当時の彼女
お袋
何も言わなかったけれど
きっと
まさか お前 まだ? なんて
疑ったかも?
それは
「21世紀のあなたへ 」っていう
20年も前の 郵便局の企画で
2001年の未来のどなたかに
今の気持ちを届けるというもの
お元気ですか?
そして
そこに 私もいますか? って。。。
一瞬にして
連れ戻された時間
叶わなかったけれど
嬉しかった心遣い
ありがとう
ありがとう と呟き
少し迷ったけれど 処分した手紙
そんな日から
更にまた
20年もが過ぎようとしている今日
お互いすでに還暦間近
ならば
あれこれのことは
もうすべてが時効なはずで
取り巻く環境すらも
おそらくすべてが許すはず
ならば
元気な内に
また笑顔でとも思いながら
この人生の中で。。。


