あの日
世界が崩れる直前
青い空に白い煙が昇る
そのわずか数分前

彼らは
時間と存在の隙間に現れる


第1章
位相の影 瞬きの瞬間に

リオン
南棟 78階のフロアを捕捉
ターゲットは… 約150名

アルトの声は
位相フィールドのノイズ混じりで
リオンの耳元に直接響いた

リオンは自身の認識を
現実世界からコンマ数秒ずらした
影の領域へと同期させる

彼の視界には
無邪気にコーヒーをすする男性
デスクで慌ただしく
電話をかける女性
そして窓から外を眺める
まだ若い女性の姿が映っていた

彼らは自分たちの運命が
わずか120秒後に
決定づけられることを知らない

回収を開始する
アルト
転送座標の調整をお願い

リオンは
ターゲットたちへと意識を向けた

彼の能力は
対象の肉体と意識を
瞬時に身代わりの残像 
ダミーとすり替えること

そのダミーは
次の瞬間に訪れる衝撃によって
現実世界に
彼らが亡くなったという
確たる観測事実を刻みつける

リオンは窓辺に立つ若い女性の
その澄んだ瞳に
引き込まれそうになるのをこらえた

彼女の瞳には
まだ見ぬ未来への希望が
映っているように見えたからだ

リオン
時間がない 90秒

アルトの冷静な声が
彼を現実に引き戻す。

分かってる
転送準備 完了!

リオンが
自身の能力を発動させた瞬間

え…?

窓辺に立っていた女性ミナは
何が起きたのか理解できなかった

一瞬
世界が白く染まったかと思うと
次の瞬間には
彼女は別の場所に立っていた

そこは
オフィスではなく、
広大な見たこともない色彩の花々が咲き乱れる草原だった

ここは…?

ミナの問いに答える者はいない
ただ彼女の周りには
同じように困惑した表情を浮かべる数多くの人々が立っていた

第2章
エデン・セカンド 二つの月の下で

リオン
今回の任務も無事完了だね!

エデン・セカンドの
母船へと戻ったアルトは
ホログラムディスプレイを
操作しながらリオンに話しかけた

ああ 153名
あの女性も救えた

リオンは
ミナの姿を思い浮かべながら
窓外に広がる二つの月が浮かぶ
夜空を見つめた

彼らは
時の回収者
クロノ・サルベージャー

歴史の因果律を守りながら
不慮の事故や災害から命を救い出す特殊任務を帯びた存在だ

彼女 ミナって言うんだって
まだ20代半ばだった

アルトは
ミナの情報を確認しながら
リオンに伝えた

そうか…

リオンは
ミナの瞳に映っていた
未来への希望を思い出していた
この星 エデン・セカンドで
彼女はどんな未来を
築いていくのだろうと…

数日後
エデン・セカンドの居住区で
リオンはミナと再会した

あ あの あの時
私を助けてくれたのは
あなたですか?

ミナはリオンに近づき
声を掛けた

私は ただの 回収者です
リオンは無愛想に答えた

彼にとって
救出した人々との接触は
極力避けるべきことだった

彼らは地球の歴史から切り離された存在であり
回収者である彼自身も
彼らの生活に干渉してはならない

でもあの時 一瞬だけ
あなたの姿が
見えたような気がして…

ミナは
リオンの言葉を気に留める様子もなく続けた

私 ずっと怖かったんです
あのまま死んでしまうんだって…

でもあなたが…
あなたが助けてくれたから
今 私はこうして生きている
ありがとうございます

ミナの瞳には
感謝の涙が浮かんでいた

リオンはミナの涙を見て
胸が締め付けられるような感覚を覚えた

彼にとって
救出は 任務であり
救出した人々の感情に触れることは今まで避けてきたことだった

キミが無事で良かった
リオンは不器用ながらも
ミナに言葉を返した

その日からリオンは
ミナのことが気になり始めた
居住区で彼女の姿を見かけるたびに胸が高鳴るのを感じた

第3章
禁断の恋 そして未来へ

アルトは
リオンの変化に気づいていた

リオン
彼女のことは
あまり深く考えない方がいい

ある日
アルトはリオンに忠告した

分かってる でも…
リオンは
自分の気持ちを
抑えることができなかった

ある夜
リオンはミナを連れて
居住区から離れた静かな森へと向かった

わあ…きれい…

ミナは
二つの月が照らす森の景色に
歓声を上げた

キミに話したいことがある

リオンは
ミナに自身の正体
そしてエデン・セカンドの真実を
打ち明けた

私たちは地球の歴史では
亡くなったことになっている

だから
二度と地球に戻ることは出来ない
この星で
ただ静かに生きることが
私たちの運命なんだ

ミナは
リオンの言葉を静かに聞いていた

そうだったんですね

ミナは
少し寂しそうな表情を浮かべたが
すぐに笑顔を取り戻した

でも私はこの星が好きです
二つの月も
見たこともない花も…

そして
私を助けてくれた
あなたがいるこの星が…

ミナは
リオンの目を見つめながら続けた

私 あなたと一緒なら
この星で
幸せに生きていける気がします

ミナの言葉に
リオンは胸がいっぱいになった

私も君と一緒にいたい
リオンはミナを抱きしめた

二人は禁断の恋に落ちた

回収者と
回収された人々
彼らの恋は
決して許されるものではなかった

しかし
彼らはその事実を知りながらも
互いに惹かれ合っていった


数年後…
エデン・セカンドには
新しい命が誕生していた

リオンとミナの間に生まれた子供

この子の名前は アオ にしよう!

あの日 見上げた
あの青い空のように
澄んだ心を持った子になるように…

ミナはアオを抱きながら
幸せそうに笑った

リオンはアオの寝顔を見つめながら夜空を見上げた

かつて
地球の空に白い煙が昇ったあの日

彼らは歴史の激流から
零れ落ちるはずだった命を
密かに掬い上げた

そして今
その命は
銀河の彼方 エデン・セカンドで
新しい未来を築き始めている

彼らの物語は まだ終わらない

地球がいつか争いを克服し
自分たちの住む星まで
会いに来てくれる日を
彼らは数千年のスパンで待っている

任務完了!
次のターゲット
20XX年…

アルトの声が母船へと響く

リオンは
アオとミナに別れを告げ
また次の救いの為に
青い惑星へと降下して行った

その胸には
ミナの笑顔
そしてアオの澄んだ瞳が
いつまでも温かく刻まれていた