すれ違いざま
あなた! って
とても綺麗な女性が振り返った

えっ? 僕? って
立ち止まった

そう
あなたよ! って
彼女は微笑んでいる

見れば
セーラだ!

あの頃
大好きだった
セーラロウエルだ!



あなたを探していたと
抱き付かれたけれど

そんな覚えはないが
ドサクサに紛れて
抱き返した僕

どうして僕が? と問うと

約束したじゃない? と返る

えっ?
何だっけ? と訊くと

もう! って
膨れた顔をして

つきあって! って
言ったじゃない?

そうだ
憧れは 
あまりにも遠い存在だったから
届くはずのない言葉を
放ったことは確かだけれど
まさか
それが現実になろうとはと
驚いている僕

しかし
どうして僕で? と問うと

そんなこと
フィーリングでしょ! と
笑っている

いつかの
三越の屋上での会で
握手をして貰い
それだけで嬉しかった遠い存在

あたしね
もうこの世界を
辞めることにしたの

だから
一緒にいて? なんて

もちろん 
望むことだけれど
あまりにも
釣り合わない関係

そんなことは
重々 承知の上

でも
僕ではキミを幸せに出来ない
だから
もっと良い男を探してと
返してしまった

すると彼女はうつむいたまま
駆けて行ってしまった

そんな日から
数年して
彼女は突然 この世を去り

ある晩
僕の枕元に立って
待ってるのよ! と微笑んだ

どこで? と問うと

どこが良い? と返る

もしも
戻れたならば
あの日の日本橋
三越の屋上かなと笑うと

そうね
あの日はお互い
まだ19だったものね

あの日に戻って
2人で逃げちゃいましょうか? と
微笑んでいるが
そんなはずはない

いや
その瞬間
そこは45年も前の
三越の屋上

僕は
無理に誘った仲間たちと
ドキドキしながら
彼女の登場を待っている

彼女は妖精のように現れ
あまりの美しさに
見惚れている僕たち


レイニイボーイを歌うと
さあ
握手会だ

さほど多くのファンはなく
大袈裟に喜んでいるのは
僕らだけ

さあ
僕の番だ

何て言えば良い?

こんにちは! かな
それとも
嬉しいです! かな

いや
いっそ
つきあって! が良い

おや?
これだ!
この言葉だ!

彼女は微笑んで
ほら!
つきあって! って言ったでしょ?
と微笑んでいる

直後
場面はまた
フリダシに戻って

その後
同じ映像が
何度も何度も
ループして回っている

僕は
いつの間にか
その姿を
外から他人の目で見ている

その中の僕は
まだまだ戸惑っている

あいつ
バカだなあ
奪って逃げたら良いのにと
笑いながら目が覚めた


そういえば
先日
久々に出掛けた日本橋三越

さださんの展示会だったけれど
そうだ
屋上へ寄ってみようと
ひとり
あの日の姿を追ってみた





でも
そこは多くの植物が植え込まれ
すべてが変わってしまっていて
記憶の場所は一切残っていない

なるほど
あれからもう45年もかと
ベンチに座り
周囲を見渡してみただけ…


彼女は今
シアトルで眠っているそうだ

シアトルならばと
思ってみるが
もうアメリカは遠くなってしまった