思い出そうとしても
いつも霧掛かってしまい
その表情すら
もう思い出せないと
諦めていた彼女が
突然 夢に現れ
さよなら って微笑む
今朝は
それで飛び起きた
昨日
ベスパの落書きを描いたからか
まさか! と思うが
何も出来るはずはなく
ただの夢かと
それでも目頭が熱くなった
さて
時はあの頃
場所は渋谷の裏の方
地方から出て来た友達と
古いボロアパートで
暮らしていた頃
先輩が尋ねて来て
そろそろ田舎へ帰るから
誰かこのベスパをと言う
ならばもちろん
僕に! と言ったけれど
おいくら? と
いや
キミにならば
カネは要らない
大事にしてくれ! なんて
えっ?
でもそれでは…
良いんだよ
持って帰ることは出来ないし
これもまたボロボロだから
直し直しで
少々 掛かるからねと
そんなわけで
手に入れた白い2人乗りの
古いベスパ
先輩は
その翌週
卒業と同時に帰って行った
そんなベスパは
やはり
早速 壊れて
仕方なくも修理へと
その店は遠く
環八沿いの古いバイクばかりが並ぶ
そんな店
こんちは! って入ると
中から
それは厄介そうなオヤジが現れて
ぶっきらぼうに
なに? って
カクカクシカジカでと話すと
今 忙しいから
すぐ出来ねーよ! と
これまた面倒そうな対応
そうですか
そしたら急がないので
置いてきますと言うと
いつ出来るかわかんねーよ
それで良けりゃ
そこいらへんに
置いてきな と
これまたぶっきらぼうな口調
ではとお願いして
待つこと1ヶ月
出来たよ
邪魔だから早く取り来てと
連絡を受け
急いで出掛けると
これまた
面倒そうな客ばかりが
たむろしている
ありがとうございます
で
おいくらですか? と問うと
カネ?
要らねーよ
簡単だったからな
それより
これは 〇〇くんのだろう?
おまえ 大事に乗れよ と微笑む
そう
その先輩もまた
ここでお世話になってたらしい
ありがとうございました
ではまたと
帰ろうとすると
おい
ちょっと待て
お前
時間あるか?
はい
少しなら
じゃあ
このネエちゃんを
西荻まで乗っけってってくれ
えっ? と振り返ると
同い年くらいの娘がそこにいて
どうやらバイクの修理に来て
そのバイクを置いてくから
帰りをどうしようかと
考えてたらしい
ちょいと迷ったけれど
タダで直して貰ったし
これは断れないと
良いですよ
僕で良ければと
すると
ありがとうと微笑んで
その娘は僕の後ろに跨り
環八を西荻までの道
まさか自宅まではと思い
どこか近くでと言うと
じゃあ
そこの喫茶店でと言う
オッケー! とそこで降ろすと
せっかくだから
お礼にお茶でもと微笑んでいる
なんだか気が合いそうなので
ではと
その喫茶店へ
いつの間にか
意気投合して長居
あれ
まさか
惚れた? なんて
それから何度か会って
気が付けば
彼女となり
週に何度もの西荻までは
このベスパが超特急
でも
春はそうは続かない
ある日突然
彼女は田舎へ帰ると言い
多くを話すことなく
僕の前から消えて行った
そう
同い年というのは
譲ることなくぶつかって
いつも
喧嘩ばかり
更には
若さゆえ
後ろ髪引かれながらも
振り返ることなく
引きちぎった後悔
なぜもっと
優しく出来なかったのかと
今頃
気が付いても
遥か45年も前のこと
春から
夏を越え
秋風を乗り越えたけれど
クリスマスまでは
間に合わなかった季節
2人乗りのベスパは
また
1人となって
時折 修理にと出掛けると
残念だったな! と
店のオヤジは
笑って誤魔化してくれた
そのベスパは
僕の卒業と共に
また後輩へと置いて来た
彼にもまた
そんな出会いがあることを
願いながら…


