お中元に
さくらんぼが届くと
やあ! 元気?
いつもありがとう! と
電話を掛ける



あいつが山形へと帰って
もう35年

月日が経つのはあまりにも早く
そろそろまた
会いたいとも思うが
なかなかそれも叶わない

渋谷公会堂の裏手の
日の当たらない
それはそれは古いアパートで
大きな夢を見てた頃

背格好が同じだったあいつの
洒落たブランド物の服を
そ〜っと借り
毎晩 ディスコへと潜り込んだ

あの頃のお前は!
いや お前ほど! なんて
長電話の内容は
いつもそんな 
マブダチ中のマブダチ

渋谷はすっかり変わってしまい
あの頃
目をつぶっても歩けたほど
知り尽くした街は
もう別の街と化し

おい
渋谷で
まさかの迷子だ と笑うことばかり

たまには呑みに来ないか? と
いつも誘うが
カミさんを失い 男手ひとつ
長い時間が過ぎてしまった

ならば
次回
渋谷をうろうろする時
変わってしまった街の
映像でも撮って送るよと…



昨日の渋谷
真っ先に向かったのは
そう
僕らが暮らしたアパート

東急ハンズを越し
毎日毎日
そればかりを食べた
吉野家はなく
反対側の
映像スタジオもなく

それでも
ここだったよな
と分かるから不思議だ

しばらくは更地や
駐車場となっていたけれど
すでに工事が始まり
訊けば 劇場を作っているという

現場の方々に
45年前
あの辺りに
住んでたんですよと話すと

大きく微笑んで
これまた長話

あの頃
渋谷は
こんなに混んでなかったのに
今では
多くの外国人と
地方から選ばれし
見掛けの良い若者たちばかり 

ぶらりすれば
姿を変えた中にも

わずかに残る懐かしい場所で

ひとり黄昏れる




彼女にフラれ

泣き崩れた
宮下公園は複合ビルへと姿を変え

駅前にあって
有名人たちで賑わった
先輩のタバコ屋もない



毎日
溜まったスナックも
ビルごと閉じたまま朽ちて
そこだけ取り残された感は
返って安心させてくれる

また
そのスナックの看板娘へと
デートする権利を競い
あいつらと賭けをした
バッティングセンターもない

その権利を勝ち取り
出掛けたプラネタリウムも

あの日
優作さんが居たはずの
壁画の通りも
すべてが変わり
あのパルコすら
建て替えてしまい


ハチ公すら

わずかに場所を変えてしまった


仕方なくも

もうすぐ半世紀



戻りたい時がありますか?
僕は
紛れもなくあの頃で

若さとは身勝手なもので
渋谷は
僕らの街だったなんて
斜に構えながら
大袈裟なことを
本気で思っていたのかもしれない


The time when it was Shibuya 

is too far away




還暦をも越すと

やはり

今 会えるのならば

今 会わねばとも思う


そろそろまた

出掛けてみようか

35年前の夏に出掛け

暑過ぎて懲りた

山形の あいつの街へ

今では渋谷の方が

暑いかもしれないけれど…