僕の机には
デロリアンが3台
いつも並んでいる

それから
マーティも…



その映画を初めて観たのは
封切りされたばかりの
LA郊外の古い映画館だった

留学していた彼女を追い掛け
辿り着いたそこには
心離れてしまった彼女と
彼氏らしき白人がいた

なるほど
言葉足らずはそんなことかと
諦めるには
わずか数秒しか掛からず

言い訳する彼女に振り返ることなく
さよなら って言い放ち
その街をひとり
ぶらりすることにした

留学を引き止めなかったのは
引き止められなかったのは
僕のせい

今頃
引き止めて欲しかったと
叫んだのはキミのせい

いずれにせよ
周囲の渦に呑み込まれた
そんな運命は
後ろ髪引かれながらも
突き進んだあの日

最後となった手紙には
今 こちらでは
こんな映画が流行って
きっと好きかもね なんて
書いてあった

そんなことを思い出して
ならばと
ひとり入った映画館

マーティはデロリアンで
過去にも未来にも行く

ならばそのデロリアンで
僕もあの日に戻してくれと
願いながらも
戻らぬ時間

別れってもんは
突然 訪れて
その余波はいつまでも残る

あれから40年
だから
今があるらしい


さて
時折まだ
夢に現れるあの日のこと

デロリアンは
僕とアインシュタインとを乗せて
過去へ未来へと
飛び回っている

けれど
夢から覚めた直後
その多くも消え去って
ほとんどを覚えていない

しかし
不思議かな
あの日の彼女が現れたことはなく

また
映画の中での登場人物たちも
現れない

そう
いつもアインシュタインと2人

そのアインシュタインが
昨晩は
なんと ぱふだった

そうだ
やっと来た
やっと現れた相棒

そんな話…


場所はあの時計台
雷が落ちる瞬間
デロリアンを走らせ
未来へと戻る場面

隣には ぱふがいて
その未来は今ではなく
コンピュータのミスで
1年ほど先となってしまった

辿り着いた我が家の
そのリビングには
なんと ぱふの祭壇があって

どうしたのか? と尋ねると
突然の病でと
カミさんは悲しんでいる

けれど
ここには過去から戻った
僕とぱふがいる

ならば
半年ほど戻れたならば
間に合うはずだと
デロリアンへと乗り込むけれど

もうそのタイムマシンは
動くことなく
ボロボロ状態

でも
今ここに
2人が存在しているのだから
このままで良いのだろうと
思っていると
ぱふの姿が消え掛かっている

それでは
無理しても過去へと戻らねばと
その動かないデロリアンを
山の上へと運び
雷の日を待ち
急な坂の峠道から下り出した

すると
コーナーを曲がりきれず
崖から落ちる瞬間
雷に打たれ
過去へ… って場面で
目が覚めてしまった


僕の中では
今だにこれを越える映画はなく

すでにDVDはそこにあり
いつでも観ることが出来る

それでも
もうそれを観ることはなく
時折
テレビで放映されているものを
偶然 見掛けてのめり込む

すれば
やはり
あの日のことをが頭をよぎり

ひとり
苦笑いなどしながら
今を
それらがあっての今を
正当化などして
振り返ることが
また楽しみと化したようだ

お互い
すでに還暦を越し
元気ならば
きっとどこかで
イカしたババアになってるはずと
わずかに微笑んでみる

いつか
違う夢の中で
会いたいですか? と
誰かに尋ねられたことがある

会えるならば
会ってみたいと答えたけれど

思い出は思い出のまま
お互い
老いた現実を知らない方が良いと
断ったのもまた
夢の中だった…


昨日
届いたキミからの手紙は
1週間も前のキミの気持ちで

すぐに折り返した
僕の気持ちが届くのもまた
更に1週間も先

そんな時代に
呑み込まれすれ違った運命は
取り戻せるはずもなく
その時代の中に消えていく

今ならば
手のひらの中の
スマホという小さな箱で
そんな時間を埋めることが出来る

未来は今よりずっと良いと
いつぞやか
誰かが言ってたけれど

あの頃
やっと取れた連絡を
大切に思えた約束事は
即座に繋がる今
もう
軽くなってしまったのかも
しれない

それは
果たして幸せなのだろうか…


ただし

すべての過去は

ひとつ残らず今に繋がっていて

あの日があって

今がある



なあ ぱふ

いつか僕の時間の中で

タイムマシンが出来たならば

真っ先に

オマエを救いに向かおうと思う


そしたら2人で

時空を旅して回ろう