村上春樹さんの小説の中に
時折 出没するこの店は
その物語の中では
かなり大事な場所でもあって
若者たちを包み込む
JAY という名の中国人のマスタ~がいる
そんな小説の中では
すべてが格好良く進行していくわけだけれども
僕らのガキの頃には
なかなかどうして
毎度 突き当たる壁に
右へ逃げたり
左へ折れたり
いやいや
後ろへと引き下がることの方が多かったわけで
そんな僕らの青春の中にも
名前は違えど
その
J’S BAR は存在した
細い階段を
薄暗い階段を
足元を確かめながら下りて行くと
その文房具屋さんの地下には
古くて天井の低い
僕らの溜まり場があって
JAY ではないが
年老いてはいたが 優しいマスタ~と
アルバイトの
福島なまりの そりゃあ~綺麗な看板娘
奥には
インベ~ダ~ゲ~ムがあったけれど
大好きだったのは
その入り口付近に置かれた
古いモノラルのジュ~クボックスと
僕らよりも3つ年上の
その
皆が憧れた看板娘 サワコねえちゃん
場所は渋谷
明治通りに面した宮下公園の向かい側
名前は
スナック エイト
そして
いつぞやか
僕らは正々堂々と
その恋のレ~スのスタ~トラインに並んでいた
良い時代だった
そう
この人生に於いて
とても良い風が吹いていた
結局
授業をさぼってまで通った
イケメンのあいつが彼女を射止め
僕らは仕方なくも涙ぐんだ中で
でも
負けは負けだと
祝杯を挙げながら
笑顔は次の機会にと
素直に諦められた
そんな
70年代の終わりに
そんなそんな
居心地の良い 夢を見た
そして
長い長い時は過ぎ
先週
久々に訪れてみたその場所には
もう その店があるはずもなく
すでにそこだけ廃墟化してしまったビル
それでも地下へと通じる その階段だけが
ひっそりと降ろされたシャッタ~の中にあることを確認などして
あ~~~ っと
ひとつ
溜息をついた
すぐ道路向かいにあったはずの
僕らが勝負したバッティングセンタ~もなく
向かい側の宮下公園すらもない
時はすでに40年もが流れ
そこにいた すべての人は入れ替わり
そして
今も
時は流れ続けている
そう
今も いずれ過去となって
また こうして
どなたかが 懐かしく今を
未来で語るのだろう
あの頃
目をつぶっても歩けたほど
知り尽くした渋谷の街は
哀しきかな
もう ひとつもわからない街へと
変わってしまった


