養蚕農家にお邪魔しました! | 世界の切れっ端

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〜ひっそりと生息中@TOKYO〜

「5845万4000円という、英国の造船所に支払った金は、生糸を売った金ではありません。
 貧しい日本人が、爪に火をともすようにしてためた金です」

 

というのは「坂の上の雲」に出てくるセリフ。

 

単に生糸を輸出して稼いだ金ではなく、国を守るために日本国民の血税から捻出して買ったんだという意味だけど、明治時代当時、いかに生糸は日本が外貨を得る重要な手段だったかよくわかる一コマ。

 

世界遺産にも登録された「富岡製糸場」に表される通り、養蚕業は第二次世界大戦後まで日本経済を支えた一大産業。

ところが、かつて全国に200万戸あった養蚕農家は、現在では200戸まで激減し、斜陽産業になってしまった。

「お蚕(かいこ)様」と呼ばれた蚕たち、私も実際、お目にかかったことがない。

 

絹織物は中国の殷周時代(紀元前4000年!)から見つかっており、日本には弥生時代に伝わったそうな。

中央アジアのソグディアナでも養蚕業の歴史は古く、数千年前から作られていたのではと言われている。

 

まさにシルクロードの主役だった、絹。

21世紀はどんな風に生産されているのか?

 

ということで、養蚕農家さんを訪問!

 

タシケントから南に車で1時間半。

まだ5月なのに最高気温35度でめっっっちゃくちゃ暑い。

 

桑が並んで生えている道をひたすら走る。

どの桑も枝が見頃に切り取られていて、全然街路樹の役割を果たしていない。。(写真撮るの忘れちゃった)

 

ようやく到着。

 

⇩大きな門構え。大体どの家もこんな感じ。

 

 

一般的に、門の内側は「ロの字」型になっており、果樹や畑がある中庭を囲んで周りを部屋が並ぶ。奥には家畜小屋があり、大体牛や羊、鶏が飼われている。

 

 

⇩ぶどうの木。中央アジアだねぇ。

 

 

⇩ここのご家庭は中庭で玉ねぎやグリーンハウスを使った野菜栽培を行っている。もちろん牛もいるのでヨーグルトも手作り。

 

 

⇩お蚕様の大事なご飯となる桑の枝を取ってきて準備する女性たち。蚕の世話は大体女性の仕事。

 

 

 

同行させて頂いた養蚕専門家の方曰く、蚕の量が多過ぎる、とのこと。

どこの農家でも部屋が暑いし、蚕がぎっちぎちに鮨詰め状態になっているため、体の大きさがまちまち。つまり桑の葉の摂取量に差が出ているので、成長もそれだけ異なってくる。

その他、指摘事項いろいろ・・・。

 

今や産業の主役ではなくなったものの、世界最高峰の養蚕技術を持つ日本が技術指導する必要性は非常に高い。

 

 

 

※ここから先、虫の写真に注意。苦手な人はお戻りください。

 

 

 

 

 

⇩部屋の一室がお蚕様用。

 

この桑の枝にびっちり付いている白い物体が全部お蚕様。

 

 

お食事の時間だったので、カサカサッ!カサカサッ!

 

最初見た時、「ヴゥエエエエ」ってなったけど、

 

でも一心不乱に「おおりゃあああああああ!!!」って桑の葉を食べてる姿に見慣れてくると、

「あれ?ちょっと可愛いかも…」ってなるので不思議。

 

 

そりゃもう皆様、食欲旺盛で召し上がっておられました。

自分の体の何倍もある葉を何枚も食べるお蚕様たち。

比率だけで考えると、大食い選手権でお蚕様は優勝間違いなし。

人間なんてもう「あら少食ね、ぷぷぷ」って感じかもしれません。。

 

 

入れ食い状態の写真がこちら(※アップ注意)

 

 

 

 

時々上半身をぴょこっと上げたまま全く動かない子がちらほらいるのは、脱皮前だから。

孵化してから4回脱皮を繰り返す。

その間、食べて、寝て、食べて、寝て・・・をひたすら繰り返す。休みの日の私じゃないか。

 

 

専門家の人が仰ってた。

「私ね、蚕の研究を始めてから思ったの。”あ、蚕って虫じゃないんだ。家畜なんだ”って。」

 

カイコガは人間により家畜化されてから、良質の糸を出すよう、この数千年の間に品種改良が続けられた。

その結果、孵化しても、飛べない体になってしまった。

そもそも、繭になった状態で人間に茹でられてしまうので、蚕たちは羽ばたく夢を見ながら繭の中で永遠の眠りにつく。

 

 

そうやって何千、何万もの命の上に成り立つ絹織物。

ウズベキスタンは世界第三位の生産量を誇る・・・と言っても、全体の2〜3%で、ダントツ一位は中国で80%以上、続いてインドが15%くらい。

現ウズベク政府は、ソ連崩壊後一旦傾いた養蚕業を再度輸出産業として隆盛させるべく、補助金を投入しまくって拡大を狙っている。

 

いつか大空に羽ばたくんだという本能で、一生懸命葉を食べ、一生懸命繭を作る蚕たち。

小さい体から、命の限り生きてるって感じがする。

 

せめてウズベキスタンから世界に羽ばたいた絹織物は、手に取った人に一生大事にして貰いたいなぁ。