12月24日は、クリスマス・イヴ。この日は、米国の富豪、ハワード・ヒューズが生まれた日(1905年)だが、脚本家、北川悦吏子の誕生日でもある。
自分が北川悦吏子という名前を知ったのは、木村拓哉と山口智子が主演した「ロングバケーション」というテレビドラマの作者としてで、当時彼女はすでに大家だった。
北川悦吏子は、1961年、岐阜の美濃加茂市で生まれた。大学を卒業した後、広告会社、撮影所勤務をへて、28歳の年にテレビ番組「赤い殺意の館」の脚本でデビュー。
31歳のころ、中森明菜と安田成美が主演したドラマ「あすなろ白書」を書き、彼女は一気に有名になった。そして34歳のときに「ロングバケーション」。木村拓哉が天才ピアニストを演じたこの番組の影響で、ピアノを習いだす男性が続出したという。
38歳のときに「ビューティフルライフ」。下半身不随の車椅子生活をする女性役を常盤貴子が、その恋人役の美容師役を木村拓哉が演じて、これもまた大ヒットした。
44歳のときに「たったひとつの恋」を発表。綾瀬はるかが、骨髄移植をした良家の娘を、その恋人の貧しい鉄工所の跡取り息子役を亀梨和也が演じた。
北川は「恋愛ドラマの神さま」と呼ばれるヒット番組作りの名人である。
自分はあまりテレビを見ないのだけれど、「ロングバケーション」「ビューティフルライフ」「たったひとつの恋」の何回かは見た。習慣的に見ていない自分でさえ、ついつい引き込まれてしまった。とくに悲恋もの「ビューティフルライフ」の最終回は泣けた。北川作品はたいてい美男美女の恋愛劇で、絵空ごと、夢の話のようなのだけれど、その一方で、地に足がついたリアルさがある、不思議な作品だった。
ドラマ「ロングバケーション」の最終回は、よく覚えている。最終回が放送された翌日、ラジオを聴いていたら、女性のDJが、開口一番こう言ったのだ。
「みなさん、昨夜のロンバケの最終回、見ましたぁ?」
あの番組の最終回では、ピアニストの木村拓哉がなにかのコンテストで優勝して、ヨーロッパへ行くことになるのだけれど、そのとき、木村拓哉が、恋人の山口智子に、いっしょについてきてほしいと、告げる。それに対し、山口智子がどう答えるのか? というと、彼女はなにも答えない。意味深長な顔つきで、黙ったきりでいる。すると、じれた木村拓哉が彼女を抱きしめて、
「なにも答えないんなら、キスしちゃうぞ」
とかなんとか言っていた(と思う)。そのくだりについて、ラジオの女性DJが、
「そうかあ、と思いましたね。ああいうときは、ああいうタメが大事なんだぁ、と」
それを聴いて、自分は、世のなかの人々の、北川作品の受け止め方が、ようやくすこしわかったのだった。
「ビューティフルライフ」制作のころ、北川は治療困難な難病を発症し、闘病しながらの脚本執筆だったらしい。彼女はまた、50歳のころ、聴神経腫瘍にかかり、左耳が聞こえず、ずっと耳鳴りがしている状態だという。もともと腎臓も悪かった。
困難を抱えながら、それをマイナスととるのでなく、仕事へのプラスアルファとして、恋愛ドラマを彼女は書いてきた。あの、夢のような話のなかにあった、リアリティーは、そういう闘いから来ていたのだと、自分は最近ようやく気づき、彼女のたくましい脚本家魂に頭が下がる思いがした。メリークリスマス。
(2013年12月24日)
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