12月16日は「楽聖」ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1770年に洗礼を受けた日である(ベートーヴェンは、洗礼日の記録はあるが、誕生日は記録がないらしい)。そしてこの日はまた、女優、夏目雅子さんの誕生日でもある。
自分は若いころ、まわりにいた友人たちと同様、夏目雅子さんに熱烈にあこがれた。彼女が面積のとてもすくない水着をつけて駆ける姿の「クッキーフェイス」のポスターを友人がもっていて、ほんとうにうらやましかった。
夏目雅子さんは、1957年、東京で生まれた。誕生時の本名は、小達雅子。彼女の家は、徳川将軍家の御典医の家系で、彼女の父親は貿易商で、家は輸入雑貨屋をしていた。彼女は、3人きょうだいのまんなかで、兄と弟にはさまれた紅一点だった。
短大生だった19歳のころ、コマーシャルに出演して、大学を中退。その翌年、カネボウ化粧品のキャンペーンガールとなり、「クッキーフェイス」のコマーシャルに登場。夏目雅子として一躍、日本を代表する美人モデルとなった。
その後、女優業へ進出し、映画「鬼龍院花子の生涯」「時代屋の女房」「瀬戸内少年野球団」に出演した後、1985年9月、白血病のため入院していた東京の病院で没した。27歳だった。美人薄命と騒がれた。
自分の学生時代、夏目雅子さんがどこかのインタビューで、こう答えていた。
「好きな男性のタイプですか? 薔薇という漢字(「憂鬱」だったかもしれない)をすらすら書けたり、喫茶店のお勘定をすぐに計算できたりする人が好きです」
自分はあわてて字を書く練習をした。
夏目雅子さんは、「クッキーフェイス」の撮影時に知り合っていた伊集院静氏と不倫の恋愛関係をへた後に結婚した。伊集院氏は、夏目さんにはげまされて、小説を書き、直木賞をとった。漢字が書ける人というのは、彼のことなのだろう。
夏目雅子さんが、肌の露出の多い「クッキーフェイス」のコマーシャルに出演したとき、10歳年下の弟さんが怒り、彼女は家の階段の上から弟に蹴落とされたことがあると、以前彼女が語っていた。
伊集院静が、雑誌のインタビューで、こういう意味をことを言っていた。
「女優と結婚した男は、ただそれだけの理由で、同性からひどく憎まれる」
自分は、夏目雅子さんの弟さんの気持ちも、伊集院氏を憎む男性の気持ちも、とてもよくわかる。男の嫉妬は醜いとは、よく承知しているけれど。
夏目雅子さんが亡くなった後に発売された写真集を、自分は買ったことがある。それに彼女の俳句が載っていた。彼女の俳句は、とてもしゃれていて素敵で、驚いた。軽やかなウィットが、きらめいていた。よく覚えているのは、つぎの四句である。
「結婚は夢の続きやひな祭り
水中花何想う水の中
風鈴よ自分で揺れて踊ってみたまえ
恋猫やなおやかに泣く間夫の宿」
俳句を読んで、自分ははじめて、夏目雅子という人間性に、はじめてすこしだけ触れた気がした。それまでは、彼女の外見だけを見て、ただ阿呆のようにあこがれていたのだった。もっと長生きして、いろいろな面を見せてほしかった。
(2013年12月17日)
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