9月27日は、サッカーの小野伸二選手が生まれた日(1979年)だが、米国の心理学者、アルバート・エリスの誕生日でもある。
エリス博士は論理療法の権威で、自分がとても尊敬している心理学者のひとりである。自分は博士が89歳のときにテレビ番組に出演していたのを見た。折れそうに細い、きゃしゃなからだながら、高齢者らしからぬ、元気なはきはきしたしゃべり方でインタビューに応じていたのが印象的だった。
アルバート・エリスは、1913年、ペンシルベニア州ピッツバーグで生まれた。ユダヤ系の家庭で、父親は出張の多いビジネスマンだった。
アルバートは病気がちの子どもで、5歳から7歳のあいだに、腎臓病や扁桃炎、あるいは細菌感染のために8回入院し、そのうちの一回の入院は1年近くの長きにわたった。彼の両親はどちらも子どもに対して愛情を見せることがすくなく、めったに病室に顔を出さなかったという。
青年時代、女性に対しててとも恥ずかしがり屋だったアルバートは、自分に対する行動心理学的処方として自分に、ひと月のあいだに百人の女性に声をかけるという課題を課し、それやり遂げた。ひとりとしてデートに応じてくれる女性はいなかったが、彼の女性恐怖症の傾向はだいぶ減じられた。
21歳で、ニューヨーク市立大学を卒業したアルバート・エリスは、34歳のとき、コロンビア大学で臨床心理学の博士号を得た。
博士となったエリスは、その後、精神分析の訓練を受け、心理カウンセラーをしていたが、精神分析の方法論にいい効果を見出せなかった。
そこで彼は、42歳のころ、独自の論理療法(Rational Therapy)を考案。46歳のとき、ニューヨーク州にアルバート・エリス研究所を設立し、神経症やコンプレックス、恐怖症など、さまざまな心的問題を抱える人々の治療にあたった。
90歳を越えてもなお、本の執筆、後進の指導、クライエント(来談者、client)との治療などで一日16時間働いていたエリス博士は、92歳のときに肺炎を起こし、病院とリハビリ施設を行ったり来たりする生活をしていたが、2007年7月、ニューヨークのアルバート・エリス研究所の上の階にある自宅で没した。93歳だった。
自分は、四千円近くするエリス博士の著書『論理療法』を買って読み、いまも持っている。さすが「論理療法」で、ひじょうにもっともなことが書いてある。誰もが読めば、おっしゃる通り、と考えるだろうことばかりである。けれど、この「もっとも」なことが、人間はなかなか行動に移せない。
博士の研究所では、なにかの恐怖症をもったクライエントに対して、こういう体験をさせていた。バナナを腰にぶらさげて通りを歩くとか、地下鉄に乗って、大声で「つぎは42番ストリートです」と大きな声で言うとか。クライエントは最初、
「そんなこと、恥ずかしくてできない」
と思う。でも、仕方なく言われた通りやってみる。すると、なんでもなかったりする。まわりの人も、おや、とちょっとこちらを見たりするが、それだけである。気にもとめない人もいる。
そういう体験を積んで、いままでは自分が自意識過剰だっただけで、自分で自分をしばっていただけなのだ、自分はもっと自由にふるまっていいのだという、頭では理解できる論理的思考を、行動実験によって裏付け、恐怖心を取り除いていこうとするのである。
劇団の俳優などが、舞台度胸をつけるために、通りなどで大声でなにかしゃべったり、演技したりするのと通じるかもしれない。
自分も、バナナをぶらさげて歩かなくては、と思うことは多い。
(2013年9月27日)
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