7/16・「ことばの魔術師」松本隆 | papirow(ぱぴろう)のブログ

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7月16日は、南極点に到達した探検家、アムンゼンが生まれた日(1872年)だが、作詞家、松本隆の誕生日でもある。
松本隆は、松田聖子の全盛期の作詞家である。「白いパラソル」「風立ちぬ」「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」「秘密の花園」「制服」など、ヒット曲の歌詞を書き、松田聖子の或るイメージを創り上げた。山口百恵の顔を作ったのが篠山紀信なら、松田聖子のキャラクターを作ったのは松本隆だと言われる、その松本隆である。

松本隆は、1949年、東京都で生まれた。父親は大蔵省の役人だった。隆は高校時代からバンドを組んで、音楽コンテストに出場していた。
18歳のとき、ベーシストの細野晴臣と知り合い、20歳の年に、彼ら二人は大瀧詠一、鈴木茂を加えて、日本語で歌うロックバンド「はっぴいえんど」を結成した。松本は作詩とドラムを担当した。細野晴臣が、こう言ってすすめたという。
「松本は本を読んでるから、詞を書いたら」
23歳での「はっぴいえんど」解散後は、歌謡曲の作詞家となった。ロックから歌謡曲に引っ越した松本は、昔つきあいのあった細野、大瀧、松任谷由実らを歌謡曲の世界へ引っぱり込みつつ、ヒット曲を連発し、日本の音楽シーンでもっとも成功した作詞家のひとりとなった。作詞した楽曲に「ポケットいっぱいの秘密」「木綿のハンカチーフ」「東京ららばい」「セクシャルバイオレットNo.1」「スニーカーぶる~す」「君は天然色 」「ルビーの指環」「冬のリヴィエラ」「硝子の少年」などがある。

松本隆がはじめて作詞した歌謡曲は、アグネス・チャンの「ポケットいっぱいの秘密」だという。自分が大好きな歌のひとつだけれど、この歌詞に、松本が或る仕掛けを忍ばせていたのは有名な話で、それは歌詞のこういう部分にあった。
「あなた草の上
 ぐっすり眠ってた
 寝顔やさしくて
 好きよってささやいたの」(松本隆『風街詩人』新潮文庫)
各行の頭の一音を並べると「アグネス」となる。王朝時代の家人、在原業平が「唐衣きつつなれにしつましあれば……」と、和歌に「かきつばた」を歌いこんだ技巧の、現代歌謡曲版というわけで、評論家から嫉妬じみた批判を受けていた松本は、ひそかにヒット曲にこういう遊びを忍ばせ、「えらそうに人のことを酷評しても、こんな技巧ひとつ指摘できないくせに」と、評論家たちの批判に対する防御壁を、あらかじめこしらえておいたのだと、以前彼がどこかに書いているのを読んだ。
「そうなんだぁ」
と、自分も気づき、とても感心した。それから、彼の詞の技巧について、注意深く見るようになった。注意深く見ると、いろいろな技巧、趣味に気づかされた。

松本隆は著書のなかで、つぎのように書いている。 
「書き言葉の場合、理解への到達の手段として繰り返し読むという事態が生ずる。しかし歌にあっては、理解が最終目標でなく、繰り返し聞き、繰り返し歌うということにこそ、その快楽が存在してくるのだ。」(『風街詩人』同前)
これを読んで、自分はとても感心した。これは作詞家としての彼のプロフェッショナル意識をよく伝えるとともに、詞と詩というものを分けて考える上で、ひじょうに重要な指摘だと思う。この指摘はまた、現代のカラオケ文化への批評にもなっている。
(2013年7月16日)


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