3月22日は、仏国のパントマイマー、マルセル・マルソーが生まれた日(1923年)だが、日本の政治学者、丸山眞男(まるやままさお)の誕生日でもある。
知の巨人「丸山眞男」の名前は、自分は学生のころから知ってはいたが、その著作は、ごく最近になるまでまともに読んだことはなかった。自分は米国現代史が専門で、主に英語の資料ばかりあさっていたので、日本の思想や政治を論じる丸山の著作とはすれちがってしまった。とは言い訳で、要するに不勉強な学生で、歴史学を勉強する基礎の段階で、読んでおくべきだった丸山眞男をすっ飛ばしていたのである。
丸山眞男は、1914年に大阪で生まれた。父親は新聞記者だった。
7歳のころ、東京に引っ越した。
旧制一高生だった19歳のとき、唯物論研究会の集会に出て逮捕、拘束され、取り調べを受けた。当時、特高警察に目をつけられていたマルクス主義の運動とは丸山は無縁だったが、その集会に出ていたのは大学生や社会人ばかりで、高校生の出席者は2人だけだったために、かえって大物と勘違いされたのだった。
東京大学法学部を卒業した丸山は、同学部に残り、研究者の道を進んだ。
30歳のとき、同学部助教授だった丸山は召集され、陸軍二等兵として出征。広島に原爆が投下されたときは、投下直下から約4キロメートルの地点にいて被爆。原爆爆発のときは、戸外に整列して部隊参謀の朝の訓話を聞いている最中だった。放射能については無知で、投下の翌々日には爆心地を丸山は歩いたという。
戦後は、東京大学教授として、日本政治思想史を研究しながら、戦後民主主義を代表する知識人として、ジャーナリズムの舞台でも発言を続けた。
マックス・ヴェーバーの影響を受けた近代主義者の学者で、戦後の天皇制を批判し、安保闘争を支持し、果敢に論戦の矢面に立った。
1996年8月15日に没。82歳だった。著書に『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』『日本の思想』など。
最近になって自分が、丸山眞男を読むようになったきっかけは、家永三郎の『戦争責任』である。この名著のはじめのほうに、1956年に「戦争責任について」と題する知識人の座談会が開かれ、その席で丸山眞男がいい提案をした旨が書かれている。その席で、丸山は、戦争責任をていねいに分析して、細かく分けて議論するべきだと言ったらしい。
「なんのことやら」
と思われるかもしれないけれど、読んでいて自分はとても感心した。戦争責任というと、すぐに、
「善いか悪いか、どっちなのだ」
と、丁半バクチみたいに結論を急ぎたがったり、
「では、土下座外交をしろというのか」
と、民族主義的な憤りをあらわにしたり、あるいは、
「とにもかくにも天皇制は守らなくてはいけない」
と、結論が先にありきの屁理屈をふりかざしたりする発言者が多いなか、丸山眞男は論理展開がていねいで、信用できる、という気がした。それで、すこし彼の書いたものを読んでみようという気になったのだった。
読んでみると、共感する部分が多かった。
「なんだ、丸山先生、なかなかわかっているじゃないか」
そんな気にさせられる、もっと早く、若いころに読んでおけばよかった、と自分が悔やむ著者のひとりである。
丸山眞男は、日本人の自己欺瞞とリアリズムの欠如を指摘し、グルー元駐日大使のつぎのようなことばを紹介している。
「日本人の大多数は、本当に彼ら自身をだますことについて驚くべき能力を持っている。……日本人は必ずしも不真面目なのではない。このような義務(国際的な)が、日本人が自分の利益にそむくと認めることになると、彼は自分に都合のいいようにそれを解釈し、彼の見解と心理状態からすれば全く正直にこんな解釈をするだけのことである」(「軍国支配者の精神形態」)
まったく、その通りだと思う。昔から、日本人一般の思考はへんちくりんな二重性をもっていて、いまもそれはまったく変わっていない。
日本人にとっては、耳に痛いことをたくさん言った人だけれど、いまこそ、あらためてその発言に耳を傾けてみるべき人だという気がする。
(2013年3月22日)
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