3月20日は、独国の詩人、フリードリヒ・ヘルダーリンの誕生日(1770年)だが、米国の心理学者、B・F・スキナーの誕生日でもある。
スキナー博士は20世紀でもっとも影響力のあった心理学者とも評される巨人で、 じつは彼は自分の「友だちの友だち」である。
そう言うと語弊があるかもしれないが、こういうしだいである。
自分には、ホアン・ロビンソン・ロペスというメキシコ人の友人がいて、彼は行動主義心理学者である。そのホアンが、スキナー博士と友人で、ホアンはスキナー博士の名言集(英西2カ国語版)を出版していて、自分もサインの入ったのを一冊もらった。そういうつながりである。自分はスキナー博士とは面識はないが、学生のころから彼の理論について知っていた。彼の著書も何冊か持っていて、ときどき読んでいる。
バラス・フレデリック・スキナーは、1904年、米国ペンシルヴェニア州サスケハナに生まれた。父親は弁護士だった。
スキナーは当初、作家志望で、大学を出た後、ニューヨークのグレニッチヴィレッジに下宿して小説を書いていたこともあったが、断念し、当時知り合った行動主義心理学者の導きで、心理学や行動主義の研究へ進んだ。
スキナーは、27歳のとき、ハーヴァード大学で博士号を取得。ミネソタ大学、インディアナ大学、そしてハーヴァード大学などで教鞭をとっている。1990年8月、白血病により没。86歳だった。
スキナーと言えば、まず「オペラント条件づけ」である。
条件反射のうち、ベルを鳴らして犬にエサを与え続けるとやがて犬はベルの音を聴いただけでよだれを垂らすようになる、というのが、ロシアのパブロフ博士が実験で示した条件づけで、これを「古典的条件づけ」と呼ぶ。
これに対して、行動主義者であるスキナー博士の実験はこういうものだった。
ここに、てこを押すと、えさが出てくる仕掛けのついた箱「スキナー・ボックス」を用意する。この箱のなかへ、一匹のねずみを入れる。あるとき、ねずみの手が偶然てこに触れてえさが出てくる。これが何度か繰り返されるうち、ねずみは自分から進んでてこを押すようになる。これが「積極的な強化」である。ねずみは、てこを押すという自分の行動の結果に影響されて、さらに積極的にその行動をするようになった。
逆に、たとえば、てこに触れると電気ショックが走る仕掛けだったならば、しだいにねずみはてこに触れなくなっていく。これが「消極的な強化」である。
学校でいえば、いい成績をとった生徒を教師がほめるのは積極的な強化であり、悪い点数の生徒をしかるのは消極的な強化である。
こうした、みずからの行動の結果に影響されて行動を起こすようになる条件反射を、パブロフ博士の「古典的条件付け」と区別して、「オペラント条件付け」と呼ぶ。
このように積極的な強化と、消極的な強化を注意深く配置した環境下に人間をおくのなら、その人間はおのずと善をおこなう、クリエイティヴで魅力的な人間になっていくはずだ、というのがスキナー博士の主張で、その理想を博士は、架空の大規模な共同生活集団であるコミュニティーに託し、『ウォールデン2』という小説を書いた。若いころの願望だった小説出版を、スキナー博士は行動主義の理論を利用して、44歳にして、ついになし遂げたのである。
『ウォールデン2』の出版後、この本に触発されて、実際にコミュニティーが各地で創設された。それが、米国ヴァージニア州に、キャスリーン・キンケイドらが作ったツイン・オークス・コミュニティーであり、メキシコのソノラ州にホアンたちが作ったロス・オルコネスである。そこへ自分は訪ねていった。そういう脈絡になる。(詳細は、拙著『コミュニティー 世界の共同生活体』、拙訳『ツイン・オークス・コミュニティー建設記』を参照のこと)
スキナー博士はホアンといっしょに、マサチューセッツにあるウォールデンの池を訪ねたこともあって、そのときの写真がある。
博士は、額が広い。見るからに頭が切れる感じで、その着想、創造性の斬新さには、ぞっとさせられる。
スキナー博士の方法を用いれば、ハトにピンポンをさせることも可能だというから、これをうまく使えば、人間にできないことはほとんどないのかもしれない。
まったく、すごい頭脳をもった「友だちの友だち」だ、と感心する。
スキナー博士はこう言っている。
「教育とは、学習したことがらが忘れ去られたとき、なお残っているところのものである」(Education is what survives when what has been learnt has been forgotten.)
(2013年3月20日)
訳書、キャスリーン・キンケイド著
『ツイン・オークス・コミュニティー建設記』
米国ヴァージニア州にあるコミュニティー「ツイン・オークス」の創成期を、創立者自身が語る苦闘と希望のドキュメント。
著書
『コミュニティー 世界の共同生活体』
ドキュメント。ツイン・オークス、ガナスなど、世界各国にある共同生活体「コミュニティー」を具体的に説明、紹介。
『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句2』
「ガリヴァ旅行記」から「ダ・ヴィンチ・コード」まで、名著の名フレーズを原文で読む新ブックガイド。第二弾!
『新入社員マナー常識』
メモ、電話、メールの書き方から、社内恋愛、退職の手順まで、新入社員の常識を、具体的な事例エピソードを交えて解説。
『1月生まれについて』
1月が誕生日の人31人をめぐる人物評論。ブログ発表原稿より長い元の原稿を収録した一冊。1月生まれの教科書。
『ポエジー劇場 天使』
カラー絵本。いたずら好きな天使たちの生活ぶりを、詩情豊かな絵画で紹介。巻末にエッセイを収録。