自分は十代のころから、バイロンの詩が好きで、文庫本のバイロン詩集を買って読んでいた。
なにがよかったのか、いまふり返ってみると、その詩にひかれたというよりも、バイロンが若くして成功したスーパー・スターで、女性にもてまくっていたという事実に憧れていた部分が多分にある。
「ある朝目覚めると、わたしは自分が有名なのに気がついた」
とは、バイロン自身のことばで、彼こそは「元祖オーバー・ナイト・サクセス」。
そういう意味で、バイロン卿は、ブリティッシュ・ロック・スターの先駆者だった、と自分は思うのである。
ジョージ・ゴードン・バイロンは、1788年1月22日、英国ロンドンで生まれた。父親はノルマン系イングランド人の貴族で、母親はスチュワート王家の血をひくスコットランド名門貴族の家系。散財家だった父親は財産目当てに母親と結婚したといわれる。
バイロンの右足は先天性内反足、つまり、生まれつき足の部分が曲がっていて、歩くのが不自由だった。バイロンの肖像画が上半身だけのものが多く、全身が描かれていても右足先が隠されていたりするのは、このためだろう。
バイロンが生まれた翌年は、フランス革命がはじまった年で、このとき母親は彼を連れてスコットランドへ引っ越した。一方、父親は借金とりから逃れるために騒乱のフランスへ旅立ち、バイロンが3歳のときにフランスで没した。
6歳のとき、男爵であるバイロン家の相続人が、コルシカで戦死したため、ジョージが相続人となり、10歳のとき、大伯父の第5代バイロン卿が没し、ジョージは正式に第6代バイロン卿となった。
17歳でケンブリッジ大学に入学したバイロンは、高利貸しからお金を借りて遊びまわり、同性や異性との恋にふけり、また詩集をさかんに出版する学生となった。
21歳のとき、自分の詩集を酷評した批評家を、反対に批判し返す評論を出版し、英国を飛びだした。そうして2年近くをかけてバイロンは、ポルトガル、スペイン、マルタ島、ギリシア、アルバニア、コンスタンチノープルなど地中海沿岸を旅してまわる。旅のなかで、遺跡を訪ね、馬に乗り、海峡を泳いで渡り、さまざまな人々に出会い、恋をし、詩を書きつづけた。
23歳のとき、ロンドンへ帰郷。母親が没。
24歳のとき、旅の途中で書きためた詩集『チャイルド・ハロルドの巡礼』を出版。大反響を巻き起こし、一夜にしてバイロンは有名になった。
「ある朝目覚めると、わたしは自分が有名なのに気がついた」
(I awoke one morning and found myself famous.)
とは、このときのせりふである。
英国社交界の寵児となったバイロンは、さまざまな女性たちと浮名を流し、借金とりに追われたり、ヨーロッパを旅したりしながら、詩を書きつづけ、詩集『邪宗徒』『海賊』『ドン・ジュアン』などを出版した。
ギリシア独立革命に参加することを決意したバイロンは、35歳のとき、ギリシアに出発し、1824年、ギリシアの地で熱病にかかり、36歳で没した。
ゲーテも絶賛したロマン派詩人の代表格、バイロンは、その生きざまも激しくロマンティックなものだった。
バイロンについては昔からいろいろ本を読んでいて、自分は、彼の人生が、華やかな、楽しいばかりのものでなかったことを知っている。
経済面ではかなりきびしいものがあったし、精神的にきつかった時期もすくなくなかったことも承知している。
それでも、なるたけ波風を避けて、家族や親戚を大事にし、平穏無事で安楽な生涯を送るというよりは、バイロン卿のように、強い風に進んで身をさらし、周囲を波瀾に巻き込みながらも、なお自分を貫き、誇り高く生きる、そういう人生にひかれる。
あっちへふらふら、こっちへふらふらと生きてきた自分が、いまさらそういう人生を送れるか、というと、またむずかしいものがありそうだけれど、これでも、なるたけ保身に走らず、流されず、気高く生きようと努めてはいるのです。
自分は以前、バイロンの英語の全作品集をもっていた。けれど、いつのまにか、どこかへいってしまった。
それでも、まだ『チャイルド・ハロルドの巡礼』の英語版と、日本語口語訳版(これは京都の出版社に直接注文して入手した高価な本である)をもっている。
たまに開いては、すこしずつ読んでいる。
バイロン卿には、たくさん名言がある。
「事実は小説よりも奇なり」とは、よくいわれることばだけれど、あれもバイロン卿の詩句から。
「事実はつねに奇妙である。小説よりも奇妙である」
(Truth is always strange, stranger than fiction.)
あるいは、バイロン卿はこんなこともいっている。
「もしも書くことで頭のなかを空っぽにできなかったら、わたしは気が狂ってしまう」
(If I don't write to empty my mind, I go mad.)
そして、こんなことも。
「いつもできるだけ笑っていなさい。それは安上がりな薬ですよ」
(Always laugh when you can. It is cheap medicine.)
(2013年1月22日)
著書
『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句』
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対訳 バイロン詩集―イギリス詩人選〈8〉 (岩波文庫)/岩波書店

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