1点のリードを受けて優は9回表のマウンドに登板した。ツーベースとフォアボールで塁上に2人のランナーを背負ったがツーアウトまで漕ぎ着け、最後の打者を外野フライに打ち取ったと思った瞬間だった。照明が目に入ったのか、目測を誤ったのか外野手がイージーフライを後逸。逆転のランナーがホームに生還した。裏の反撃も虚しくチームは敗れた。呆気ない幕切れだった。
あの日の守備固めに強肩の酒井を入れていれば…野島監督は逆転2ランを放った代打の牧村をそのままライトの守備に付かせていた。開幕から連勝の勢いそのままに首位を独走するダリアに迫る1勝を落した。
自分の非力とファンへの詫びを口にして球場を後にした。駅前のパーキングに愛車を乗り捨て河川敷に降りた。ただ歩きたかった。グランドの外の景色を見たかった。
春には桜の花が咲き秋には紅葉した落ち葉で埋まるレッドカーペットの小路が降り出した雨に濡れ始めた。やがて大粒になった雨は傘を持たない優に容赦なく降り注ぐ。雨に煙る向う岸にマンションが見える。雨中を駆け出してもよかったが、濡れたパーカーがやけに重い。仕方ない突っ切るかと思った時だ。背後で声がした。
「投手が、肩を冷やしちゃいかんね」
見ると何度か球場で見かけたダリア紅楽園の交渉担当村木だった。いつからそこにいたのか傘を差して立っていた。優が咳をする。顔色の悪さを察したのか、側道に留めた車に乗るよう勧められるがままに乗っが行き先を言う前に迂闊にも寝込んでしまったのだ。
着いた先は自宅マンションではなく村木が定宿にしているという山間の旅館だった。