8回は小杉が登板したので優はトレーナールームで背中に電気を充てていた。本来ならセットアッパーの成瀬だが、今日は成瀬にゲームクローズさせると榊󠄀監督から言われていた。
肩に掛けたサブタオルを外して左肩を回してみる。痛みはない。カーテン越しに松郷が覗き込む。
「小森が打ち込まれたのか?」
「ソロです」
「スコアは?」
「1点詰められて2点差。ランナーをバントで送られてセカンド。打者にはツーワンですけど持ち堪えますかね?」
優は電気を消すとアンダーシャツを着込む。ユニフォームの袖を通すとブルペンへ急いだ。
「ユキさん大丈夫ですか?背中…」
「冷えただけだ」
優が反射的に応える時は本調子でない事を松郷は知っている。ブルペンでは成瀬が投球練習を始めていた。電話が鳴る。
「はい。成瀬ですか?分かりました。成瀬!」
「行きます」
「頼んだぞ」
優はグータッチをして成瀬を送り出す。グランドではセカンドゴロの間にランナーは三塁に進塁していた。だが成瀬は向かえた打者を僅か2球でサードライナーに打ち取った。9回も成瀬が上がったが、安打とエラーが絡みフォアボールで無死満塁となり、ベンチは優をコールした。
リリーフ陣からの力水を口に含みリリーフカーに乗る。マウンドで規定数の投球練習を終えるとキャッチャーからの返球を内野に回してゲーム再開だ。
初球を狙った打球はキャッチャーゴロとなり三塁ランナーは三本間に挟まれ憤死。尚もフルベースに変わりはない。
『優、強くなったな…』
ベテラン捕手の赤城のリードに首を振る優を山崎が見ていた。優の額から汗が流れる。
『優…お前!』
打者が打ち返した鋭い打球を山崎が捕球し三塁を踏んで一塁に送球。ゲームセット。
だが投球を終えた筈の優の姿がマウンドになかった。投球と同時に優はマウンドに倒れ込んだまま動かない。
「担架持って来い!」
マウンドに駆けつけ優を抱き起こした山崎が叫ぶ。ベンチからは担架が運び出され優の両脇にアイスパックが挟み込まれた。