買い求めた花を手に優は車に戻った。

「遅くなってすみません」

「やけに豪勢だな」

優の手にある花束を見て兵頭が言う。

「実家は墓花なので感じが解らなくて…」

「まぁいい…優が選んだなら優輔も喜ぶだろう」

車はパーキングエリアを出てメモリアルパークへの道を進み出した。暫くして大通りから道を逸れ山手へと踏み入る。階段下の駐車スペースで車を降り歩いてパーク内に入った。優輔の墓は1番端の高台にあった。持って来た花束を供え手を合わせた。

「何故、英語表記なんですか?」

「死んでまで都会の喧騒の中にいたくないだろうと思ってな…それに此処に来るのは私一代限りだと思っていた」

「此処なら車の進入を気にせず子供達も連れて来れますね。会長今更ですが…何故自分を後継者にとお考えになったのですか?亡くなった生母が1人で育てていたと知った時、自分の誕生は祝福されていなかったと思いました。行岡の母が亡くした子供の身代わりに育てられたと兄に抗った事もありました…」

「お母さんは辛かったろう。兄さんは何と言ったんだ?」

「血の繋がりはなくても俺とお前が家族として過ごしてきた時間だと…例え身代りであったとしても親として向き合った姿は本物だったと言われました」優が俯く。

「お前を生んだ母親が高速道路の事故に巻き込まれた事を知ったのは欧州視察を終えて帰国した後、事故からひと月が過ぎていた。後部座席に子供が乗っていたと知ってすぐに調べさせた。お前を引き取りたいと相談した弁護士に止められた。興信所の調べで行岡夫人に心療内科への通院記録があったからだ。孫だと言えば行岡家は優を返さざるを得ない。だが公的書類で私と優の関係を証明できる物は無い。そんな中で無理を通し万が一にも行岡夫人が再び自分を見失う事にでもなれば優の将来に禍根を残す事になると言われて迷って…お前を見に行った。行岡家の家の前にあった空き地に車を停め双眼鏡でお前を捜した。泣き出したお前を抱いて夫人が庭に出てきた。お前は可愛いかった。暫くすると優は泣き止みあの人の胸で眠った。この人ならお前を我が子として育ててくれると信じてお前を託すしかなかった。行岡家より先にお前を引き取れていたら…全てが遅かった。恨むか?」

優は黙って首を振った。

「貴文に子供ができないのは優輔が望んだ結婚を許さずお前を手放した罰だと思った。優秀な社員に跡を継がせようかと考える度、お前の事が過った。そんな時に百瀬の窮地だ…千載一遇だと思って決めた…お前を迎えることを。優秀な社員を役員としてグループ会社に出向させるケースもある。逆のパターンだが…上下関係を理解する几帳面な性格なら大丈夫。行岡出版は既に長男の司君が跡を継いでいる。次男の優は行岡の姓のまま貴文の仕事を学びスライドさせるのが1番だと思っている」

「自分に貴文社長の後が継げるとは考えられません。やっと小さな工房が持てたばかりです」

「優の周りには不思議と人が集まる。要望書に書いた困窮する小売り店の救済は優が通った高校近くの店がヒントか?」

「えぇ…会長と初めてお会いした日に行き成りTETRAを解体する話になって…面食らったというか…店で話を聞いて閉店を考えてると言われ自分でやってみたいと思ったんです」

「小さいが店主に代わりは無い」

「クラブが終わってグラブの紐が切れたと駆け込んでも翌朝の練習前に合わせて直してくれた。そう言うニーズのある店は残るべきだと思うんです」

「組織も同じだ。出来のいいブレーンに部署を任せたら成績を出す。見極めが大事だがな」

「難しいですね」

「お前は既にできてるじゃないか。山崎、松郷、成瀬…皆いい選手だ。命の恩人も居る。子供の頃から親父みたいな気概でお前を護る番頭、頼れる営業頭、気難しいが腕は確かな頑固親父、かなり甘口の兄貴も忘れちゃいかん」

「兄から聞きました。宮城君の交通費肩代わりしてくださった事…」

「優、お前はこれからも行岡を名乗るが、一度でいい。他の呼び方はできんのか?」

優は視線を落とした。気持ちを整理したかったからだ。改めて兵頭に向かい合った。

「ありがとうございます。御爺様」

「それでいい。お前は私の孫だからな。どうだ今度一度スタジアムに足を運んでみては」

「スタジアムの事は、山崎達に任せます」

「冷暖房完備のVIPルームで観戦するのも悪くはない。予約制だが、プリンどら焼きを食べれる様にしたからな」

「プリンどら焼き?会長は甘い物お好きでしたか?」

「いや…そうでもないが…」