新幹線の自由席に飛び乗り京都で降りた。近藤との約束の時間まで有に2時間はある。橋を渡る。緩やかな川の流れを眺めるのが優は好きだった。思考回路を巡らせ感情の昂りをリセットするいい時間でもあった。いつもの様に木陰の切株に腰を降ろそうとした時だ、不意に声を掛けられた。
「優さん?」
「えっ?」
「やっぱり優さんだった!」
「何処かで
会いましたか?」
「10年前にお兄さんの結婚式で…桂木彩です」
「カツラギさん?」
「えぇ…あの時は私、未だ…」
「彩ちゃん?」
「あ、思い出して貰えました?」
「びっくりした…あの時は確か…」
「小学生!」
「だよね~判る訳ないよ。え、今、海外じゃないの?」
「3年前に帰国しました」
「じゃ、ずっと京都に?」
「いいえ。父の会社が東京にあるので大学も東京です」
「驚いたな。お互い東京にいながら京都であうなんて…」
「優さんは京都に何かのご用で?あ、デート?」
「そんな相手居ないよ」優が笑う。
「じゃあ…お茶でも?私から誘うのは変?」
「別に。時間どうやって潰そうかと…あ…こう言う言い方良くないね、ごめん」
「構わないわ。少し行った処に抹茶の美味しいお店があるの。抹茶は苦手?」
「どうかな?珈琲より紅茶だけど…」
「じゃ兎に角行ってみましょうか」
彩は優の前を通り過ごして歩いていく。その後を優が歩く。
「こんな処にお店があるなんて不思議な感じがするな」優が驚いた様に言う。
その店は商店街を抜け竹林の少し奥まった処にひっそりとあった。店の前に立札がある位で考え事をして歩いていると見過ごしてしまいそうだと優は思った。玄関から中庭に通じる小径に咲き乱れる季節の花々が訪れる客を癒やすのだろう。手入れも行き届いて綺麗だった。女性客が多い。
「今風に言えば…古民家カフェ?」
彩は悪戯っぽく笑いながら抹茶餡蜜を美味しそうに食べている。優は何故が蜂蜜紅茶を勧められて飲んでいた。中庭を眺めるカウンター席しか空きが無く、優と彩は並んで座っていた。
海外に居ると思っていた彩が帰国して、すぐにテレビや新聞で優を見つけたという。優の活躍を嬉しそうに話す彩の横顔が愛おしいと思った。それは妹に対する感情に似ていた。霞が持ち去った心の空洞に優しい風が吹きこぼれた瞬間でもあった。
「優さん、時間大丈夫?」
「もう、そろそろかな…」
「じゃあ…送ります」
「え?反対だろ?」
「ごめんなさい。ここ伯母のお店なの」
「…」
「怒った?」
「いや…ちょっと驚いた」
「優さん何処まで?車で送ります」
「河原町なんだけど、ありがとう。助かるよ」