「よく眠ってたから疲れてるんだろと思って起さなかったけど…時間大丈夫か?」
「時間は大丈夫ですよ」
飛び起きた優に近藤が反応する。
「おい!無茶するな。身体はサウナ状態だぞ。ミネラルウォーターちゃんと飲んどけよ」
「頂きます。ソファに移っただけですよ。やっぱり近藤さんに挿して貰ったら軽くなるな」
「誉めてくれるのは嬉しいけど背中のハリはどうしようもない。マズいと思ったら登板は回避しろ。そうじゃないとマウンドで御陀仏だからな」
「脅かさないでくださいよ。自分でブレーキぐらい踏めますよ」
「冗談じゃないぞ。最近の試合観てたら、こっちの心臓がやられるわ」
「てっきり心臓に毛が生えてるのかと…」
「それが恩人に対する言葉か?」
「ありがとうございます。感謝してます」
「実は海外に出る話…決めたんだ」
「えっ?もう決めたんですか?」
「そんなに遠くないし、トレーナーにも引継書かいとくわ。それにハワイに引越す訳じゃないからさ」
「でも凄いですよね。近藤さんの腕が認められたって事ですよね?」
「君を診る様になって自分なりに勉強した事もあって…君との出会いには感謝してる。あ…実験材料にした訳じゃないからな、念の為」
苦笑する近藤に釣られて優も笑った。
マンション前でタクシーを降りた。
「行岡さん?」
「えっ?」
いつもの囲み取材に来る記者では無く面識は無かった。
「今日から2軍でしたよね?」
「えぇ…」
「その行岡さんを京都で見かけたのはどう言う事でしょうね?」
「失礼します」
優は足早にマンションに消えた。
朝早くから監督室を訪ねた者がいた。成瀬だ。
「監督、行岡さんは2軍調整でしたよね?」
「あぁ、それがどうかしたか?」
「コレ…どう言う事ですか?」
「あ…」同席したヘッドコーチの藤村が小さく声を漏らした。
スポーツ誌一面に行岡の笑顔が載っている。バックの橋や風景から見て京都だと判断がつく。しかもモザイクが掛けられてはいるが若い女性と一緒にいた事は事実の様だ。
「イケメンで長身なら目立っで仕方ないか…」
「そんな事で統制取れるんですか?」
「文句があるならお前がクローザーやってみるか?」
「投げろと言われれば何処でも投げますよ」
「なら、今日から備えろ」
「わかりました」成瀬は仏頂面で部屋を出た。
「監督、成瀬にあんな事言っていいんですか?」
「一度試したいと思ってたんだ。それにクローザーは誰でも務まるポジションじゃない。皆、血反吐を吐いて務めてきたんだ。失敗したら彼奴にも行岡の慎重派理論が理解できるだろうさ。上手くハマれば行岡を休ませられる」
「行岡の奴いつ張り付かれたんでしょうか…いつも早く動くのに」
「マウンドから担架で運び出したから…マークされたかもしれんな」
「京都に通いだして見つけた相手ですかね?」
「なら諸手を挙げて応援する。少しは自分の時間を作るだろうからな」
「確かに…結果が出なければ休みを返上して練習の虫ですからね」