8回裏の攻撃でブルースターズ秋鹿の四番打者山崎雅也が応援団の待つライトスタンドに同点の3ランを放つ。後続の打者が凡退し9回の表は優の出番だ。簡単に2アウトを取る。次は昨日三振に仕留められなかった香山の打席だ。初球は真ん中直球のストライク。2球目はインハイにボール球を投げて仰け反らせる。2球続けてファールの後の勝負球は今日のイニングでは未だ投げていなかった外角スライダー。香山のバットが空を切った瞬間球場を呑み込む歓声が湧き上がった。一際熱烈な拍手を送る赤い人影が引き上げる優の視界の端に映り込む。客席を見あげた事は一度も無いが初めて自分の中で許した。
ベンチに下がる間際にスタンドの彩を捉え唇を少し尖らせた。視線を合わせた彩が嬉しそうに笑った。
「あのコ可愛いかったすね?赤いレインコート何か着ちゃって。ユキさん見ました?」
球場の風呂場でも松郷の頭の中は彩が駆け巡る。
「見てないよ」
「あ、投球に集中してましたね〜」
「赤頭巾ちゃんだな…」
「え?」
「赤いレインコート着てたんだろ?」
「流石!ネーミングの帝王」
「クシュン」
優がくしゃみをした。
「大丈夫ですか?」
「悪い…先に上がるわ」
「送りましょうか?」
「いいよ、明日も早いし…お疲れ」
「お疲れっす」
帰り道の車中でも寒気がする。
ヤバいな…帰ったらベッドに直行だな…