「ただいま」
「おかえりなさい。お風呂沸いてるから入って」
「入って来たからいいよ」
「駄目!」
「なんで?」
「あんなにファール粘られて身体冷えたに決まってるでしょ?」
「だから…入ったって」
「駄目よ!お風呂入って蜂蜜ジンジャー飲んでベッドね」
「…」
彩は言い出すと引かない。仕方なく優はパウダールームで服を脱ぎバスルームのドアを開けた。帰宅して直ぐに暖房を入れたのか温度差を感じない。バスタブに入り濡らしたタオルを目に載せた。彩が用意したバスピローが心地よい。
『マズい…』と思った次の瞬間だ。彩がバスルームのドアを開けた。
「優さん、起きてる?」
「起きてる…よ」
「よかった。早く上がってね。長湯は逆効果って言われたでしょ?」
「わかった」
『まさか気持ち良くて撃沈しそうだったなんて言える理由ないよな…』
バスローブを着ながら優が言う。
「彩はタイマーみたいだね」
「あら、どうして?他に言い方あるでしょ?」
「あぁ…きっといい奥さんになるよ。貰ってくれる人が居ればだけどね」
「優さん、可愛くない!」
タオルで髪を乾かす優の頬を彩が両手で引っ張る。
「痛っ!跡ついたらマズいじゃん」
タオルドライしながらソファに腰を下ろす優の横で彩はドライヤーに延長コードを付けている。
「病人じゃないんだから…」
「駄目!明日も早いんだから」
優の手からタオルを取り上げドライヤーをかけ始めた。湯上がりの心地よい疲れと彩の指先が眠気を誘う。
「ハイ、完成」
「ありがと」
「蜂蜜ジンジャー飲んでから歯磨きしてパジャマに着替えてね」
「ハイハイ」
「ハイは一度よ」
「彩は教育ママになるね、きっと。俺、自信あるわ」
蜂蜜ジンジャーを飲みながら優が上目遣いに言う。
「うーん。感謝の言葉が足りないね、優君!ちゃんと歯磨きしてね。歯医者さんの予約取るの大変なんだから」
そう言いながら彩は優の部屋に行く。タイマーをかけて部屋を温めていたので室温を確認して上布団を元に戻していたのだ。
パジャマに着替えた優が部屋に入って来る。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
布団に潜る優の額に彩が手を充てる。
「熱は無いよ」
「そうね、よかった。じゃ…」
彩は片付けをする為にキッチンに戻る。
「クシュン」
『嫌だ…私が風邪を引いたら優さんに伝染しちゃう。風邪薬、風邪薬…』