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「一希さん、一希さん、いや~だめぇ、目を開けて!・・・」
アタシはパニくっていた。死んじゃうの?何で、アタシのせい?彼の頭を抱え、一所懸命名前を呼んでいた、きっと大泣きしてる。
--------冴美と志津香--------
ふと頬に暖かいものを感じる、見上げると冴美さんが私の頬に手を当てて、親指で涙をぬぐってくれた。
「大丈夫よ、でも今は少し眠らせてあげて?疲れただけだから」
冴美さんは静かに教えてくれる。
彼女の目を見ているうちにパニくってたアタシの心臓もだんだん静かになる、落ち着くのを待って冴美さんが・・・
「でも、この状況は、妻としてはどぉよ!って感じよね~」
彼女はくすっと笑った。
「え、あ、す、すみません。あも、あの、ど、ど、どうしよう・・・」
確かにそうよね、上半身ハダカの若い娘が自分の夫の頭を胸に抱いている、しかもベッドの上で。
「初めまして、乙葉の家内です。」
ズキン。
あ、胸の奥が痛い。“家内です”・・・という言葉。
家内・・・かぁ、そうさらっと出てくるなんて、やっぱり人生を一緒にしてきた人だからなんだろうなぁ
「おおいし、しづかです。すみません、こんな格好で」頭を下げる。
「もう、かじゅきを寝かせてあげて?」
いけない、抱きしめたままだった・・
アタシは冴美さんに手を貸してもらい大量の唾液で汚れたシーツを剥がすと、一希さんの体を伸ばすようにベッドに寝かせた。
「志津香さんて言うんだ・・・もう、服を着なさい。」
やさしく声を掛けてくれた、それに冴美さんの目はとても温かい、
童顔で、年齢不詳。ショートカットの髪にメガネをかけている、美人だけど、とってもかわいい感じ、太っている訳ではない、母として丸みを帯びた体型とでも言えばいいのかな?
「かじゅきが、あなたの事隠してた訳が解ったわ、こんなに若いんじゃ捕まっちゃうもんね、何歳(いくつ)?」
「十八・・・です。
聖羅さんとは二つ違いって言ってました、高校三年です。」
「聖羅の事も知ってるんだ、ワタシの事も?」
「ええ、少し・・・」
アタシは一希さんに聞かされた事を、かいつまんで話した。
「そこまで話してんのか・・・あいつぅ、あとで、月に代わっておしおきよ!だわ。」
「すみません」
アタシは服を着ながら謝った、よかったキスマークが消えてる。
「謝らなくてもいいわよ。」
そう言ってカラカラと笑ってくれる、
あ、アタシこのひと好きだ。
そのあと、アタシたちは休憩室に下りて話し始めた。
勝手に冷蔵庫をあさる、ウーロン茶があったので、二人で飲みながら・・・
「かじゅきはねぇ、自分のことよりワタシやあなたのことを優先するの、それはわかるでしょ?」アタシはうなづいた
「未来の・・・あ、息子のことよ・・・事があってから、特にそうなっちゃった
まぁ、ワタシの事も知ってるみたいだし、未来の事を話してもいいわね。」
「未来君のこと?」
確か中学二年生の男の子
「未来もねぇ、かじゅきの子じゃないのよ!」
「えっ?」
冴美さんは笑顔でなんでもないように話してくる、浮気の子?
「未来のことは何も話してないんだ・・・
まぁ、自慢できるようなことじゃないし、今はあのとおり柔和?で、見ようによっちゃ優柔不断?なかなか本気で怒ったりはしないけど、あの時はホントに怖かった。
・・・聞きたい?かじゅきへの見方が変わるかもよ?それでもいい?」
アタシはそれが怖い、一希さんが離れて行くのは一向に構わない。
でもアタシが心変りしてしまうかもしれないと考えるのは・・・怖い。
考えないようにしている自分がいる、でも聞いておきたい、彼のことは何でも知りたい。
冴美さんが話そうとしているってことは、アタシに知っておきなさいという意味かもしれない、心変わりさせようというのかな?
ううん、そんな姑息な手段を使うような人には見えないな。こんなに自信を持って“家内です”なんていえるんだもん。
アタシは?アタシは一希さんの何なんだろう?
「最初に言っとくけど、未来は不倫の子じゃないからね、ちゃんと結婚しててできた子だからね、式は挙げてないけど。
そう思ったでしょ。」
アタシは恐縮して下を向いた、ハイそう思いました。
「だって聖羅さんと二つ違いですよ?一希さんと結婚していたのでは?」
「かじゅきと結婚したのは未来の父親と別れてからよ、
この話はワタシの憶測も入ってるから、すべてが正しいというわけではないってことは頭に入れといてね
・・・あの頃は聖羅を育てるのが大変で、里親は聖羅には優しかったけど、ワタシには冷たかった。
そりゃそうよね。里子を引き取ったと思ったら、かじゅきと離れようとしないし、離れたと思ったらすぐに結婚したいって云うし、結婚したと思ったら子供の顔も見ないで旦那は死んじゃうしでしょ?
何のために私を引き取ったか解らないわよね、里親にしてみれば踏んだり蹴ったり?
とにかく、里親の元で暮らしたくなくてアパートを借りたの。
でも、ホントに世間知らずだったから、お金も無いし、仕事も無い、アパートを借りるのに保証人が必要なんて知らなくて、かじゅきに泣き付いたの。
かじゅきは何も言わずに保証人になり、お金を出してくれた。
まぁ、後日談になるけど、里親はそれも気に入らなかったらしい。
かじゅきを責めたのよ会社にまで押しかけてね、自分たちでワタシを追い出したようなものなのにさ。
それでかじゅきは仕事を辞めざるを得なかった。
ワタシはそんな事も知らないで責めたの。
“何で迎えに来なかったの、ずっと待ってたのよ”って、
それだけじゃない、ワタシは毎日、会いたいって手紙を出してたのに、返事は年に一、二回。」
「それは、里親さんが・・・」
冴美さんはとても悲しそうな顔で続けた。
「そうだったのよ、でもその時は知らなかった、後で知ったの・・・
知ってたら、あんなに責めなかった・・・」
見る見るうちに冴美さんに瞳から涙がこぼれだす。
アタシは思わず彼女を抱きしめた、普段ならゼッタイやらない、でもこの女(ひと)も一希さんを愛している、仲間意識みたいなモノ?
冴美さんには迷惑だろうけけど・・・
「・・・あなた、優しいのね。かじゅきがグラっと来る訳だわ・・・
ワタシとあなたは、かじゅきを獲りあう敵同士なのよ?そんなに優しいと負けちゃうわよ!」
「そうですか?アタシと冴美さんは一希さんを愛してる仲間同士だと思いますけど?」
本心だった、アタシこの人と張り合っても負けちゃう気がする。と云うか、一希さんはこの人を必要としているのが解るしこの人もおんなじ。
「あなた、いい娘ね。やっぱりかじゅきが選んだ人だわ。
・・・・
ワタシが責めてた頃、かじゅきは仕事を失ってたの、
でも何も知らなくて、お金をせびり、愚痴をこぼし、聖羅を預けて遊び歩く・・・そんな事してたわ。
かじゅきはあのとおり、自分を責めながら、それでも抱きしめてくれるの。
お金をくれて、愚痴を聞いてくれて、聖羅の面倒を見て・・・
かじゅきには迎えに来なかった負い目があるって信じてたの。ううん、そう信じていたかったの。
ワタシは現実から逃げたかった。聖羅や、里親や、カズキの死からも・・・
そんな時、未来の父親と出会った。
今までに会った人とはとは違う、ぐいぐい引っ張って行ってくれる男だった、セックスに馴れてなかった私は溺れた、すぐ妊娠したわ。
でも彼には聖羅のことは話してなかった、話せなかった、知られたらワタシから、きっと逃げてしまうと思った。
自分のアパートにも、かじゅきのアパートにも帰らず、聖羅を預けっぱなしで彼のアパートに転がり込んでた。
だけどどうやって調べたのか突然、かじゅきが彼のアパートに来たの。
かじゅきは彼に聖羅の事を話し、引き取ってくれないかと、聖羅と母親を離さないで欲しいと頼んだ。
彼は条件を出したわ、聖羅の養育費月十万を二十歳まで出すこと、二度と自分たちの前に姿を現さない事。
かじゅきは条件を呑んだ、仕事も無いくせに・・・
でも毎月きちんとお金を送ってよこした、彼はそこに目を付けた。
一年後、今度は未来の養育費まで出せといったらしい、ワタシは知らなかった。
それが五年も続いた。
あるとき、カズキ・・・あぁ聖羅の父親のほう、の七回忌法要をしたいと連絡があったの。
三回忌は私の状態が悪かったのでしなかったから、今回は是非ということで。
久しぶりにかじゅきのアパートに行った、アパートには何も無かった。
布団が一組あるだけ、家財道具は何も無い、人が住んでるの?って感じ、なんかおかしいと初めて気がついた。
帰って来た、かじゅきを見て愕然とした、人相がまるっきり変わっていたの、痩せていて、今にも倒れそうだったわ。
“どうしたの?”って聞いても
“元気そうだな”と言い
“聖羅と未来は?”と・・・
自分のことよりもワタシたちのことを気に掛けるのよ、
馬鹿よね、でもそこで初めて養育費の金額が増えていたことを聞いたの。
まぁ、それも無理やり聞き出したんだけどね、最後まで金額は言わなかった。
金額については彼を問い詰めたの。
月二十万。それだけあれば働かなくても食べて行けるわ、それまでおかしいと思わなかった。いえ、気づかない振りしていた。
ワタシはようやく彼が生活費として渡してくれていたお金が、かじゅきの仕送りだと知ったの。
だから彼に別れてと言った。そうしたら、別れてやるから慰謝料を払えと言って来た。
そりゃそうよね、こんないい金ヅル放したくないわよ。
働かなくてもお金は入ってくるし、自分が働いたお金は全額お小遣い、別の女とも遊べる。
ホントに何も知らないワタシ。あろうことか里親に相談したの。
かじゅきにはもう迷惑はかけられなかったし、ほかに頼れるあても無かった。
里親は何も言わずにお金を出してくれた、そのときは不思議に思ったくらいで後で考えればとてもありえないことだったけど、かじゅきのアパートを出るという条件はつけられた。
とにかく別れて、子供二人を連れて里親の元に戻った。それからかじゅきにすべてを話して、とにかく謝った。
話は彼のことに戻すけど、その慰謝料を里親に払ってもらったことを話したら、かじゅきが怒ったの。
“あの男”といったかじゅきの顔は見ていられないほど怖かった、初めて怒った顔を見たと云うのもあるけど、思わず目を瞑ったもの・・・
なんか彼の体から冷たい炎が噴出しているようで、顔が邪鬼の様だった。
そして出てゆくと何日か帰らなかった。
一ヵ月後、彼がワタシのところに現れた。
慰謝料と五年間、貰い続けてきた養育費全額を持って。
“どうしたの?”って聞いても、何もいわずに怯えた目をしてお金を置いて出て行った。
ここからは、ワタシの憶測というか、なんだけど。
まずは彼の件、あんなに怯えた目をした彼を見たことがない。
だから、かじゅきが彼に何かをしたんじゃないかと思っているの。
何かと言うのは“霊的な何か”よ、
落とした憑物を取り憑かせたりとか?じゃないかと。決して教えてはくれないけどね。
そして、里親の件。
あの人たちがすんなりと慰謝料を出してくれたのは、かじゅきに対して何か恩を返したつもりらしいと云う事。
里親の知り合いの憑物を落としたと言う話をチラッと聞いたの。
その頃、仕事が無かったかじゅきは憑物落しで稼いでたみたい。
見たでしょう、憑物を落とすと、ものすごく体力を消耗するの。だから痩せていたのよ、今と違ってね!」
冴美さんは遠い目をしている、涙が一筋流れた。
「普通、憑物落しをすると一月はやらない、できない、
でも月二十万も稼ぐにはそれしかなかった、バカなワタシはこの時もかじゅきを責めたわ。
“なんでそんなことするのよ”ってね、
そしたら事も無げに“聖羅と未来には親ができるんだよ、月二十万なら安いじゃないか?”って。
・・・だから私は“金で買うのは違うでしょう!”ってまた責めちゃった。
かじゅきが一番よく知ってるのよねそんな事。
それでも子供たちには“父親”が、ひいては“家族”が必要だと云うの、金で買えるならそれでもって。
自分には手に入らないモノだけど、ワタシたちには手の届く所にあると言うのよ。
かじゅきだって、その気になりさすれば、ワタシたちと一緒になりさすれば、全て丸く収まるじゃない?何でそんな簡単な事が解らないの?
だから言ってやったの“だったらあなたが父親になってよ!”って。」
「それって、プロポーズですよね?」
「そう、なっちゃった」
ぺろっと舌を小さく出して見せる。あ、やっぱり可愛い
「でもね、それでワタシはかじゅきの自由を奪っちゃったの。
ワタシ以外の女性を選ぶ事ができないと思っちゃったのよ。
彼は幸せになることに慣れていない・・・と云うか、成れないって思い込んでる。
他人の幸せは探すけど、自分の幸せがあるなんて思いもしないから探すことすら思いつかない。
解るでしょ。
それから彼は彼女も作らず、ワタシたちのために働き、愚痴ひとつこぼさないじゃない?
ワタシたちの幸せを、自分の幸せと履き違えたままなの。
それが今ではワタシの負担になってるって気づかないのよ。
愚痴こぼしたり、ワタシに当たったりしてくれれば気が楽になんだけどね。」
「わかります、他人については敏感なのに自分のことについては鈍感というか無関心?
なんか幸せになるということに罪悪感すら持ってる感じ?」
「そうそう、だからあなたみたいな彼女ができることはいいことだと思うんだけど、
ここまで面食いだったとはねぇ~以外だわ~」
そんなに誉めないでください・・・アタシきっと今真っ赤になってる。
「でも、冴美さん。なぜこの話を、アタシなんかに?・・・」
「さぁ?なぜでしょう?
貴女がかじゅきにとって大切な人だって解ったから・・・かな?
とにかく、ワタシの話はこんなところ。あとは貴女に預けるわ、でも時々は返してね。
あ、最後にもう一つ、アナタの中に・・・なんていうか座敷わらしみたいなかじゅきが居るでしょ、それワタシも聖羅も未来も持ってるの。
“家族”のしるしよ!」そう言い残すと冴美さんは帰っていった。
“家族”一希さんの一番欲しがってたもの、そこに入ってもいいって事?
アタシも“家族”?アタシはすべてを一希さんに見せた、彼はそれを受け入れてくれた。
奥さんの冴美さんも目をつぶる(認めたわけではないと思う)って言ってるし、今はみんなのお言葉に甘えてみようかな?
アタシは一希さんがとてもいとおしくて、いても立ってもいられず二階に上がった。
まだ眠っている、時々舌を鳴らしながら・・・
アタシは体を彼の横に滑り込ませ、彼の頭を胸に抱えると、そのまま眠りに落ちてしまった。