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「一希さん、一希さん、いや~だめぇ、目を開けて!・・・」
 アタシはパニくっていた。死んじゃうの?何で、アタシのせい?彼の頭を抱え、一所懸命名前を呼んでいた、きっと大泣きしてる。


--------冴美と志津香--------


 ふと頬に暖かいものを感じる、見上げると冴美さんが私の頬に手を当てて、親指で涙をぬぐってくれた。
「大丈夫よ、でも今は少し眠らせてあげて?疲れただけだから」
 冴美さんは静かに教えてくれる。
 彼女の目を見ているうちにパニくってたアタシの心臓もだんだん静かになる、落ち着くのを待って冴美さんが・・・
「でも、この状況は、妻としてはどぉよ!って感じよね~」
 彼女はくすっと笑った。
「え、あ、す、すみません。あも、あの、ど、ど、どうしよう・・・」
 確かにそうよね、上半身ハダカの若い娘が自分の夫の頭を胸に抱いている、しかもベッドの上で。
「初めまして、乙葉の家内です。」

 ズキン。

 あ、胸の奥が痛い。“家内です”・・・という言葉。
 家内・・・かぁ、そうさらっと出てくるなんて、やっぱり人生を一緒にしてきた人だからなんだろうなぁ

「おおいし、しづかです。すみません、こんな格好で」頭を下げる。
「もう、かじゅきを寝かせてあげて?」
 いけない、抱きしめたままだった・・
 アタシは冴美さんに手を貸してもらい大量の唾液で汚れたシーツを剥がすと、一希さんの体を伸ばすようにベッドに寝かせた。
「志津香さんて言うんだ・・・もう、服を着なさい。」
 やさしく声を掛けてくれた、それに冴美さんの目はとても温かい、
 童顔で、年齢不詳。ショートカットの髪にメガネをかけている、美人だけど、とってもかわいい感じ、太っている訳ではない、母として丸みを帯びた体型とでも言えばいいのかな?
「かじゅきが、あなたの事隠してた訳が解ったわ、こんなに若いんじゃ捕まっちゃうもんね、何歳(いくつ)?」
「十八・・・です。
聖羅さんとは二つ違いって言ってました、高校三年です。」
「聖羅の事も知ってるんだ、ワタシの事も?」
「ええ、少し・・・」
 アタシは一希さんに聞かされた事を、かいつまんで話した。
「そこまで話してんのか・・・あいつぅ、あとで、月に代わっておしおきよ!だわ。」
「すみません」
 アタシは服を着ながら謝った、よかったキスマークが消えてる。
「謝らなくてもいいわよ。」
 そう言ってカラカラと笑ってくれる、

 あ、アタシこのひと好きだ。

 そのあと、アタシたちは休憩室に下りて話し始めた。
 勝手に冷蔵庫をあさる、ウーロン茶があったので、二人で飲みながら・・・

「かじゅきはねぇ、自分のことよりワタシやあなたのことを優先するの、それはわかるでしょ?」アタシはうなづいた
「未来の・・・あ、息子のことよ・・・事があってから、特にそうなっちゃった
まぁ、ワタシの事も知ってるみたいだし、未来の事を話してもいいわね。」
「未来君のこと?」
 確か中学二年生の男の子
「未来もねぇ、かじゅきの子じゃないのよ!」
「えっ?」
 冴美さんは笑顔でなんでもないように話してくる、浮気の子?
「未来のことは何も話してないんだ・・・
 まぁ、自慢できるようなことじゃないし、今はあのとおり柔和?で、見ようによっちゃ優柔不断?なかなか本気で怒ったりはしないけど、あの時はホントに怖かった。
・・・聞きたい?かじゅきへの見方が変わるかもよ?それでもいい?」

 アタシはそれが怖い、一希さんが離れて行くのは一向に構わない。
 でもアタシが心変りしてしまうかもしれないと考えるのは・・・怖い。
 考えないようにしている自分がいる、でも聞いておきたい、彼のことは何でも知りたい。
 冴美さんが話そうとしているってことは、アタシに知っておきなさいという意味かもしれない、心変わりさせようというのかな?
 ううん、そんな姑息な手段を使うような人には見えないな。こんなに自信を持って“家内です”なんていえるんだもん。

 アタシは?アタシは一希さんの何なんだろう?

「最初に言っとくけど、未来は不倫の子じゃないからね、ちゃんと結婚しててできた子だからね、式は挙げてないけど。
そう思ったでしょ。」
 アタシは恐縮して下を向いた、ハイそう思いました。
「だって聖羅さんと二つ違いですよ?一希さんと結婚していたのでは?」

「かじゅきと結婚したのは未来の父親と別れてからよ、
この話はワタシの憶測も入ってるから、すべてが正しいというわけではないってことは頭に入れといてね

・・・あの頃は聖羅を育てるのが大変で、里親は聖羅には優しかったけど、ワタシには冷たかった。
 そりゃそうよね。里子を引き取ったと思ったら、かじゅきと離れようとしないし、離れたと思ったらすぐに結婚したいって云うし、結婚したと思ったら子供の顔も見ないで旦那は死んじゃうしでしょ?
何のために私を引き取ったか解らないわよね、里親にしてみれば踏んだり蹴ったり?
 とにかく、里親の元で暮らしたくなくてアパートを借りたの。
でも、ホントに世間知らずだったから、お金も無いし、仕事も無い、アパートを借りるのに保証人が必要なんて知らなくて、かじゅきに泣き付いたの。
かじゅきは何も言わずに保証人になり、お金を出してくれた。
 まぁ、後日談になるけど、里親はそれも気に入らなかったらしい。
かじゅきを責めたのよ会社にまで押しかけてね、自分たちでワタシを追い出したようなものなのにさ。
それでかじゅきは仕事を辞めざるを得なかった。
 ワタシはそんな事も知らないで責めたの。
“何で迎えに来なかったの、ずっと待ってたのよ”って、
それだけじゃない、ワタシは毎日、会いたいって手紙を出してたのに、返事は年に一、二回。」

「それは、里親さんが・・・」
 冴美さんはとても悲しそうな顔で続けた。
「そうだったのよ、でもその時は知らなかった、後で知ったの・・・
 知ってたら、あんなに責めなかった・・・」
 見る見るうちに冴美さんに瞳から涙がこぼれだす。
 アタシは思わず彼女を抱きしめた、普段ならゼッタイやらない、でもこの女(ひと)も一希さんを愛している、仲間意識みたいなモノ?
 冴美さんには迷惑だろうけけど・・・

「・・・あなた、優しいのね。かじゅきがグラっと来る訳だわ・・・
 ワタシとあなたは、かじゅきを獲りあう敵同士なのよ?そんなに優しいと負けちゃうわよ!」
「そうですか?アタシと冴美さんは一希さんを愛してる仲間同士だと思いますけど?」
 本心だった、アタシこの人と張り合っても負けちゃう気がする。と云うか、一希さんはこの人を必要としているのが解るしこの人もおんなじ。

「あなた、いい娘ね。やっぱりかじゅきが選んだ人だわ。
・・・・
 ワタシが責めてた頃、かじゅきは仕事を失ってたの、
でも何も知らなくて、お金をせびり、愚痴をこぼし、聖羅を預けて遊び歩く・・・そんな事してたわ。
 かじゅきはあのとおり、自分を責めながら、それでも抱きしめてくれるの。
お金をくれて、愚痴を聞いてくれて、聖羅の面倒を見て・・・
かじゅきには迎えに来なかった負い目があるって信じてたの。ううん、そう信じていたかったの。
ワタシは現実から逃げたかった。聖羅や、里親や、カズキの死からも・・・

 そんな時、未来の父親と出会った。
今までに会った人とはとは違う、ぐいぐい引っ張って行ってくれる男だった、セックスに馴れてなかった私は溺れた、すぐ妊娠したわ。
 でも彼には聖羅のことは話してなかった、話せなかった、知られたらワタシから、きっと逃げてしまうと思った。
 自分のアパートにも、かじゅきのアパートにも帰らず、聖羅を預けっぱなしで彼のアパートに転がり込んでた。
 だけどどうやって調べたのか突然、かじゅきが彼のアパートに来たの。
 かじゅきは彼に聖羅の事を話し、引き取ってくれないかと、聖羅と母親を離さないで欲しいと頼んだ。
 
 彼は条件を出したわ、聖羅の養育費月十万を二十歳まで出すこと、二度と自分たちの前に姿を現さない事。
かじゅきは条件を呑んだ、仕事も無いくせに・・・
 でも毎月きちんとお金を送ってよこした、彼はそこに目を付けた。
 一年後、今度は未来の養育費まで出せといったらしい、ワタシは知らなかった。

 それが五年も続いた。
 あるとき、カズキ・・・あぁ聖羅の父親のほう、の七回忌法要をしたいと連絡があったの。
三回忌は私の状態が悪かったのでしなかったから、今回は是非ということで。
 久しぶりにかじゅきのアパートに行った、アパートには何も無かった。
布団が一組あるだけ、家財道具は何も無い、人が住んでるの?って感じ、なんかおかしいと初めて気がついた。
 帰って来た、かじゅきを見て愕然とした、人相がまるっきり変わっていたの、痩せていて、今にも倒れそうだったわ。
“どうしたの?”って聞いても
“元気そうだな”と言い
“聖羅と未来は?”と・・・
自分のことよりもワタシたちのことを気に掛けるのよ、
 馬鹿よね、でもそこで初めて養育費の金額が増えていたことを聞いたの。
まぁ、それも無理やり聞き出したんだけどね、最後まで金額は言わなかった。
金額については彼を問い詰めたの。

 月二十万。それだけあれば働かなくても食べて行けるわ、それまでおかしいと思わなかった。いえ、気づかない振りしていた。
ワタシはようやく彼が生活費として渡してくれていたお金が、かじゅきの仕送りだと知ったの。
 だから彼に別れてと言った。そうしたら、別れてやるから慰謝料を払えと言って来た。

 そりゃそうよね、こんないい金ヅル放したくないわよ。
働かなくてもお金は入ってくるし、自分が働いたお金は全額お小遣い、別の女とも遊べる。
 ホントに何も知らないワタシ。あろうことか里親に相談したの。
かじゅきにはもう迷惑はかけられなかったし、ほかに頼れるあても無かった。
里親は何も言わずにお金を出してくれた、そのときは不思議に思ったくらいで後で考えればとてもありえないことだったけど、かじゅきのアパートを出るという条件はつけられた。
 とにかく別れて、子供二人を連れて里親の元に戻った。それからかじゅきにすべてを話して、とにかく謝った。

 話は彼のことに戻すけど、その慰謝料を里親に払ってもらったことを話したら、かじゅきが怒ったの。
“あの男”といったかじゅきの顔は見ていられないほど怖かった、初めて怒った顔を見たと云うのもあるけど、思わず目を瞑ったもの・・・
なんか彼の体から冷たい炎が噴出しているようで、顔が邪鬼の様だった。

 そして出てゆくと何日か帰らなかった。

 一ヵ月後、彼がワタシのところに現れた。
慰謝料と五年間、貰い続けてきた養育費全額を持って。
“どうしたの?”って聞いても、何もいわずに怯えた目をしてお金を置いて出て行った。

 ここからは、ワタシの憶測というか、なんだけど。
 まずは彼の件、あんなに怯えた目をした彼を見たことがない。
だから、かじゅきが彼に何かをしたんじゃないかと思っているの。
何かと言うのは“霊的な何か”よ、
落とした憑物を取り憑かせたりとか?じゃないかと。決して教えてはくれないけどね。

 そして、里親の件。
あの人たちがすんなりと慰謝料を出してくれたのは、かじゅきに対して何か恩を返したつもりらしいと云う事。
 里親の知り合いの憑物を落としたと言う話をチラッと聞いたの。
 その頃、仕事が無かったかじゅきは憑物落しで稼いでたみたい。
 見たでしょう、憑物を落とすと、ものすごく体力を消耗するの。だから痩せていたのよ、今と違ってね!」
 
 冴美さんは遠い目をしている、涙が一筋流れた。
「普通、憑物落しをすると一月はやらない、できない、
でも月二十万も稼ぐにはそれしかなかった、バカなワタシはこの時もかじゅきを責めたわ。
“なんでそんなことするのよ”ってね、
そしたら事も無げに“聖羅と未来には親ができるんだよ、月二十万なら安いじゃないか?”って。
・・・だから私は“金で買うのは違うでしょう!”ってまた責めちゃった。
かじゅきが一番よく知ってるのよねそんな事。
 それでも子供たちには“父親”が、ひいては“家族”が必要だと云うの、金で買えるならそれでもって。
 自分には手に入らないモノだけど、ワタシたちには手の届く所にあると言うのよ。
 かじゅきだって、その気になりさすれば、ワタシたちと一緒になりさすれば、全て丸く収まるじゃない?何でそんな簡単な事が解らないの?
だから言ってやったの“だったらあなたが父親になってよ!”って。」
「それって、プロポーズですよね?」
「そう、なっちゃった」
 ぺろっと舌を小さく出して見せる。あ、やっぱり可愛い

「でもね、それでワタシはかじゅきの自由を奪っちゃったの。
ワタシ以外の女性を選ぶ事ができないと思っちゃったのよ。
 彼は幸せになることに慣れていない・・・と云うか、成れないって思い込んでる。
 他人の幸せは探すけど、自分の幸せがあるなんて思いもしないから探すことすら思いつかない。
 解るでしょ。
 それから彼は彼女も作らず、ワタシたちのために働き、愚痴ひとつこぼさないじゃない?
 ワタシたちの幸せを、自分の幸せと履き違えたままなの。
 それが今ではワタシの負担になってるって気づかないのよ。
 愚痴こぼしたり、ワタシに当たったりしてくれれば気が楽になんだけどね。」

「わかります、他人については敏感なのに自分のことについては鈍感というか無関心?
なんか幸せになるということに罪悪感すら持ってる感じ?」

「そうそう、だからあなたみたいな彼女ができることはいいことだと思うんだけど、
ここまで面食いだったとはねぇ~以外だわ~」
 そんなに誉めないでください・・・アタシきっと今真っ赤になってる。

「でも、冴美さん。なぜこの話を、アタシなんかに?・・・」
「さぁ?なぜでしょう?
 貴女がかじゅきにとって大切な人だって解ったから・・・かな?
とにかく、ワタシの話はこんなところ。あとは貴女に預けるわ、でも時々は返してね。
あ、最後にもう一つ、アナタの中に・・・なんていうか座敷わらしみたいなかじゅきが居るでしょ、それワタシも聖羅も未来も持ってるの。
“家族”のしるしよ!」そう言い残すと冴美さんは帰っていった。

“家族”一希さんの一番欲しがってたもの、そこに入ってもいいって事?
 アタシも“家族”?アタシはすべてを一希さんに見せた、彼はそれを受け入れてくれた。
 奥さんの冴美さんも目をつぶる(認めたわけではないと思う)って言ってるし、今はみんなのお言葉に甘えてみようかな?

 アタシは一希さんがとてもいとおしくて、いても立ってもいられず二階に上がった。
 まだ眠っている、時々舌を鳴らしながら・・・

 アタシは体を彼の横に滑り込ませ、彼の頭を胸に抱えると、そのまま眠りに落ちてしまった。

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--------一期一会--------

 大石さんの学校が始まって早一月、なかなか逢うことができない。

 ただでさえこの時期は私のテンションが下がる、
 年度末進行が終わって、残業や徹夜からも開放され、腑抜けになってるのに加え彼女に逢えない寂しさで何にもやる気が起こらない、脱力!
 冴美からは”今年の脱力は長いわね!”とか言われるし、うぅっスルドイ!

 五月の連休は父親と旅行、とかで全然逢えなかったし・・・
 彼女は来年大学受験、受験勉強も大学選びも絞り込まないと・・・と云う事だろうケドやっぱり寂しい・・・
 利用者のみんなも”最近彼女は来ないね~”と言うようになった。
 夜、明かりが灯いているから、家にはいるんだろうと思うけど、平日の昼間は学校に行ってるから無理、夜な夜なボランティアに行きます!って訳にも行かないだろうしなぁ。
 まぁ、父親と同年代かそれより年上の彼氏がいるなんて言えないよな?って、私はなに彼氏を気取ってるんだろう、恥ずかしい。

穴があったら埋めてください。
 
--------憑き物落とし--------


 今日は議事録を録音から起こしているうちにすっかり遅くなってしまった、
 そろそろ梅雨に入ろうとする季節、雨が降り出す前にお夜食を・・・と云う事でコンビニに行こうと作業所を出た。

 あぁ、こんな夜だった・・・彼女と初めて出会ったのは・・・
 あの夜に比べれば、幾分温かくなってる、時間もちょっと遅いかな?

 するとやはりあの時と同じように彼女が儚げに歩いてくる、俯き加減でゆっくりと・・・
 今夜も同じように声をかける。

「お帰り、大石さん」

 はっと顔を上げた彼女、私を認めると突然崩れるように倒れ掛かる。

 エディションの香り

 咄嗟に抱きとめ、彼女の家に向かうが誰もいる気配がない。
 今夜も父親は遅いのだろうか?
 とにかくこのままではと思い作業所に連れて行く。
 二階の寝室に寝かせ、おでこに手を当ててみると熱っぽい。
 体温計を耳に当てようと髪を掻き揚げる、すると彼女の首には絞められたような痕が、あぁ、これも秘密の欠片

“ごめん、大石さん、見られたくないだろうものを見ちゃった・・・”

 体温計は、三十八度四分。
 熱があるなと頭を撫でていたら、ザワザワと髪の毛の中から魍魎が顔を出した、しかも一匹や二匹ではない、髪の毛が波打つほど。
“なんでこんなに!いったいどこで?”

 ヤツらは醜い欲望や策謀があるところに湧いて出るのもの、とても彼女がそんなことに関わっているとは思えない、いや思いたくない。

 魍魎はトカゲの体にデフォルメされた人の頭を載せたように見える。
 厭な感じがする、とにかくこの魍魎を落とさなければ彼女が参ってしまう、熱が出たのもこのせいだろう。
 気を失っているうちにやってしまおう、憑き物を落とすところは特に見られたくない。


 憑き物を落とす方法は人それぞれだと思うが、憑巫を使う人は結構多いんじゃないかな?
 私の場合はそれが私自身であるということ、一時的に魍魎を体に取り込んでそれから落とす。

 まず、彼女の髪の毛の中に手を差し込み頭を両手で包み込むようにし、やわやわと揉みしだきながら祝詞をあげる、

“掛まくも畏き伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘の、小戸の阿波岐原に禊祓へ給ひし時に成りませる、祓戸大神等、諸諸の禍事罪穢有らむをば、祓へ給ひ清め給へと白す事を聞食せと、恐み恐も白す”

(かけまくもかしこきいざなぎのおほかみ、つくしのひむかのたちばなの、おどのあはぎはらにみそぎはらへたまひしときになりませる、はらへどのおほかみたち、もろもろのまがごとつみけがれあらむをばはらへたまひ、きよめたまへとまをすことをきこしめせと、かしこみかしこみまをす)


 色々と試したがこれが一番スピードが速い、え、何のって?魍魎を取り込むのにですよ。
 今までザワザワと彼女の中で蠢いていた魍魎どもが私の腕を通って入ってくる。

 腕の表面には魍魎どもの姿や顔が浮かび、やがてそれは私の腕といわず、顔といわず体全体に現れるだろう。
 何度やってもこの感触に慣れることはない、皮膚の下を何かが這いずってゆくような感触、鳥肌が立つ。
 
 それと共に断片的な彼女の記憶が、痛みを伴って私の心の一番深いところに入り込んで行く・・・

 彼女の心の痛み、体の痛み、昔の記憶、今の記憶。
 色々とごちゃ混ぜになった感覚が入ってくる、憎悪、快感、恐れ、悲しみ、そして憎しみ。

 これが彼女の秘密・・・

 そしてビジョン。
 私が知らない大石さん、知らなくてもいい大石さん、小さい頃の大石さん、現在の大石さん。
 メイド、セーラー服、浴衣、裸エプロン、男物のYシャツ一枚、首輪をつけて犬のような・・・
 それに見知らぬ女たち、彼女ぐらいの年齢。
 男たち、みんな年配、中にはどう見ても老人と思えるような人もいる、

 いたい!痛い、
 彼女の心の痛みが私に流れ込む、
 見られたくないだろうと思う、見られたことを彼女が知ったら私から離れて行くんじゃないだろうか?
 今度は私の不安が彼女の心に流れ出す。
 でもやっぱりいとおしい・・・離したくない。

 その中の一人と目が合ってしまった、色々な大石さんが一斉に私を見る。
 ヤバい!心の中を見てしまった事を気づかれた!
“見ちゃってごめん!でも離したくない!”
 私の心の叫びに気づいてくれるだろうか?気づいて欲しい、離れて行かないで欲しいと思った。

 彼女の体から魍魎どもがいなくなったのを感じ取ると、私はトイレに駆け込み、今取り込んだ魍魎どもをすべて吐き出した。
 食事をしていないので胃の中は空っぽ。吐くものがない時の嘔吐はかなりきつい。
 傍から見れば、胃液を吐き出しているように見えるだろうが、私には赤黒く腐った内臓を吐き出しているように感じられ、さらに吐き気が増す。
 結構獲り込んだようだった、永遠に感じられるほど吐き続けた。

 十数分後トイレから出た私は口をすすぎ、寝室に戻った。

 寝室ではまた彼女が眠っていた、安らかな寝顔、ん~睫が長いな~
 私はしばらく見とれていた、久しぶりに逢えた事がとても嬉しい、触ると消えてしまいそうな儚さが抱きしめるのを躊躇させる。
 こんな美人が実在すること自体が夢なのかも知れないと思ってしまう、でもちゃんと触れるんだよね。

 あのビジョンがよみがえる、涙があふれる、こんな少女にあんな秘密、思わず頬に手を当てる、と彼女が目を覚ます。

「キスしてもいいよ・・・」

 いたずらっぽく私を見つめる、あぁ、理性が崩れそう・・・
 私は涙を隠しながら。
「気が付きましたか、良かったです、家まで送りましょうか?といっても斜向かいですけど?」
「何も聞かないの?」
「ううん、いっぱい聞きたいけど・・・疲れてるでしょ?、また今度でいいじゃん。」
「そうね、久しぶりに逢えて嬉しい・・・泣かないで?」私はうなずく、ばれてたか
「忙しかった?」
 ちょっと彼女の瞳が曇る、まずかったかな?
「すこしね。」
 彼女は起き上がろうとしたが、また横になってしまった。

 私はベッドの傍らに膝をついて、彼女の髪を撫でながら幸せな気分に浸った。
 しばらくそうして髪を撫でていると彼女がまたいたずらっぽく、
「鼻の下が伸びてる・・・すけべ」と微笑む、
 私は笑顔を崩さずに頬にキスしょうとしたら、いきなり向きを変えられ、くちづけになってしまった。
 またしばらくの甘いくちづけ、お互いを確認しあうようにせわしなく動く舌、
 
 あ、エディションの残り香が・・・
 
 ようやく唇を離すと、すこし上気した顔で
「キス、上手・・・」
「大石さんこそ・・・勝てませんよ」
 少しの間見つめあい、ようやく上半身を起こした。
「さっき夢の中に一希さん、いたでしょう?」
「何のことかな?」
 一応とぼけてはみたものの、無駄だとはわかっていた、だって目が合っちゃったんだもんね。
「前に一希さん、言ってくれたでしょう?アタシはあたし、たとえ人殺しでも娼婦でも・・・って。
 例え話じゃなくなっちゃったけど・・・
 一希さんの心がアタシでもいいって言ってたよ?嘘じゃないよね?夢で逢ったよね?」彼女のすがるような眼差し。
「不倫ですよ?それでもいいですか?」
「そうやって、すぐ茶化して・・・だったらアタシは・・・娼婦よ!」
 彼女は話しているうちに泣き出してしまった、すまないと思った。
「ごめんよ、そんなつもりじゃなかったんだ、笑って欲しかった、じゃないとあまりに大石さんが辛すぎる。
でもやっぱり間違ってました、こんな時に茶化したりして・・・
ごめんなさい」
“ごめんなさい”を繰り返す私の口を彼女の唇がふさいだ。
 涙の味がするキス。
 お互い強く抱きしめあい、このひとときを分かち合える嬉しさを噛みしめた。

 どのくらいそうしていただろうか?
 突然、彼女のケータイが鳴った。
「ヤバっ!父様だわ、今何時?げっ十二時二十分?
帰らなきゃ!ごめんなさい、一希さん、あとでメールする、じゃ!」

 私に一言も言わせずにバタバタと階段を駆け下りる、そして玄関が開いて閉まる音、
 やれやれ、気まずくならなくてよかったけど、なんか物足りないなぁ、
 ん?メール?メアドは教えてないはず、仕事用のアドレスに送るつもりか?やばい、みんなが見るじゃん、あれはオープンアドレスなんだよな~

 とか考えていると、階下の電話が鳴った。

 慌てて事務室へ駆け込む、誰だこんな時間に?また誰か警察に保護されたのか?
 ウチの利用者に限らず、精神障害者は時々状態が悪くなると騒ぎを起こし、警察に保護される。
 十年ぐらい前なら、即、入院!だったのだが、最近はなかなかそうはならない。
 人権に配慮ということでそういう状態でも本人が希望しなければ無理なのである。
 まぁ、そういう状態のときは”オレは病気じゃない!”と吼えまくるので尚更である。

 おかしいなぁ?最近はみんな状態は良かったはずだな~と思いながら電話を取ると、
「アタシ、志津香です」
「あぁ、よかった。作業所にメールされたらとハラハラしたよ。
あのアドレスだと、みんなが使ってるパソに表示されるんだ。知ってたでしょ?」
「そう、メールしようとして今思い出したの。
で、父様がもうすぐ帰ってくるの、時間がないの。
作業所の郵便受けにメアド書いたヤツ入れとくからメール下さい。」
 そう言うと私の返事も待たずに電話が切れた、全く忙しい御仁だ。さっきまでのシリアスさは何処に行ったんだ?

 しばらくして郵便受けを見ると、二つ折りにされたかわいい便箋が入っていた。
 きれいな字だなぁ、
 率直な感想。美人さんてみんな字がきれいなのかなぁ?
 早速メールを送信、
 
 私の携帯は携帯ではない、今更ながらだがPHSである。
 仕事柄、病院に行くことが多いので電波送信出力の小さいPHSでないと色々とまずい事が起きる。
 目の前で不整脈で倒れられるなんてのは願い下げなのである。
 
 そうだ!彼女の着メロは何にしようかな~?
 久しぶりに、ウキウキしてる自分が恥ずかしい・・・

--------携帯電話のゆーうつ--------


Title:
 メアドありがと!>^_^<
Object:
 ん~なんか改まってメールしようとか思うと、結構恥ずかしいね。
大石さんと逢えなかった間、みんなから腑抜けだと言われてたんだよ、たしかに、いつでも大石さんのことを考えてしまって色々と手につかないし、お刺身にソースをかけてみたり、カップラーメンに水を入れてみたりしてます。
 あ、このPHSの番号はこれです。
070-50XX-XXXX

送信:OK!


着信:アリ
Title:
一希さん
Object:
夢で逢えたのは本当ですよね?夢の中の私のあんな姿も見られちゃったんですよね?


Titel:
見ました、すみませんm(__)m
Object:
謝って済むことではないですが・・・

送信:OK!


着信:アリ
Title:
一希さんの声、聞こえました(T_T)
Object:
嬉しかったです、一緒にいたいです、迷惑じゃないですか?
また逢ってくれますか?


Title:
待ってます(^o^)丿
Object:
いつでもOK!毎日でも逢いたい、ほんとにこの一月は寂しかったよ(T_T)

送信:OK!


着信:アリ
Titel:
うれしい・・・
Object:
それじゃ、今夜はもう遅いので寝ます。
おやすみなさい、ダーリン、あ、アタシの携帯番号は
090-37XX-XXXXです、
LOVE CALL Please Darling!

 ダーリンって・・・をい!メチャクチャ恥ずかしいじゃね~か!
 彼女の秘密はなんとなく分った、解ってしまった。もうエディションをつけるのはやめよう。
 あの香りは彼女の秘密と直結している、私の腕の中であの香りを感じることは、辛い時間の再現ではなかったのか?
 それでも私に抱かれてくれた、抱きしめてくれた・・・
 今度逢ったらぎゅっ!としてちゅ!ってしてやろうっと。

 今日は疲れた、帰らないでここで寝てしまおう、明日は休みだし・・・彼女の香りの残るこのベッドで眠りたい。
 と、冴美にメールを入れなくっちゃ・・・


--------家族の肖像--------

 アタシが家に帰り、作業所の郵便受けにメアドを差し込んでから、しばらくして父様が帰って来た。
アッチでの事を話すのも億劫だ。
 キッチンの椅子に座り父様を待つ、リビングよりはまし。
「今日は、ずいぶん遅かったんだな。」
 声すらも聞きたくないのに・・・
「先日、友達と学校近くで食事をしているときに石崎様が女性と一緒に現れて・・・
少しお酒が入ってたみたいで、アタシに声を掛けてきたんです。」
「それはまずいな、友達は何か言っていたのか?」
「ずいぶん、年上の人の知り合いね、って。
それからクラスで噂が広まって、担任に注意を受けました。
 学年主事や進路担当の先生の耳にも入ったらしいです、
今度呼び出しがあるかもしれません。そのときはよろしくお願いします。」って、アタシ役者!
 学年主事や進路担当の先生の耳に入ってるのは本当だけど、相手が違うもんね。
 今日子が言ってるのは一希さん、アタシが持ち出したのは石崎。
 父様は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「あのジジィに言ったのか?」
「もちろんよ!友達の前よ!
アタシ、あんな見るからにイヤラシイ男に声なんか掛けられたくないわよ!みっともない・・・
 連れてる女なんかケバくて、とっても恥ずかしかったわよ!
 オマケにあいつなんて言ったと思う?“新しいメンバーか?”だって!」
 アタシちょっと言葉遣いが悪くなっちゃった、ホントにアッタマ来ちゃってんだからねっ!
「そんなことも言ったのか・・・」
「だからアタシから翁様に報告したの。
そうしたら翁様が、申し訳ないと。
父様にもそれ相応の詫びをしなければと言ってらしたわ。」
「あのジジィ、いや翁公がか?俺に詫びだと?
 ・・・よくやった、おまえをあそこに送った甲斐があったぞ。」

 父様は嫌らしく笑う、あたしはこの顔をする父様が大嫌いだ、ま、普段からほかも嫌いだけれどもね。
大体自分の娘を人身御供みたいに差し出して成功しようって考えるほうが鬼畜でしょ。

 そしていつもはこのあと誰にどんなことをされたとしつこく問い詰める、どうやらそれで感じているらしい・・・
 だから近親相姦の願望があるんじゃないかとあたしは疑っている。

「じゃ、しばらく向こうには顔を出さないほうがいいな、
呼び出しがあったら今回のことで学校内で噂が立っているとでもしておこう。」
 えっ、マジ?やった~うれしい、ついでに既成事実を作ろうかな?
「それから、今度の事でボランティアをしなさいと担任から言われてるの、福祉施設みたいなところで、
でも出歩いてまた石崎みたなのに会うといけないでしょ、
 ちょうどこの家の前に障害者施設があるからそこでやろうかな?って、
もし学校でボランティアについて聞かれたらそう話してもらえません?」
「わかった」
 父様はそう答えると上機嫌で自分の寝室に入っていった、今日はこれでおしまいみたい。
 ちょっと石崎には感謝かな?
 明日、父様がいなかったら作業所に行ってみよう。


一希さん、いるかな?