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--------君と歩いてみたくて<志津香Ver,>--------

「そろそろお昼ですね、どっか食べにいきましょうか?」

 と、一希さんが言った。

 どうしたの?食事に誘うなんて、やっとアタシの魅力に気づいてくれたのかな?な~んてねっ!
 今日はおめかしして来てよかった!
 普段、あいつらに買ってもらったものなんか絶対身に付けないと決めてたけど、今日は絶対可愛いって思われたかった。
 そのためなら何でも利用するわ!

 せめて娘になれればと思ってたのに、妻だって! やっぱりオンナは色気よね、駅までの道がこんなに楽しいなんて思わなかった。
 パンプスだから一希さんより高くなっちゃうかと思ったけど、意外と背が高いんだぁ、オナカはちょっと出てるけど・・・

 一希さん御用達のコンビニ?店員の女の子とも仲がいいんだ、ちょっと嫉妬!
 向こうもアタシを見てる、なんか信じられないって顔?何よアタシが一希さんといるのが悪いっての?失礼しちゃうわ、プンプン! 

 二人で電車に乗るのも初めてだし、こうやって腕にぶら下がっているのも気持ちがいい。
 この電車、目的地に着かないでくれないかなぁ・・・でも一希さんが困っちゃうか、お昼ご飯を食べなきゃね、それも初めて、嬉しい!
 なんか、とにかく初めてづくしで嬉しさ爆発!
 電車を降りて、腕組んで、駅ビル抜けて、商店街。
 歩いてる時間を引き延ばすためにちょっとゆっくり、目的のパスタ屋さんまで歩く。

 このパスタ屋さん、好きなんだぁ、一緒に来られてとても嬉しい、でも相変わらず混んでるなぁ。寒いのに店の外の椅子かぁ・・・
 周りの人たちからはアタシたちどう見えてるのかな?
 ゲッ、それでもナンパ野郎は寄ってきやがるか。
 アタシはここぞとばかりに一希さんに引っ付く、ん~気持ちいい、いなくなった。

 やっと中に入れた、今日はボンゴレ!朝からボンゴレが食べたかった、あ、でもイカと明太子の青ジソ乗せも食べたいな、そうだ一希さんに勧めて一口貰っちゃお。

 店に入ると今日子に会ってしまった、相変わらず嫌味な女”いいわね~”だって、アッタリマエじゃんあんたの彼氏より何倍も素敵よ!二股かけられてるのも知らないクセにって、アタシは不倫だけどさっ。

 それよりもアイツよ!、何でこんなトコにいるのよ!それなりに金持ってるんだから、もっと趣味の悪いとこにでも行ってろっつ~の
 だいたい、外じゃ声を掛けちゃいけないんじゃないの?ジジィに報告しとかなきゃ。
 オマケによくあんなケバイ女連れて歩くわよね、この店には似合わないって解んないのかしら?バカはどこまで行っても馬鹿なのね。
 全く、秘密がばれそうになったじゃない、絶対許さない、ジジィを使って再起不能にしてやる。

 おかげで、パスタも味がわかんなかったし”一希さんのパスタを一口”も流れちゃった、悔しい・・・

 食後のコーヒーをいただきながら、とりあえず謝ろう。
「嫌な思いをさせてごめんなさい、アタシ・・・」
「今は、言わないでください、いえ、決して気にならないわけじゃないですよ。
でも今は、オレとデート中、オレ以外の男の事は話すのも考えるのも厳禁です、今はオレだけを見てほしい。」
「いいんですか?アタシは一希さんが考えているような女じゃ・・・」
「いいんです、そのままの大石さんが好きなんです。」
 ん?あれ~、やりぃ!好きって言ってくれた!
「今、”好き”って言いました?ね!」
「あぁ・・・いやぁ・・・そのう・・・」
「とぼけてもダメですよ!ちゃんと言いました、アタシ聞いたもん!
ん~ん、やっぱりアタシのコト好きなんだ~
・・・うれしい・・・」
「ハイ、済みません、言いました、忘れて・・・は、くれないですよね。」
 シメシメだわ!アタシは大きくうなづいた
 一希さんからの告白、って云うかアタシの告白を受け入れてくれた!

 不倫上等!目指せ妻の座!略奪愛!このまま最後までいっちゃう?

「わかった、今は一希さんのことだけ考えて、見て、味わうことにします。」
「・・・味わうって?なに?」
 やばっ、口が滑った
「あわわ、このコーヒーですってば。
ちょっとヤなコトあったけど、お腹も一杯になったし、どっか二人っきりになれるところに行こうよ!」
 誤魔化せ!誤魔化せ!っと
「二人っきりになれるトコって?」
「いいから、いいから」
 ちょっとビビってるかな?一希さん。
 この辺のラブホ、今はラブホって言わないんだっけ?ブティックホテル?まぁそんな言い方なんてどうでもいいや、知らないわよね~、ちょっとビビらせておいてカラオケにでも行って迫ろうかな?

 アタシは腕を絡ませ寄りかかって歩き出す。鼻歌だって歌っちゃうもんね。

 カラオケ屋の前で一希さんたら唖然としてた。
「ラブホにでも連れてかれると思った?」
「ハイ!正直言って、どうやって断ろうかと考えてもいました。」
「期待してたの!」なんて正直!
「あ、イエイエ、そんな、私は別に・・・」あわてて言い訳する。
「ちぇッ、やっぱりラブホにすればよかった・・・」

 きっとアタシ今、またエロい顔してる。もうカラオケなんかどうでもいい、一希さんに触ってほしい。今、抱きしめてほしい。何も考えられない、変なスイッチが入っちゃった。あのバカに会ったせい?
 なんか遠くで飲み物の注文とか言ってるけど、耳に届かない。どうすればいいの?一希さんが欲しい!
 あたしは思わず抱きついた、そして一希さんの手をとっておっぱいを握らせようとした。
 でも彼はやんわりとそれを制してその掌にそっとくちづける、

 ん~なんてカッコイイのよ!いつもアタシの体をまさぐるオヤジどもとは違う。
 いやいやあいつらと比べること自体失礼よね、海よりも深く反省!
 
 でもあたしの自慢のおっぱいを握らないなんて・・・せっかくのDカップを、確かに巨乳じゃないけど、美乳っていわれてるんだぞ!
 もしかして貧乳好み?そうか・・ロリだっけ?

「だめだよ・・・」
「どうして?やっぱり嫌いなの?」
「好きだって言ったでしょう?嘘じゃないよ、だからこんな形で大石さんを抱きたくない。
カッコつけてるわけじゃないですよ。
大石さんの秘密が気にならないわけじゃないけど、今は知らなくてもいい。
勝手だけど、オレにも夢みたいなものがあるんですよ、
ロマンチックな夢を見ることがあるんです。」
「ロマンチックな夢?」
 彼の手がアタシの腰に回される、あ、アソコがジンときちゃう、きっと今濡れてる。気持ちいい。
「初日は、色々と忙しいからディナーを済ませると早々にお休みなさい。でも、きっと次の日の朝は早く目覚めると思うんだ。
で、朝日が差し込むベッドルーム、隣に眠る大石さんに手をのばす、
 大石さんはまだ眠ってて、寝返りをうって背を向ける。
 オレは一人起き出してカーテンを開き、ベランダの籐の椅子なんかに腰掛けてよく冷えたバドワイザーを飲む。
 大石さんは隣にオレがいないことに気づきシーツを巻きつけ上体を起こす、そして”朝からビールなんか飲んで!”って叱る。
 あれ?シーツを体に巻きつけるってことは前の晩にHしちゃったってコトか?それはまずいなぁ・・・」
 うわぁ~なんか入っちゃってる~何?このロマンチック大王は・・・いまどき女子中学生でもこんな夢見ないわよ!
 ヤバイヤバイ早くこっちに引き戻さないと。

「アノ~、ちょっと妄想の世界に入ってません?お~ぃ一希さ~ん」
「あ、あぁ、ごめんなさい、かなり妄想に入ってました。
 でも、そんなシチュに一度でいいからなってみたいんです。
さっきも話したけど、学生時代は彼女を作るなんて余裕がなかったし、就職してからもほとんどがドサ廻りだったし、
金銭的に余裕が出てきたと思ったら冴美と結婚してしまったし。
 そしていつの間にかこんなデブの中年おやぢだからねぇ。
大石さんに出逢わなければ、こんな夢はユメのままだったでしょう?」

 そっかぁ、昔の女の娘なら見るかもね、
 アタシと三十も離れてるんだもんね有り得るかぁよ~し、一丁その夢に乗ってあげちゃお!
 確かに魅力的ではあるわね、そのシチュ

 二人とも全裸でシーツに包まれて眠る、朝日の中、一希さんのキスで目覚める・・・
 ううんダメ!最初に起きるのはアタシ、そして全裸の一希さんの体中にキスをするの。
 ・・・もちろんアソコにもたっぷり!
 あ~また濡れてきたのが解っちゃう、アタシも妄想の世界に入りそう・・・

「その夢を実現させたい・・・その夢の中にアタシ、入りたい、一希さんと一緒にいたい、結婚できなくてもいいから。」
 うそ、うそ。タテマエ、タテマエ。狙うわ、妻の座!

 ということで!
「さぁ、どっちから歌う?!」


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--------君と歩いてみたくて<一希Ver,>--------

「そろそろお昼ですね、どっか食べにいきましょうか?」

 長い話を聞いてもらい、少し、いや、かなり嬉しい。
 彼女の秘密は気になるけど、いつか話せる日が来るさ!と云う事でちょっと早めのランチに誘った。
「パスタが食べたい」
「この近所にあったかなぁ?」
「ん~とねぇ、・・・無いわねぇ・・・じゃぁ、お出かけしましょ?」
「はぁ?どこまで?あんまりお高いところは・・・」
「大丈夫、高校生が行くところだよ?そんなに高い訳ないでしょう。」
 いや~どう見ても高校生には見えないんですが・・・
「高校生が行くところって聖羅が知ってるかも、マズくね?」
 高校生という単語に反応した私を見て
「大丈夫、ほとんどがウチの学校の生徒しか行かないから」ってそれもっとマズくね?
「こんなおぢさんと一緒のところ見られたら、大石さんの評判が悪くなっちゃうよ?
”え~なに~?志津香ってシュミ悪ぅ~”とか、“ジジ専?”とか」
「そんなことないよぉ、もしそんなヤツがいたらひっぱたいてやる。」
 ちょっと、目つきがヤバいんですが・・・マジ?
「でも、嬉しい。一希さんから誘ってもらえるなんて。」
 んなコトで、涙ぐむなよ~

「大石さんはこんなに美人さんだから、カレシとかいるでしょうに?」
 私は話しかけながら、出来上がった書類を発送する準備をしに事務室へ向かった。
 彼女も後ろから付いてくる。
「そんなコトないってばぁ、でも”ジジ専”は当たってるかも。
あんまり同年代の男の子に興味が持てないって言うか、下手そう・・・」
 その言葉に思わず振り向いてしまった、
 最後のところは声が小さかったけど、なんかものすごいコト言ってたような?
 聞き違いだったか?
 彼女といえばは真っ赤になってうつむいていた。
「・・・・」
「まぁ、とにかく出ましょうか」
 ちょっと気まずい沈黙が流れたので書類を抱えて出発を促した。

 外に出ると春の日差しが目に痛かった。やっぱり四十八歳、徹夜明けにはつらい太陽。
 でも、彼女は嬉しそうに手を繋ごうとする。
「やっぱり手を繋ぐのは、まずいんじゃないでしょうか?ご近所で変な噂が流れると困りません?」
「ん~そうねぇ、親子ということでいいじゃない?聞かれたら一希さんは”ウチの娘のせーらです”って言えばいいでしょ?」
 あのぅ・・・聖羅はボランティアでよく来てるんですけど・・・
「あ、娘だったら腕組んでもOK!よね?」
 いやいやもっとダメでしょう?

 第一そのコート、高校生らしくないです。どう見てもリアルファーです、シルバーフォックスですか?社長の娘との事で、そういうのを持っているのは解りますが、とても作業所の所長ごときが買えるシロモノではありませんよ。
 それにそのパンプス、ピンヒールじゃないですか!コートの裾から見えているスカートこそチェックの捲きスカートですが、見る人が見ればカシミヤって判りますよ。
 でも、許してもらえそうもないし,ずいぶんオトナっぽく見えるから・・・
「では、”妻”ということで・・・」
 妻という言葉を聞いたとたんパァッと満面の笑みがこぼれた。
「やった~!”妻”だって、
”妻”!ん~ん、いい響き、うれしぃ!」
 私はパスタどころではなく胃が痛い・・・

 ともかく駅までは、知り合いに会うこともなくたどり着くことができた。
 駅前のコンビニで書類を送り、長かった年度末処理は終了、やっと終わった~
 仕事は終わったし、隣にはこんな美人さんがいるし、やっと春が来たって感じかな~
「一希さ~ん、アタシ嬉しい」ハイハイ、私も嬉しい。
 でも傍から見れば、どんなカップルだよ、
 片や、シルバーフォックスのリアルファーコートにカシミヤの捲きスカート、足元はフェラガモのピンヒール。
 片や、安物のダウンジャケットにチノパン、くたびれたスニーカー・・・

 は~ぁ

------------------------------
 
 彼女の教えてくれたパスタ屋さんは電車で三つ先の駅の近く。
 なるほど彼女の学校からも近いし娘の学校とは反対方向。
 日曜日のお昼前ということで少し待たされることに。

 やはり美人の彼女は注目されるようで、店外の椅子に腰掛け順番を待っていると、通り過ぎる男達は彼女を見、それから私を見て複雑な表情を向ける。
 決して私を父親だとは思っていない目だ。
 中にはナンパ目的で近づいてくるものもいるが、そいういう輩に気づくと彼女は私に腕を絡め、微笑んで見せる。
 するとナンパ男は私を睨んで立ち去る・・・
 ウウウ、針のムシロ、胃が痛い・・・

 十分ほど待たされて、席に案内されると今度は彼女の同級生がいた。
 あちゃ~、アセ、汗。
「どうしたの志津香じゃん?珍しいね、日曜日に出歩くなんて。」そう言って私を一瞥する。
「アタシだってたまにはデートぐらいするわよ」
 ちょ、ちょ、デートって、ほら友達がまじまじと私を見る~
 でも女友達は彼女がこんな年上の男といることを見慣れているのか”いいわね~”と言い残し去って行った。
「デートなんて言っちゃって良かったんですか?」
「迷惑?」
「いえ、嬉しいですけど・・・」
「なら、問題なし!それより何にします?」
 いや・・・問題なしって・・・
 しょうがない。とりあえずメニュー、いろいろあるなぁ、こんなときは素直に聞きましょう。
「おすすめは?」
「ん~アタシはボンゴレセットにするけど・・・そうそう、イカと明太子の青ジソ乗せも、おいしいって聞いた。」
「じゃ、それにします」
 でも、ホントこんな事は久しぶり、冴美とは二人っきりでデートなんてしたことないし・・・
 そういえばデートなんて高専時代以来かも?

 私たちは他愛もない話をしながらパスタが来るのを待った。
 彼女の学校の話、作業所の話、お互い触れてはいけないところを避けながら。

 その話の途中、私の背後から話しかけてきた客を見たとたん、彼女の笑みが凍りついた。
「新しいメンバーかい?」
 その男の声はややかすれ気味で、言葉には揶揄するような響きがあった。

 振り向くとその男の背後に赤黒いぶよぶよとした腐りかけた泡のようなものを感じた。

 私の”力”のひとつ”悪意が見える”
 普段は意識しないと見ることはできないが、たまに見えることがある。そんな時はたいてい私に対しての悪意だ。

「外で、アタシに声をかけたわね、どうなるかわかってるんでしょうね。」
 彼女の憎悪に満ちた言葉に男は少しひるんだようだった。

 いつもはわりと高めの小さな声なのに、今はとても低い声で、初めて聞いた。
 男は戸惑いを隠せず、汚い言葉を吐き捨てると連れの女性と共に出て行った。

 男が店の外に消えると、うつむき加減でポツリと彼女が言った。
「こんなところで会うなんて・・・」
 動揺する彼女を落ち着かせたくて・・・彼女の手をきつく握りしめた。

 それから私たちは無言のまま、運ばれてきたパスタを食べた。
 パスタはアルデンテでとてもおいしかったけれど、何度、話しかけても彼女は答えてはくれない。
 私達二人は無言のままで食事を終えた。
 その後、食後のコーヒーが出てくる頃やっと彼女が話し始めた。
「嫌な思いをさせてごめんなさい、アタシ・・・」
 私は言葉をさえぎった。
「今は、言わないでください、いえ、決して気にならない訳じゃないです。
でも今は、オレとデート中、オレ以外の男の事は話すのも考えるのも厳禁です、今はオレだけを見てほしい。」
「いいんですか?アタシは一希さんが考えているような女じゃ・・・」
「いいんです、そのままの大石さんが好きなんです。」

 ヤバっ!”好き”って言っちゃったよ・・・
 勢いとはいえこれはマズイだろう、嘘じゃないぶん。どおしよお~
 彼女は目をまん丸にして
「今、好きって言いました?ね!」
「あぁ・・・いやぁ・・・そのう・・・」
「とぼけてもダメですよ!ちゃんと言いました、アタシ聞いたもん!
ん~ん、やっぱりアタシのコト好きなんだ~・・・うれしい・・・」
「ハイ、済みません、言いました、忘れて・・・はくれないですよね。」
 彼女はにんまりと笑顔を作って大きくうなづいた
 恥ずかしい!四十男が勢いで未成年に告白しちゃったよ!女房子供もいるってぇのに、淫行条例に引っかかるよな~
”福祉施設職員未成年に告白!淫行条例違反で・・・・”ってあれ?好きって言ったくらいじゃ捕まらないか?
 でもさっきまでの落ち込みがなくなったからヨシとしよう、ちょっと高くついちゃったけど。
「わかった、今は一希さんのことだけ考えて、見て、味わうことにします。」
「・・・味わうって?なに?」
「あわわ、このコーヒーですってば。」
 をいをい、ホントか?
「ちょっとヤなコトあったけど、お腹も一杯になったし、どっか二人っきりになれるところに行こうよ!」
 やっぱり淫行条例違反だ~
「二人っきりになれるトコって?」
「いいから、いいから」
 パスタの値段はそれほど高くなく、その割にはかなりおいしい、学生が来るの頷ける。
 なかなかいい店を教えてもらった、と思ったが、家族を連れて来るわけにはいかないよなぁ・・・やっぱり。

 彼女は嬉しそうに腕を絡ませ凭れ掛って歩き出す。
 鼻歌なんか歌っちゃってそんなに嬉しいか?こんなおぢさんと歩くのが???

 しばらく繁華街を引きずられるように歩き、たどり着いたところはなんとカラオケ屋!
 う~ん、確かに二人っきりにはなれるわなぁ
「ラブホにでも連れてかれると思った?」
 といたずらっぽく私の顔を覗き込む、
「ハイ!正直言って、どうやって断ろうかと考えてもいました。」
「期待してたの!」
「あ、イエイエ、私は別に・・・」
 慌てて言い訳する。
「ちぇッ、やっぱりラブホにすればよかった・・・」
 ちょっと目つき悪いです、美人さんが台無しです、トホホ、何かいつもこうやって、つけこまれるんだよな~オレの人生。
 でも昼間っから、酒も呑まずには歌えないっす・・・
 私の躊躇にはお構いなしに店内へ”とりあえず五時間”ってなに?そんなに歌うの?ムリだ~、おぢさんはトシなんだよ~、そんなにレパートリーがあるわけないじゃん!・・・って言ってんのにぃ

 日曜日の真っ昼間だというのに、店内はそれなりに埋まっている、やっぱり学生が多いみたい。
 部屋に入ると飲み物と、ちょっとしたスナックをオーダー、彼女はピーチティーで私は生ビール、昼間っからすみません。

 飲み物とスナックが運ばれてきたけれど歌う様子がない。
 と、突然抱きついてキスを・・・
 いきなりでびっくりしたけど思いつめているのに気付いてしまい、もうただ抱きしめるしかなかった。

 やがて彼女は私の手をとるとセーターの中に差し込み自分の胸に押し当て、少し上気した顔で見つめる。
 しかし私は逆に彼女の手をセーターから引き出すと、その掌にそっとくちづけた。
「だめだよ・・・」
「どうして?やっぱり嫌いなの?」
「好きだって言ったでしょう?嘘じゃないよ、だからこんな形で大石さんを抱きたくない。カッコつけてるわけじゃないですよ。
大石さんの秘密が気にならない訳じゃないけど、今は知らなくてもいい。
 勝手だけど、オレにも夢みたいなものがあるんですよ、ロマンチックな夢を見ることがあるんです。」
「ロマンチックな夢?」
 私は彼女の腰に腕を回し、横抱きに抱きしめながら答えた。
「タヒチか、パラオ、ん~どこでもいいや、コテージがあるどこかの南の島へ二人で行くんです、
十日か二週間くらいでいい、日がな一日のんびりとビーチで過ごし、まぁ、時にはスキューバなんかしながら休暇を楽しむ、
あ、オレ、ダイビングのライセンスを持ってるんですよ。」
「あたしも持ってる!アドバンス!」それはいいですねぇ~
 腰に回した手を頭に移し、今度は髪を撫でる。
「初日は、色々と忙しいからディナーを済ませると早々にお休みなさい。でも、きっと次の日の朝は早く目覚めると思うんだ。
で、朝日が差し込むベッドルーム、隣に眠る大石さんに手をのばす、
 大石さんはまだ眠ってて、寝返りをうって背を向ける。
 オレは一人起き出してカーテンを開き、ベランダの籐の椅子なんかに腰掛けてよく冷えたバドワイザーを飲む。
 大石さんは隣にオレがいないことに気づきシーツを巻きつけ上体を起こす、そして”朝からビールなんか飲んで!”って叱る。
 あれ?シーツを体に巻きつけるってことは前の晩にHしちゃったってコトか?それはまずいなぁ・・・」
「アノ~、ちょっと妄想の世界に入ってません?お~ぃ一希さ~ん」
「あ、あぁ、ごめんなさい、かなり妄想に入ってました。
でも、そんなシチュに一度でいいからなってみたいんです。
 さっきも話したけど、学生時代は彼女を作るなんて余裕がなかったし、就職してからもほとんどがドサ廻りだったし、
金銭的に余裕が出てきたと思ったら冴美と結婚してしまったし。
 そしていつの間にかこんなデブの中年おやぢだからねぇ。
大石さんに出逢わなければ、こんな夢はユメのままだったでしょう?」
彼女はしばらく考え込んでいたようだったが、やがて・・・
「その夢を実現させたい・・・その夢の中にアタシ、入りたい、一希さんと一緒にいたい、結婚できなくてもいいから。」

 彼女は私をぎゅっと抱きしめると晴れ晴れとした顔で言った

「さぁ、どっちから歌う?!」


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--------過去からの声--------


 今日は日曜日、約束どおり大石さんと二人っきりでお話中。
 普段は何でもない休憩室が心持ち明るくなったようだ。
 古いソファーも今日ばかりは座り心地がいいみたい。
 でも、気を抜くと睡魔が襲ってくる、ヤツらはどこにでもいるから気をつけないと・・・・


「前に女房のことを聞かれて、話をはぐらかしたよね、
それから、オレは孤児だって事も話したよね。
 これから話すことは家族以外は知らない、初めてほかの人に、大石さんに聞いてもらいたいと思った。
 聞きたくなかったらそう言ってね。まぁ、他人の過去なんて面白いもんじゃないのは解ってるから・・・」
「ううん、一希さんのことは何でも知りたい・・・アタシの事は・・・まだ話せない、話したくないこともあるから。
・・・お願い。」
 彼女は上目遣いに私の顔をじっと見る。

「オレの名前をつけたのは誰なのか・・・知らない。物心付く頃には養護施設にいた。
居心地は悪くは無かった。
 ただ、何年かに一度、人事異動で、慕っていた職員が入れ替わるんだ。
小さい頃はそれが辛かったね・・・
 でもそれも小学校高学年になると受け入れられるようになる、いや、受け入れざるを得なくなるってコトかな?
 まぁ、中にはその職員を慕って脱走するものもいたけどね・・・」

「さみしかった?・・・よね?」

「寂しくなかった・・・といえば嘘になるけど、やはり諦めが先に立っちゃう。
自分より大きい子達からはあきらめムードが漂っているから、やっぱり解っちゃうんだよ」
「養護施設、ってどんなところ?よく小説とかでイジメや虐待とかあるって言うけど」
「まぁ、まったく無いといえば嘘になるけど、それほどひどくは無かったよ、オレにとってはね・・・ほかのやつはどうかは知らない。
天国とは言わないけど、普通に暮らす分には問題は無かったよ、十八歳までは施設にいられるし。
 だから、中学を卒業する頃になると奨学金をもらって高校に行くか、就職するか悩むんだよ。
 高校に進学できれば施設にいられる、就職なら施設を出なければならない。
で、オレは多少勉強ができたんで高校へ・・・
といっても普通高校ではなく工業高等専門学校、通称高専。五年制の国立学校、知ってるでしょ?
 成績によっては入学金も、授業料も免除されるんでとにかくそこに入った、お金が無かったから。

そしてオレが高専に入学した年に施設に来た三歳の女の子がいた。

 かわいかったよ・・・小さい子の方が里親に引き取られやすいから、その子もすぐに引き取られるんだと思ってた。
だから、あまり関わらないようにしていたんだけど、なぜかその娘・・・冴美・・・と言うんだけどくっついてくるんだ。
 懐かれてもなぁ・・・って最初は思ったよ。
 施設では、大きい子が小さい子の面倒を見るのが決まりになっていて、進学の決まったオレが”暇だろう”と云う事で係りになちゃったんだ。
 でも一緒にお風呂に入り、ご飯を食べさせ、トイレも教えて・・・なんか”妹”ができたような気がして嬉しかった。
 でもやっぱり別れの日は来るんだ。」

 彼女は私の頬に触れると小さな声で
「とっても悲しそう・・・大丈夫?」と声をかけてくれる。私はうなずき、話を進めた。

「冴美が引き取られていったのはオレが学校に行っているうちにだったよ、
きれいな洋服を着せてもらい、遊園地に行こうと誘われたんだって。
 学校から帰ってきて、冴美の荷物がなくなっているのに気づいたけど何も言えなかった。
 施設の職員もオレが冴美の事を聞いてこないので不思議がっていたなぁ・・・
”冷めてるね”とも言われた。
でもね、もう、聞かなくても判るさ、職員は二、三年で入れ替わるけどオレはもう十何年もそこにいたんだ。
何人も出て行きオレは残される・・・」

 言葉に詰まってしまった私の頬に、優しくキスをしてくれる。
「どうして一希さんは引き取ってもらえなかったの?」

「どうしてだろうねぇ・・・
女の子は割と引き取られやすいっていうのは聞いたことがあるけど、縁がなかったんだろうね。」

 本当はそうじゃなかった、私の”力”が気味悪がられていたんだ。
 子供の頃は能力全開、隠そうとも思わなかったし、自分にしか見えていないんだと気付いてなかった。
 隠すことを覚えた頃にはもう引き取り手がない歳になっていたから。
 でもこのことは知られたくない、大石さんにだけは・・・だって、嫌じゃん、気味悪いだろぅ?

”人が見えないものが見える”
”人の悪意が見える”
”憑き物を落とせる”

 大げさに言えばこの三つが私の能力。

「・・・冴美がいなくなって、初めて大事な人だったと気付いた、また会いたいと思った。
でも誰も冴美の居場所を教えてはくれない。
 当たり前だよね一緒の施設にいたといってもオレと冴美は赤の他人、兄妹じゃないもんね。
 でも、あきらめかけていた頃、冴美が戻ってきた、理由は不明。また二人で暮らせることを素直に喜んだよ。
その後も何度か冴美は引き取られるんだけど、やっぱり帰ってきてしまう。

 冴美といられるのは嬉しいけど、今度はオレが施設を出なければならない歳になった。」

 彼女は私の頭をひざに乗せると、うっとりとした顔で見つめ、そしてまたあのついばむようなキスをくれた。

「施設を出て今度は、学校の”寮”に入る事になった。
 オレは毎週末、冴美に会いに行ったよ、小っちゃい子はすぐに大きくなる。
施設に会いに行くとねぇ”一希”ってオレを呼ぶんだよ、発音は”かぁ~じゅきぃ”。
お兄ちゃんじゃないんだ、施設のほかの子に対しては”おにいちゃん””おねえちゃん”って呼ぶくせにさ。」

 冴美が返される理由も私と同じだった、後で知ったこと、本人からそう聞いた。
 私は冴美に”力”の隠し方を教え、そして八歳の時に引き取られてからは二度と戻らなかった。

「でもオレの就職が決まった頃、冴美も引き取られてっちゃった。」

 彼女の膝枕と云うか、太ももはとても柔らかい。あ~、ダメだ。ヤツらが襲って来た!睡魔が・・・

 夢を見ていた、これは夢だと解る夢。
 夢の中で私は五歳くらいの頃の冴美とプールにいた、
「冴美!もう上がろうよ、夕ご飯までに帰らないとまた、かあさん先生(施設の職員のことをそう呼んでいた)に怒られちゃうよ~」
 夢の中の冴美はなぜか大石さんだった。
「かぁじゅきぃ、もうしこし、もうしこし」
 大石さんの冴美は、舌がまだ廻らないので”もうすこし”が”もうしこし”になってしまう。
「”しこし”じゃなくて”すこし”でしょ、それよりシャワーを浴びて帰るよ、今日は確かハンバーグだったよ!」
 大石さんの冴美は”ハンバーグ”と聞くと喜び、勝手な節回しで”はんばぁぐ、はんばぁぐ、しこしおこげのはんばぁぐ”と歌いながらシャワーのところまで来た。
シャワーはなぜかお風呂にあるようなシャワーで、勢いよくお湯が出ない。
 真下に入りノズルを見ると、一適、滴った。

 目を開けると彼女の瞳から涙がこぼれていた。思わず上体を起こし、頬に手を当て、くちづけした。
長いくちづけ・・・舌を絡ませ、唾液をすすり、口蓋を舐るような、熱いくちづけ。
 そして彼女が瞳を閉じると、それまで湛えられていた涙が一斉に流れ、自分の頬と私の掌を濡らした。

 やべぇ~娘とあまり変わらない歳なのに、本気になりそう、まずいよな~
 でも、とてもいとおしい・・・

「夢を見てたよ、大石さんが小さい冴美で、一緒にプールにいるんだ。
 帰ろうとしたんだけどシャワーが出ない、お湯が一適しか出ないんだよ。
 でも夢だって解ってたんだ、解ってたはずなんだけど・・・この甘いキスも夢の続きなのかな・・・」
「そう、これも夢なの・・・だから何度でもくちづけできるの」

 とても高校三年生とは思えないオトナのような言い回し、妖艶さ。
 これじゃどっちが年上かわかんないじゃないか~

 そのあと、頭を抱えるようにして、再び熱くくちづけしてくれた。

 やがて口付けを終えると大石さんが尋ねた。
「ねぇ、一希さん。結局冴美さんのその後はどうなったの?」
「ん~、話はまだ続くんだけど・・・最終的には、オレの奥さんに納まってます」

 彼女の目がテンになったのが解った

「なによ!そんなオチ!?」
「いや、オチも何も・・・」
 どうも本気で怒ったようだった。
「も~、なによ!オトナのクセにもったいぶっちゃって!アタシを口説いてたの?
お話としてはとてもいい話だったけど、お涙ちょう~だいも中途半端だし!」
 やべ~ホントに怒っちゃったよ!
「泣きながら聞いてたのに!損した!アタシの涙を返しなさいよ!」
 そんなムチャな!いい話だって言ったじゃないか~

 私は起き上がってソファに正座をし、頭を下げて
「いや、だから、まだ続きがあるんだって、別にお涙頂戴的に話を作ってないよ、全部ホントの事なんだから・・・信じてください。
でもごめんなさい、そんなに怒るとは思わなかった・・・」
 大石さんは不信感丸出しの目を向けながら・・・
「解った、じゃ、続き!早く言いなさいよ!」
「はいはい」
 
 なんで怒られなきゃならないんだよ~
 私はソファに座り直すと話を続けた。
 
「その後冴美とは会えなくなった、でも冴美はオレの住所を知ってて、時々手紙をくれたんだ。
オレも手紙を書いたよ。汚い字でね。
 何度か手紙のやり取りをしているうちに変なことに気づいたんだ。
どうやらオレからの手紙は冴美の手には渡っていないらしいってね。」
「里親さんが渡さなかったとか?」
「そうらしい、たまに運良く冴美が家にいるときに手紙が届くと読めるんだけど、見つかると捨てられてたって言ってた。」
「そんな・・・酷い。」
 彼女は信じられないという顔で呟いた。
「しょうがないよ、里親にしてみれば、施設の人間が連絡して来るってのは自分の娘はもらってきた子供ですってバラされる感じがするだろうし、実際、子供を引き取った後引っ越す里親も多いんだよ!」
「バレないように?」
「そう、聞いた話では本当の親が里親を強請るなんてこともあるらしい・・・ましてやオレなんか、本当の兄でもないしさ・・・。
そんな男からの手紙は処分し、忘れてもらうのが一番って思うでしょ。」
「それでも良かったの?」

 その話をされるととても辛い。実際に忘れようとした時期もあった、昔の話だが。
 冴美にそれで責められたこともあった。
 そのことに私の表情が曇ったのだろう、彼女もすまなそうに見ていた。

「うん、やっぱり忘れられなかった、今みたいにケータイとか、メールとかが発達していなかったし・・・
だから、仕事で地方へ行くたびに絵葉書を出したんだ。
 その頃のオレの仕事はコンサートの音響や照明の設置だったんで、しょっちゅう地方公演とか行ってたんだ。
 でも、絵葉書には何も書かない、誕生日やクリスマス、年賀状なんかはちょっと”おめでとう”とか、入れたけどね。
そうそう、今でも冴美の宝物はその頃もらった一枚の絵葉書なんだよ。」
「どんなの?」
 ちょっと、表情が柔らかくなった。よかった・・・やれやれ・・・

「それは、オレが初めて海外ツアー、ツアーといっても旅行じゃなくて、仕事のツアーね。
それで行ったサイパンからの絵葉書、マニャガハ島というサイパンの沖にある小さなリゾートアイランド。
その全景の写真が印刷されているヤツ、
 よくあるでしょ、青い空、白い雲、エメラルドグリーンの海に椰子の木が生い茂るビーチ。
 たまたまそれは冴美が家にいる時に届いて、見つからないように隠し通したらしい。
そんな不毛な文通が十年ぐらい続いたかなぁ。突然、結婚式の招待状が届いたんだ。
冴美はもう十八歳になってた。」

 彼女は”えっ”と云う顔で私を見た。

「そうなんだ、それまで時々その男の子の事が手紙に出てきてたんで、いつかは・・・って、
だから”あ!やっぱり?”って、なんか安心した。
 本当の家族ができた事を喜んであげたいと思ったしね。
 これも後で聞いた話なんだけど、オレを快く思っていない里親を彼氏と二人で説き伏せて、式に呼んでくれたんですよ。

 でも行かなかった・・・いや、行けなかった。冴美の過去を曝すような気がして・・・

 会場はは軽井沢の小さなチャペル、屋外でだったから、ウエディングドレス姿の彼女を見ることができたのは嬉しかったな。
 式はオレが来ないので遅れに遅れたらしいです。後でメチャクチャ怒られました。」
 
 彼女ははふと遠い目をして呟いた。
「アタシだったら・・・やっぱり来てほしい。
 理屈じゃなくて、愛している人には来てほしい。」

「大石さんも何か秘密がありますよね、秘密を秘密のままにしておくことは悪いことではないと思います。
 無理やり自分を説き伏せて話そうとすることのほうが悪い事だと思ってます。
時が来れば、時間をかければ”秘密”は”物語”に変わるんじゃないかな?
今はあせらないで、時を待ちましょう。」

 今度は私からのついばむようなキス。

「・・・二人が暮らし始めた翌年、子供ができたと手紙がきたんで、”いや~早ェ~な~”と・・・
子供が生まれたと勘違いをしてまして、妊娠が判ったというだけでした。
 その頃になるとオレも会社ではちょっと役がつきまして、あまり外回りをしなくなってましたから、それから時々・・・と言っても本当にたまにですが電話をするようになりました。
 そして、出産が近づき、彼の実家に帰っていた頃、雪が降った日でした。
 二人は買い物に出たんだそうです。
いろいろと出産準備で入用だったんでしょう、交差点で信号待ちをしている歩行者の中に雪でスリップしたトラックが突っ込みました。
二人が死亡、六人が重軽傷、だったと思います。
 冴美は無傷でしたが、彼は死亡した二人のうちの一人でした。」

 私はこのことを思い出すたびにどうしてもため息をついてしまう。
 ニュースで信号待ちの歩行者に車が突っ込むというのが流れると、今でも冴美は彼に会う前に戻ってしまう。
 そして現在に戻るのには数日が必要だ、それから薬も・・・
 彼もかわいそうだと思うが、生きている冴美の方がもっと辛いということを思い知らされて、思わずため息が出てしまう。

「それからの冴美はもう出産どころではなかったそうです、
一見平静に見えるのですが、家中のドアを頻繁に開けたり閉めたりを繰り返す。
彼を探していたんでしょう、そのうち、幼児退行が見られるようになり、入院です。」
「幼児?・・・」
「幼児退行
”精神症状のひとつで、現実が受け入れられなくなった脳が、その受け入れられない事柄が起きる前の状態がベストと判断したため、現在を受け入れることを拒否し、昔の状態に戻しキープしようとすること。”
と物の本には書かれていますね。
 そしてそれは、妊娠している自分の状態、ひいてはおなかの赤ちゃんまで否定する事になっちゃったんです。
このことを知ったのは、事故から二週間後、出産予定日まであと三週間の頃です。
 オレに連絡するのを最後まで強硬に反対していた里親を説き伏せたのは亡くなった彼の両親でした。
あまりに冴美が”かじゅき、かじゅき”と泣くのでたまらなかったと・・・」
「なぜそんなに里親さんは一希さんを嫌うのでしょう?」
「さぁ?、今でもよくわかりません、知りたいとも思いませんし。」

「オレは病室で久しぶりに冴美に会いました。
 冴美は拘束され・・・彼氏を探して歩き回るので・・・、憔悴しきっていました。
その頃には外界からの刺激にもほとんど反応しなくなっていたと言います。
 実際に声を掛けても無反応で、食事も全て、胃にチューブを差し込んでの状態でした。
 遠目でウエディングドレス姿は見てますが、そんなに近くで見るのは小学校二年生、最後に里子に出されて以来です。
そんな彼女を目の当たりにして、涙が止まりませんでした。
 オレは眠っている彼女の耳元で名前を呼びました。すると今まで無反応だった彼女が、小さな声で”かじゅき”と呼んだんです。」
「それから?」
「まず医者は、冴美の精神の平衡を保たせるためにオレを彼氏と混同させることにしました、そうすることで、退行している時間を現在と同期させられます。
また、彼とオレを混同することで”愛してくれる人の不在”が解消され、おなかの赤ちゃんにも愛情を注ぐことができる可能性が出るのです。
 ただこれには大きな危険と云うか危惧されることもあったんです。
彼に出会う前、つまり子供の頃の妊娠だと納得させられるかと”愛”の種類です。
”恋人に対する愛”と”肉親に対する愛”はおのずと違うじゃないですか、
もし冴美が”オレに対する愛”を”彼に対する愛”と同一視してくれなければすべてが崩壊しちゃうんです。」

「あのぅ・・・ところで彼氏さんの名前は?」
「彼氏の名前も・・・」

「かずき?」

 彼女が一番いいところを取ってしまったのはちょっと悔しい。

「うそのようなホントの話・・・だから医者も思いついたといってました。まぁ、字は違いますけどね。」
「じゃぁ、娘さん、せーらさんというのは?」
「はい、彼氏のカズキの子供です。オレと血は繋がってません。

 ・・・こんなしょ~もない話を聞いてくれてありがとう、知り合って二週間足らずなのにこんな話をしてしまってすみません。
 でも大石さんにはオレを知ってもらいたかった、他人とは区別しておきたいんです、いい意味でね。」
「わかってる。」
 彼女は私の胸に顔をこすり付けて甘えたような声で言った。
「ところで今、冴美さんはどうなっているんですか?十六歳のまま?いったい何歳なんですか?」
「精神状態はリアルタイムです、聖羅が彼氏のカズキの子だということも理解してますし、
何せ結婚写真がありますからね、で当年とって三十六歳です。十二歳違いますから」

 歳の話をするとみんなロリコンだ!ロリコンだ!って言うんだよなぁ~
 あぁ・・・彼女もそんな目で見てるみたいだ~、言わなきゃよかった。