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--------過去からの声--------
今日は日曜日、約束どおり大石さんと二人っきりでお話中。
普段は何でもない休憩室が心持ち明るくなったようだ。
古いソファーも今日ばかりは座り心地がいいみたい。
でも、気を抜くと睡魔が襲ってくる、ヤツらはどこにでもいるから気をつけないと・・・・
「前に女房のことを聞かれて、話をはぐらかしたよね、
それから、オレは孤児だって事も話したよね。
これから話すことは家族以外は知らない、初めてほかの人に、大石さんに聞いてもらいたいと思った。
聞きたくなかったらそう言ってね。まぁ、他人の過去なんて面白いもんじゃないのは解ってるから・・・」
「ううん、一希さんのことは何でも知りたい・・・アタシの事は・・・まだ話せない、話したくないこともあるから。
・・・お願い。」
彼女は上目遣いに私の顔をじっと見る。
「オレの名前をつけたのは誰なのか・・・知らない。物心付く頃には養護施設にいた。
居心地は悪くは無かった。
ただ、何年かに一度、人事異動で、慕っていた職員が入れ替わるんだ。
小さい頃はそれが辛かったね・・・
でもそれも小学校高学年になると受け入れられるようになる、いや、受け入れざるを得なくなるってコトかな?
まぁ、中にはその職員を慕って脱走するものもいたけどね・・・」
「さみしかった?・・・よね?」
「寂しくなかった・・・といえば嘘になるけど、やはり諦めが先に立っちゃう。
自分より大きい子達からはあきらめムードが漂っているから、やっぱり解っちゃうんだよ」
「養護施設、ってどんなところ?よく小説とかでイジメや虐待とかあるって言うけど」
「まぁ、まったく無いといえば嘘になるけど、それほどひどくは無かったよ、オレにとってはね・・・ほかのやつはどうかは知らない。
天国とは言わないけど、普通に暮らす分には問題は無かったよ、十八歳までは施設にいられるし。
だから、中学を卒業する頃になると奨学金をもらって高校に行くか、就職するか悩むんだよ。
高校に進学できれば施設にいられる、就職なら施設を出なければならない。
で、オレは多少勉強ができたんで高校へ・・・
といっても普通高校ではなく工業高等専門学校、通称高専。五年制の国立学校、知ってるでしょ?
成績によっては入学金も、授業料も免除されるんでとにかくそこに入った、お金が無かったから。
そしてオレが高専に入学した年に施設に来た三歳の女の子がいた。
かわいかったよ・・・小さい子の方が里親に引き取られやすいから、その子もすぐに引き取られるんだと思ってた。
だから、あまり関わらないようにしていたんだけど、なぜかその娘・・・冴美・・・と言うんだけどくっついてくるんだ。
懐かれてもなぁ・・・って最初は思ったよ。
施設では、大きい子が小さい子の面倒を見るのが決まりになっていて、進学の決まったオレが”暇だろう”と云う事で係りになちゃったんだ。
でも一緒にお風呂に入り、ご飯を食べさせ、トイレも教えて・・・なんか”妹”ができたような気がして嬉しかった。
でもやっぱり別れの日は来るんだ。」
彼女は私の頬に触れると小さな声で
「とっても悲しそう・・・大丈夫?」と声をかけてくれる。私はうなずき、話を進めた。
「冴美が引き取られていったのはオレが学校に行っているうちにだったよ、
きれいな洋服を着せてもらい、遊園地に行こうと誘われたんだって。
学校から帰ってきて、冴美の荷物がなくなっているのに気づいたけど何も言えなかった。
施設の職員もオレが冴美の事を聞いてこないので不思議がっていたなぁ・・・
”冷めてるね”とも言われた。
でもね、もう、聞かなくても判るさ、職員は二、三年で入れ替わるけどオレはもう十何年もそこにいたんだ。
何人も出て行きオレは残される・・・」
言葉に詰まってしまった私の頬に、優しくキスをしてくれる。
「どうして一希さんは引き取ってもらえなかったの?」
「どうしてだろうねぇ・・・
女の子は割と引き取られやすいっていうのは聞いたことがあるけど、縁がなかったんだろうね。」
本当はそうじゃなかった、私の”力”が気味悪がられていたんだ。
子供の頃は能力全開、隠そうとも思わなかったし、自分にしか見えていないんだと気付いてなかった。
隠すことを覚えた頃にはもう引き取り手がない歳になっていたから。
でもこのことは知られたくない、大石さんにだけは・・・だって、嫌じゃん、気味悪いだろぅ?
”人が見えないものが見える”
”人の悪意が見える”
”憑き物を落とせる”
大げさに言えばこの三つが私の能力。
「・・・冴美がいなくなって、初めて大事な人だったと気付いた、また会いたいと思った。
でも誰も冴美の居場所を教えてはくれない。
当たり前だよね一緒の施設にいたといってもオレと冴美は赤の他人、兄妹じゃないもんね。
でも、あきらめかけていた頃、冴美が戻ってきた、理由は不明。また二人で暮らせることを素直に喜んだよ。
その後も何度か冴美は引き取られるんだけど、やっぱり帰ってきてしまう。
冴美といられるのは嬉しいけど、今度はオレが施設を出なければならない歳になった。」
彼女は私の頭をひざに乗せると、うっとりとした顔で見つめ、そしてまたあのついばむようなキスをくれた。
「施設を出て今度は、学校の”寮”に入る事になった。
オレは毎週末、冴美に会いに行ったよ、小っちゃい子はすぐに大きくなる。
施設に会いに行くとねぇ”一希”ってオレを呼ぶんだよ、発音は”かぁ~じゅきぃ”。
お兄ちゃんじゃないんだ、施設のほかの子に対しては”おにいちゃん””おねえちゃん”って呼ぶくせにさ。」
冴美が返される理由も私と同じだった、後で知ったこと、本人からそう聞いた。
私は冴美に”力”の隠し方を教え、そして八歳の時に引き取られてからは二度と戻らなかった。
「でもオレの就職が決まった頃、冴美も引き取られてっちゃった。」
彼女の膝枕と云うか、太ももはとても柔らかい。あ~、ダメだ。ヤツらが襲って来た!睡魔が・・・
夢を見ていた、これは夢だと解る夢。
夢の中で私は五歳くらいの頃の冴美とプールにいた、
「冴美!もう上がろうよ、夕ご飯までに帰らないとまた、かあさん先生(施設の職員のことをそう呼んでいた)に怒られちゃうよ~」
夢の中の冴美はなぜか大石さんだった。
「かぁじゅきぃ、もうしこし、もうしこし」
大石さんの冴美は、舌がまだ廻らないので”もうすこし”が”もうしこし”になってしまう。
「”しこし”じゃなくて”すこし”でしょ、それよりシャワーを浴びて帰るよ、今日は確かハンバーグだったよ!」
大石さんの冴美は”ハンバーグ”と聞くと喜び、勝手な節回しで”はんばぁぐ、はんばぁぐ、しこしおこげのはんばぁぐ”と歌いながらシャワーのところまで来た。
シャワーはなぜかお風呂にあるようなシャワーで、勢いよくお湯が出ない。
真下に入りノズルを見ると、一適、滴った。
目を開けると彼女の瞳から涙がこぼれていた。思わず上体を起こし、頬に手を当て、くちづけした。
長いくちづけ・・・舌を絡ませ、唾液をすすり、口蓋を舐るような、熱いくちづけ。
そして彼女が瞳を閉じると、それまで湛えられていた涙が一斉に流れ、自分の頬と私の掌を濡らした。
やべぇ~娘とあまり変わらない歳なのに、本気になりそう、まずいよな~
でも、とてもいとおしい・・・
「夢を見てたよ、大石さんが小さい冴美で、一緒にプールにいるんだ。
帰ろうとしたんだけどシャワーが出ない、お湯が一適しか出ないんだよ。
でも夢だって解ってたんだ、解ってたはずなんだけど・・・この甘いキスも夢の続きなのかな・・・」
「そう、これも夢なの・・・だから何度でもくちづけできるの」
とても高校三年生とは思えないオトナのような言い回し、妖艶さ。
これじゃどっちが年上かわかんないじゃないか~
そのあと、頭を抱えるようにして、再び熱くくちづけしてくれた。
やがて口付けを終えると大石さんが尋ねた。
「ねぇ、一希さん。結局冴美さんのその後はどうなったの?」
「ん~、話はまだ続くんだけど・・・最終的には、オレの奥さんに納まってます」
彼女の目がテンになったのが解った
「なによ!そんなオチ!?」
「いや、オチも何も・・・」
どうも本気で怒ったようだった。
「も~、なによ!オトナのクセにもったいぶっちゃって!アタシを口説いてたの?
お話としてはとてもいい話だったけど、お涙ちょう~だいも中途半端だし!」
やべ~ホントに怒っちゃったよ!
「泣きながら聞いてたのに!損した!アタシの涙を返しなさいよ!」
そんなムチャな!いい話だって言ったじゃないか~
私は起き上がってソファに正座をし、頭を下げて
「いや、だから、まだ続きがあるんだって、別にお涙頂戴的に話を作ってないよ、全部ホントの事なんだから・・・信じてください。
でもごめんなさい、そんなに怒るとは思わなかった・・・」
大石さんは不信感丸出しの目を向けながら・・・
「解った、じゃ、続き!早く言いなさいよ!」
「はいはい」
なんで怒られなきゃならないんだよ~
私はソファに座り直すと話を続けた。
「その後冴美とは会えなくなった、でも冴美はオレの住所を知ってて、時々手紙をくれたんだ。
オレも手紙を書いたよ。汚い字でね。
何度か手紙のやり取りをしているうちに変なことに気づいたんだ。
どうやらオレからの手紙は冴美の手には渡っていないらしいってね。」
「里親さんが渡さなかったとか?」
「そうらしい、たまに運良く冴美が家にいるときに手紙が届くと読めるんだけど、見つかると捨てられてたって言ってた。」
「そんな・・・酷い。」
彼女は信じられないという顔で呟いた。
「しょうがないよ、里親にしてみれば、施設の人間が連絡して来るってのは自分の娘はもらってきた子供ですってバラされる感じがするだろうし、実際、子供を引き取った後引っ越す里親も多いんだよ!」
「バレないように?」
「そう、聞いた話では本当の親が里親を強請るなんてこともあるらしい・・・ましてやオレなんか、本当の兄でもないしさ・・・。
そんな男からの手紙は処分し、忘れてもらうのが一番って思うでしょ。」
「それでも良かったの?」
その話をされるととても辛い。実際に忘れようとした時期もあった、昔の話だが。
冴美にそれで責められたこともあった。
そのことに私の表情が曇ったのだろう、彼女もすまなそうに見ていた。
「うん、やっぱり忘れられなかった、今みたいにケータイとか、メールとかが発達していなかったし・・・
だから、仕事で地方へ行くたびに絵葉書を出したんだ。
その頃のオレの仕事はコンサートの音響や照明の設置だったんで、しょっちゅう地方公演とか行ってたんだ。
でも、絵葉書には何も書かない、誕生日やクリスマス、年賀状なんかはちょっと”おめでとう”とか、入れたけどね。
そうそう、今でも冴美の宝物はその頃もらった一枚の絵葉書なんだよ。」
「どんなの?」
ちょっと、表情が柔らかくなった。よかった・・・やれやれ・・・
「それは、オレが初めて海外ツアー、ツアーといっても旅行じゃなくて、仕事のツアーね。
それで行ったサイパンからの絵葉書、マニャガハ島というサイパンの沖にある小さなリゾートアイランド。
その全景の写真が印刷されているヤツ、
よくあるでしょ、青い空、白い雲、エメラルドグリーンの海に椰子の木が生い茂るビーチ。
たまたまそれは冴美が家にいる時に届いて、見つからないように隠し通したらしい。
そんな不毛な文通が十年ぐらい続いたかなぁ。突然、結婚式の招待状が届いたんだ。
冴美はもう十八歳になってた。」
彼女は”えっ”と云う顔で私を見た。
「そうなんだ、それまで時々その男の子の事が手紙に出てきてたんで、いつかは・・・って、
だから”あ!やっぱり?”って、なんか安心した。
本当の家族ができた事を喜んであげたいと思ったしね。
これも後で聞いた話なんだけど、オレを快く思っていない里親を彼氏と二人で説き伏せて、式に呼んでくれたんですよ。
でも行かなかった・・・いや、行けなかった。冴美の過去を曝すような気がして・・・
会場はは軽井沢の小さなチャペル、屋外でだったから、ウエディングドレス姿の彼女を見ることができたのは嬉しかったな。
式はオレが来ないので遅れに遅れたらしいです。後でメチャクチャ怒られました。」
彼女ははふと遠い目をして呟いた。
「アタシだったら・・・やっぱり来てほしい。
理屈じゃなくて、愛している人には来てほしい。」
「大石さんも何か秘密がありますよね、秘密を秘密のままにしておくことは悪いことではないと思います。
無理やり自分を説き伏せて話そうとすることのほうが悪い事だと思ってます。
時が来れば、時間をかければ”秘密”は”物語”に変わるんじゃないかな?
今はあせらないで、時を待ちましょう。」
今度は私からのついばむようなキス。
「・・・二人が暮らし始めた翌年、子供ができたと手紙がきたんで、”いや~早ェ~な~”と・・・
子供が生まれたと勘違いをしてまして、妊娠が判ったというだけでした。
その頃になるとオレも会社ではちょっと役がつきまして、あまり外回りをしなくなってましたから、それから時々・・・と言っても本当にたまにですが電話をするようになりました。
そして、出産が近づき、彼の実家に帰っていた頃、雪が降った日でした。
二人は買い物に出たんだそうです。
いろいろと出産準備で入用だったんでしょう、交差点で信号待ちをしている歩行者の中に雪でスリップしたトラックが突っ込みました。
二人が死亡、六人が重軽傷、だったと思います。
冴美は無傷でしたが、彼は死亡した二人のうちの一人でした。」
私はこのことを思い出すたびにどうしてもため息をついてしまう。
ニュースで信号待ちの歩行者に車が突っ込むというのが流れると、今でも冴美は彼に会う前に戻ってしまう。
そして現在に戻るのには数日が必要だ、それから薬も・・・
彼もかわいそうだと思うが、生きている冴美の方がもっと辛いということを思い知らされて、思わずため息が出てしまう。
「それからの冴美はもう出産どころではなかったそうです、
一見平静に見えるのですが、家中のドアを頻繁に開けたり閉めたりを繰り返す。
彼を探していたんでしょう、そのうち、幼児退行が見られるようになり、入院です。」
「幼児?・・・」
「幼児退行
”精神症状のひとつで、現実が受け入れられなくなった脳が、その受け入れられない事柄が起きる前の状態がベストと判断したため、現在を受け入れることを拒否し、昔の状態に戻しキープしようとすること。”
と物の本には書かれていますね。
そしてそれは、妊娠している自分の状態、ひいてはおなかの赤ちゃんまで否定する事になっちゃったんです。
このことを知ったのは、事故から二週間後、出産予定日まであと三週間の頃です。
オレに連絡するのを最後まで強硬に反対していた里親を説き伏せたのは亡くなった彼の両親でした。
あまりに冴美が”かじゅき、かじゅき”と泣くのでたまらなかったと・・・」
「なぜそんなに里親さんは一希さんを嫌うのでしょう?」
「さぁ?、今でもよくわかりません、知りたいとも思いませんし。」
「オレは病室で久しぶりに冴美に会いました。
冴美は拘束され・・・彼氏を探して歩き回るので・・・、憔悴しきっていました。
その頃には外界からの刺激にもほとんど反応しなくなっていたと言います。
実際に声を掛けても無反応で、食事も全て、胃にチューブを差し込んでの状態でした。
遠目でウエディングドレス姿は見てますが、そんなに近くで見るのは小学校二年生、最後に里子に出されて以来です。
そんな彼女を目の当たりにして、涙が止まりませんでした。
オレは眠っている彼女の耳元で名前を呼びました。すると今まで無反応だった彼女が、小さな声で”かじゅき”と呼んだんです。」
「それから?」
「まず医者は、冴美の精神の平衡を保たせるためにオレを彼氏と混同させることにしました、そうすることで、退行している時間を現在と同期させられます。
また、彼とオレを混同することで”愛してくれる人の不在”が解消され、おなかの赤ちゃんにも愛情を注ぐことができる可能性が出るのです。
ただこれには大きな危険と云うか危惧されることもあったんです。
彼に出会う前、つまり子供の頃の妊娠だと納得させられるかと”愛”の種類です。
”恋人に対する愛”と”肉親に対する愛”はおのずと違うじゃないですか、
もし冴美が”オレに対する愛”を”彼に対する愛”と同一視してくれなければすべてが崩壊しちゃうんです。」
「あのぅ・・・ところで彼氏さんの名前は?」
「彼氏の名前も・・・」
「かずき?」
彼女が一番いいところを取ってしまったのはちょっと悔しい。
「うそのようなホントの話・・・だから医者も思いついたといってました。まぁ、字は違いますけどね。」
「じゃぁ、娘さん、せーらさんというのは?」
「はい、彼氏のカズキの子供です。オレと血は繋がってません。
・・・こんなしょ~もない話を聞いてくれてありがとう、知り合って二週間足らずなのにこんな話をしてしまってすみません。
でも大石さんにはオレを知ってもらいたかった、他人とは区別しておきたいんです、いい意味でね。」
「わかってる。」
彼女は私の胸に顔をこすり付けて甘えたような声で言った。
「ところで今、冴美さんはどうなっているんですか?十六歳のまま?いったい何歳なんですか?」
「精神状態はリアルタイムです、聖羅が彼氏のカズキの子だということも理解してますし、
何せ結婚写真がありますからね、で当年とって三十六歳です。十二歳違いますから」
歳の話をするとみんなロリコンだ!ロリコンだ!って言うんだよなぁ~
あぁ・・・彼女もそんな目で見てるみたいだ~、言わなきゃよかった。