警告

この小説には18歳未満が閲覧するのに不適切な表現が含まれるので未成年の閲覧を禁じます。

あなたが18歳未満であるなら、ただちにYahoo!Japan など、他の未成年が閲覧しても差し支えのないサイトへ移動してください。
























--------夢のうた--------

 楽しかった夏は過ぎ、そろそろ十月。
 中間決算の時期がやってまいりました。
 まぁ、中間決算は上部組織用と自治体宛ての二種類でいいので気が楽なんだけどね。
 志津香がここんとこ毎日、作業所に来る。期末テスト勉強とかで学校は午前中で終るらしい、ほんとか?私は嬉しいが・・・
「来たよ~」
 今日もまた昼過ぎにお弁当を持って現れる。
 作業所の利用者には高学歴の人もいて色々と勉強を教えてもらっているようだ。
「高山さん、ここ教えて?」
 休み時間になると何人かの利用者に聞きに行く。
 私はそれがちょっと妬ましい、嫉妬の目で見てることを志津香に気づかれたくないのでなるべく見ないようにしている。
 ちなみに、高山さんは某有名在京国立大学出身、その他にも有名私大出身者が多数いる。

 作業所が終って、みんなが帰るとやっと二人の時間。
 彼女は教科書から顔を上げて、
「一希さん、さっき高山さんを睨んでたよ。」と言った。
「そんなことないですよ、あれは作業時間が始まってるのに教えつづけてるからです。」
「ふ~ん、そうなの?」と疑いの目で見る。
 やっぱり解っちゃったか・・・
「すいません、嫉妬してました。」
「正直でよろしい、アタシからご褒美のちゅ!」
 唇だけ寄せてついばむようなキス!頬に触れようとしたら逃げられちゃった。
「ハイ、一希さんも、お・し・ご・と。」

 しばらく無言で二人ともそれぞれ没頭。
「一希さん、フレミングの右手の法則ってどんなだったっけ?」
「親指が“力の向き”、人差し指が“磁界の方向”、中指が“電流の流れる方向”。一般的にはモーターの原理だね。」
「一希さんスゴイ“打てば響く”ってこのこと?」ん、なんか違わね?
 それからまた質問されたり学校の事を話したり、それでも勉強は進んだらしい。

「サイパン、よかったな~」
「また、どっかに行きましょう。
ところで、大石さんはどこを狙ってるの?」
 作業所の中では“大石さん”と呼ぶ事にしている、ちょっと残念だけど・・・
「ん~、アタシはどこでもいいんだけどね、父様が東女か、茶水に行けって。」
「やっぱりお嬢様だな~聖羅じゃ無理だ、で勝算は?」
「今のまま行けば大丈夫だろうって先生は言ってくれてる。
 全国模試なんかでもまぁまぁのセン行ってるし・・・
でも、聖羅ちゃんは薬剤師か看護師になりたいって言ってたよ、大丈夫。しっかりしてるもん。」
「ほんとかなぁ?」と父が言っちゃいけないよね。
 彼女が時計を見る、
「もう八時だわ、今日は父様が帰って来るんで食事の支度をしなくちゃ、食べはしないんだけどね、酒の肴程度。
一希さん、夕飯まだでしょ、またコンビニ?」
「今日は帰ります。自治体提出用の一本終ったし大石さんも帰っちゃうんで。」
「アタシのせいのするの?」ちょっと脹れっ面で抗議する。
「そんなことないですよ、また明日も逢えるじゃないですか。」
 私は彼女を立たせると胸に抱いた。
「アタシは明日から期末テスト、しばらくは来られないわ。さびしい・・
夕飯ぐらい一緒に食べられるといいんだけどなぁ。
 アタシ、お料理の勉強を始めたんだよ
あぁ、一希さんのニオイがする、ホッとする・・・」
「そうか・・・
 明日っからしばらく逢えないんだ。オレも寂しいな。」
「ほんとにそう思ってくれる?」
「なに疑ってるんですか、今度、機会があったら何かご馳走してくださいね。」
 しばらく抱きしめられた後、笑顔で“さよなら”と言い、くちづけをして彼女は帰っていった。

「さ~てっと、オレも帰るかな?」
 彼女が去ってしばらくは片付けなどしていたけど、九時近くなったので切り上げ家路につく。
 火の元、電気、確認して玄関の鍵を閉めて駅へ向かう、その途中で男の人とすれ違った。
「こんばんわ。」
「・・・・・」
 この道を通るのは志津香の父親だろう、彼は私を無視してすれ違う。
・・・ああ、この人は知っているんだ私のコト・・・彼の“敵意”が見えた。
 いつぞやのパスタ屋での男とは違う、ものすごい敵意。
 ま、しょうがないよね。娘に手を出しちゃったんだから。

 しかし、電車に乗ってしばらくすると妙な胸騒ぎがして居ても立ってもいられなくなる。
 なんだろう?この胸騒ぎ。胸の中の何かが渦巻くような感覚。
 志津香?ふと彼女の顔が浮かぶ。
 何か志津香が呼んでるようで。

 途中で電車を降り急いで作業所に戻る。
 彼女の家の前に立ってはみたものの、何と言って入ればいいだろう?考えてしまった。
 と、中から志津香の叫び声が・・・

「いやー、・・・・」はっきりとは聞こえない、志津香なのかも怪しいけれど・・・
 それから物のぶつかる鈍い音。
 思わずドアノブに手を掛ける、
 回す、
 開いてる。

「大石さん!」
 私は人の気配のする一番奥の部屋へ飛び込んだ。

 部屋の中は悲惨な状態だった。
 ガラステーブルがひっくり返り、観葉植物は倒れ土が散乱している。
 ドアに投げつけられたのだろう、割れたグラスの破片が散らばっていた。
 
 そして、床には志津香が・・・
 
 倒れていた。
 
 彼女は服が引き裂かれ太腿と胸が剥き出しで一目で陵辱されたことが解る。
 そして彼女の向こうにはシルクのガウンを羽織った父親が立っていた。
 先ほど道ですれ違ったサラリーマン風の姿はもう想像できない。
 しかもそのガウンの前ははだけペニスが半立ちの状態。

 言葉が出ない。
 彼女の元へ駆け寄り“志津香”と声をかけ抱き上げようとした。
 ん?足の裏が痛い。
 見ればドアの前から血の足跡が続いている。
 私は他人事のように自分の足の裏を見た、割れたグラス?靴下が血に染まっていた。
 しかし、足の怪我など構っていられない!とにかく彼女を外へ、この父親から離したかった。

「どこへ行くんだ。」甲高い声が部屋に響き渡る。
「アンタのいないところ。」私はそう答えて志津香を抱きしめようとする。
 彼女は泣きながら両手を差し出し私の首に抱きついた。まるで子供が“抱っこ”をせがむように。

 そして・・・

「アタシ、また汚れちゃったよ、どうしよう、一希さん、アタシまた・・・」
 目にいっぱいの涙を浮かべた彼女。
 とても見ていられない。
 あまりにも辛くて、悲しくて・・・たまらず、言葉を遮り頬擦りする。
「大丈夫、オレがまた抱きしめてあげるよ。」
 彼女を抱きあげ父親に背を向ける。
「どこへ行くんだ!」ひときわ甲高い声が響いた。
 振り返ろうとした。と、こめかみに硬いものが押し付けられる感覚。
「どこへ行くんだと聞いている!」
「ここから出るだけだよ、アンタから志津香を遠ざけたいだけだ。」
 こめかみに銃を突きつけられていた。
 トカレフか?もっと高いやつにすれば良いのに、と頭の隅で考えている自分がちょっとおかしかった。
「何を笑う。」
「別に・・・アンタは自分の娘をどうするつもりだ?」
 話などしたくはなかったが、志津香を逃がすのに時間が必要だと思った。

 私は志津香を立たせると自分の後ろに隠し、脱いだジャケットを渡して着るように言った。
「自分の娘をどうしようと勝手だろう?
 言う必要もないが教えてやる。
 俺は志津香をあのジジィに渡す、ジジィは志津香にぞっこんらしいからな、そして俺は財界のトップになるのさ!」
「下衆が・・・」吐き捨てた。
「おまえみたいな、オチコボレに何がわかる?俺は使えるものを全て使って日本のトップになるんだ。」
「モノって・・・志津香はモノじゃない。」
 
 私の中から湧き上がるものがある、黒い塊。
 未来の父親の時と同じだ、いや、あの時の何倍もある。
 あ、あ、ヤバイ押さえきれなくなりそう、志津香に見られたくない。でもダメだ、止められない!

 私は押し当てられた拳銃を持つ手を掴んだ、彼は銃を両手で握っているから好都合。逃がさない!
 銃口が正面に来る

“掛まくも畏き伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘の、小戸の阿波岐原に禊祓へ給ひし時に成りませる、祓戸大神等、諸諸の禍事罪穢有らむをば、祓へ給ひ清め給へと白す事を聞食せと、恐み恐も白す”

(かけまくもかしこきいざなぎのおほかみ、つくしのひむかのたちばなの、おどのあはぎはらにみそぎはらへたまひしときになりませる、はらへどのおほかみたち、もろもろのまがごとつみけがれあらむをばはらへたまひ、きよめたまへとまをすことをきこしめせと、かしこみかしこみまをす)

 小声で唱える。

 彼の表情が変わった、私の変わり行く姿を見て怯えたのだろう。逃げようとするが私が腕を掴んでいる。

 絶対逃がさない。

怖いだろう?おまえに本物の恐怖を見せてやろう、
志津香が味わった本物の痛みを与えてやろう、
私の知る限りの全ての苦しみを味わわせてやろう。

 私の腕を伝って“黒いもの”が移動する、次々と彼の中に入って行く。
“うわー”とも“ぎゃー”ともつかない悲鳴が彼の口から漏れる。

 その刹那、私は撃たれた、と思う。多分、今まで撃たれた経験がないので・・・


 
 
 刹那と言うのは七十分の一秒だと言うのをどこかで聞いたことがある、撃たれて倒れた私はぼんやりとそんなことを考えていた。
 
 遠くのほうで、志津香が泣き叫んでいる。
「いやー、ダメよ!置いてかないで、一人にしないで、
一緒にいるって言ったじゃない。幸せにしてくれるって言ったじゃない。
二人で幸せになるって・・・

一希さん、一希さん、かずきさん!」

 視界の隅には頭を抱えてうずくまる父親の姿が映る。
 私はどうやら志津香の膝の上に頭を乗せているようだ。

「・・・」声が出ない。
「何?一希さん、聞こえない。」彼女が耳を近づける。
「志津香、ごめん、お父さん、壊しちゃった。」
 それだけ言うのが精一杯。あぁ、なんだか眠い。

 ふと傍らに人の気配が・・・
 女の人が立ってる?誰?面差しが・・・志津香だ、
 でも・・・どこか、違う。




--------この世の定め--------


 遠くでサイレンが鳴っている、まるで気の抜けたサイダーのように。

 誰が救急車を呼んだのだろう?アタシ?
 手にはケータイが握り締められている。
 アタシは救急隊が来たのも気づかなかった、ただアタシから一希さんを取り上げようとする人達が憎かった。
 気がつけばアタシの手と膝は血にまみれていた、一希さんの血。

 抱えられて救急車に乗せられた、血だらけのまま。
 アタシが彼から離れないので一緒の車に乗せてくれた。
 
 病院

「先生、自発呼吸はあります、血圧、上、九十の・・・下、出ません。」
「乙葉さん、乙葉さん、聞こえますか?私の指が見えますか?私の指を目で追ってください。
すごいな、こんな状態でも意識がはっきりしているのは信じられない。」


 一希さんは手術室に運び込まれた、アタシは泣いている。けど声は出ない、ただ涙が流れている。
「あ、そうだ、冴美さんに連絡しなきゃ。」
 アタシは声に出して言う、でもなんて電話をすればいい?
 遠くで呼び出し音が鳴ってる、なんか非現実的に響いている。
 
 あ、聖羅ちゃんだ。
「冴美さんは?」
「志津香さん、パパがどうかした?」
 やっぱり解るんだ。
「ゴメンネ、ゴメンネ、アタシのせいで・・・撃たれちゃった。ゴメンネ。」
「今どこ?志津香さん、そっちに向かうから。」
 今度は冴美さんの声
 誰かが横からケータイを取りあげた、アタシは取り返そうとその人にしがみつく。
「もしもし、私、刑事の田村と言います。乙葉さんのご家族ですか?
 ちょっとしたトラブルに巻き込まれまして怪我をされています。災害医療センターに搬送されておりますので、すぐに来て頂けませんか?
 そうです。
 そうです。
 では、よろしく。
 すまなかったね、取り上げたりして。」
 刑事と名乗ったおじさんが謝る、でもどっか遠い場所から響いてるだけみたい。
「まずは着替えようか、血だらけだよ。」
 いつの間にかジャージの上下?を持った婦警さんが目の前にいる、でもアタシは嫌だ。
「ダメです、この血は一希さんだから、一希さんがいなくなるのはもう嫌なんです。」
「大丈夫よ、お医者さんは助かるって言ってるわ、その時にそんな姿で彼に逢うの?」
 ダメよそんな事言っても、アタシはもう一希さんとは絶対離れないんだから。
「そう言ってあなたたちもアタシから一希さんを取り上げるんでしょ!
もう嫌なの、一希さんとは慣れたくないの。」
 アタシが頑なに拒否をするので二人は遠巻きにするだけ。

 それからどのくらい経ったのだろう、一希さんの血が乾いてきちゃった。一希さんの命が干からびちゃうみたいでとっても悲しい。
 アタシはどうすれば?
「志津香さん!」冴美さんだ、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「いいのよ、大丈夫。あのバカそう簡単には死なないから、まだ手術中?」
 聖羅ちゃんが隣に座って抱きしめてくれる。
 そこへさっきの刑事が
「田村です。」
「乙葉の家内です、すみませんご迷惑をおかけして。」
「いやいや、ところでこのお嬢さんをご存知で?」
「ええ、ちょっと・・・」
「では、あちらで少しお話を・・・その前に、このお嬢さんの着替えを説得していただけませんか?」

「志津香さん、とりあえず着替えをしましょう、そんな格好ではかじゅきも喜ばないわよ。
あれは面食いだから、きっと綺麗な志津香さんに会いたがるわ。」
 冴美さんは看護師さんに声をかけて、シャワーを貸してもらう算段をしてくれた。
 アタシは先ほどのジャージを貸してもらい、聖羅ちゃんの手を借りてシャワーを浴びた。


--------キズナ--------


 突然胸騒ぎがした、かじゅきに何かあったみたい、聖羅も未来も何か言いたげ。
 あちこち電話を掛けてみる。
 作業所は・・・誰も出ない、留守電に切り替わっている。
 かじゅきのPHS、呼び出し音から留守電サービスに変わる。

 志津香さんに電話しようかどうか迷う、漠然とした不安とともに時間が過ぎて行く

 そこへ電話が。聖羅が受けると志津香さんだった、やっぱり。
「冴美さんは?」
「志津香さん、パパがどうかした?」
 聖羅があせってワタシに受話器を渡す。
「ゴメンネ、ゴメンネ、アタシのせいで・・・撃たれちゃった。ゴメンネ。」
「今どこ?志津香さん、そっちに向かうから。」
 突然相手が変わった。
「もしもし、私、刑事の田村と言います。乙葉さんのご家族ですか?
 ちょっとしたトラブルに巻き込まれまして怪我をされています、
災害医療センターに搬送されておりますので、すぐに来て頂けませんか?」
「災害医療センターですか?」
「そうです。」
「中央防災センターの近くですよね。」
「そうです
では、よろしく。」
 聖羅も未来もやっぱりと言う顔をしている。ワタシがしっかりしなくちゃ。

 車を暴走(とば)して三十分“救急”とかかれた入り口から入る。
 
 そこには血だらけで、生気のない顔をした志津香さんがいた、
「志津香さん!」
 彼女の虚ろな瞳に光が戻る。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
 男物のジャケット(かじゅきの?)を着た志津香さんが立ち上がる。
 血だらけで、靴も履いていない。
「いいのよ、大丈夫。あのバカそう簡単には死なないから、まだ手術中?」
 聖羅が彼女の隣に座って抱きしめる。
 そこへ見知らぬ男が。病院関係者ではないことは一目でわかる、刑事?
「田村です。」あぁ、やっぱり。
「乙葉の家内です、すみませんご迷惑をおかけして。」
「いやいや、ところでこのお嬢さんをご存知で?」
「ええ、ちょっと・・・」
 愛人なんていえないわよね。
「では、あちらで少しお話を・・・その前に、このお嬢さんの着替えを説得していただけませんか?」
 ワタシはうなづくと声を掛けた。
「志津香さん、とりあえず着替えをしましょう、そんな格好ではかじゅきも喜ばないわよ。
あれは面食いだから、きっと綺麗な志津香さんに会いたがるわ。」

 婦警からジャージの上下を借り、シャワーを貸してもらう算段をすると、その後を聖羅に任せて田村と名乗った刑事に話を聞いた。

「乙葉さん、ご主人とあのお嬢さんの関係は?」
「うちの娘の友達ですが・・・」
「そうですか、まぁ、いいでしょう。」
 やっぱり全然信用していないって顔だわね。
「で、主人の容態は?」
 こっちを言うのが先でしょうに!このボケ刑事
「頭を撃たれてます。」
「撃たれた?」
「あのお嬢さんの父親にです。」
「大石さんにですか?」
「どうも、彼女は実の父親とトラブルを起こしたらしく、そこに助けに入り、撃たれたらしいんですな。」
 刑事は“らしい”を強調してるわね、なぜ?いえ、それよりも容態を知りたいわ。
「はぁ、それより主人の容態はどうなんでしょう。」
「まだ何とも言えないというのが医者の話です。
 ただ心臓がしっかりしているのと意識があるということで、命は助かるけれども障害が残るかも知れないと言うことです。
 とりあえず、こちらから言えることはそれだけなんですがまたお話を伺うかもしれません、そのときはよろしく。」
 よろしくは、したくないわね~と思いながら頭を下げる。

 志津香さんの所へ戻るとシャワーを浴びて少しすっきりした彼女になっていた。
 やっぱり美人はこうでなくっちゃ、でもさっきの彼女はなんか血まみれの壮絶な美人って感じで妙な色気があったわね。
「ジャケット。」彼女が涙を流しながら私に訴える
「どうしたの?」泣いている彼女を今度はワタシが抱きしめる。
「一希さんのジャケットを下さい。
一希さんのジャケット。一希さんが着てろって。一希さんの・・・」
 くそ~こんな可愛い娘、泣かすんじゃないわよ!かじゅきのバカ!死んだりしたら許さないんだから。
 あら?志津香さんもエディションつけてるの?ん、もしやかじゅきの残り香?ちょっと妬けるわ。
 でも、まずは髪を乾かさないと。
 この娘(こ)長いから風邪引いちゃう。
 
 聖羅がかじゅきのジャケットを不安そうにワタシに渡してくれる。
 ジャケットは・・・血だらけかぁ、でも今は精神の平衡を保つためには必要よね。
「未来、車の中にかじゅきのお泊りセットがあるから持って来な、ドライヤーも有ったはず。
これ、血だらけだけど、いい?」血で汚れたジャケットを手渡す。
 彼女は無言でうなづくとそれを抱きしめた、顔を埋める姿が痛々しい。

 きっと彼女はかじゅきの匂いにすがっているのね、この世に残るために・・・

 未来も見ていられないのか彼女に“念”を送っている。

 あれ?アタシの中のかじゅきが動き出した。
 聖羅も未来も、おや、志津香ちゃんも気づいたみたい。
 良かった、助かったみたい。


--------そばにいるね--------


「とりあえずの処置はしています、命には別状有りませんが今は意識不明です。
この後、障害が残る可能性もあります。」
 アタシ達は別室で医者の話を聞いた、
 最初アタシが行くことを医者は拒んだけど、冴美さんが“どうしても同席を”と言って押し切ってくれた。
 ありがとう、感謝します。
「弾丸は左のこめかみ付近から入り後ろに抜けています、そのため左脳は約ニ十五%が失われています。
脳幹に損傷がないのと弾丸(たま)が大脳動脈から逸れていたので大出血もなく意識も運ばれて来た時点ではありました。
ただ意識が戻り目覚めたあと、どんな障害が出るかは解りません。
 最悪の場合このまま植物状態になるかもしれません、今の所はまだ何とも言えないというのが正直な所です。
 もちろん、できるだけの事はしますので・・・」
 重苦しい雰囲気に包まれた。
 
 アタシは何もいえない。原因を作ったのはアタシの父親だから。
 ううん、アタシが一希さんを好きにならなければ良かったのよ。
 
「よく解りません。」
 冴美さんが口を開いた。
「助かるのですよね?」
「生物学的には・・・と言うことです。」

 医者がややあって再び話し始めた。

「身体機能、知能がどこまで快復するか解らないのです。
 はっきり言って、ここまで脳が破壊されているのに助かっていること自体、信じられないんです。
 普通なら即死。
頭蓋骨の三分の一が破壊されていましたから、そのまま倒れてしまうと衝撃で脳全体が傾いでしまう、外に飛び出してしまう筈です。
でも、そのお嬢さんが脳が流れ出るのを押さえてくれたことが助かった理由なのかもしれません、確証はないですが・・・
 とにかく十日ほど集中治療室で様子を看ます。それから経過を見て一般病棟に移します。」
「今は会えませんか?」
「少しの間なら良いでしょう。
 ただ、ご家族全員というのはちょっと・・・」
 難色を示す医者に冴美さんが
「ならワタシと、この娘の二人では?」
 とアタシの腕を取った。
 医者はすこし考えたあとで“良いでしょう”と許可をくれた。
 

 アタシと冴美さんは医者と連れ立って集中治療室へと向かった。
 白衣と帽子、マスクをつけて中に入る。

 集中治療室では医者が説明をしてくれる。
「乙葉さんは自発呼吸がありますので“挿管”。肺の中に空気の管を入れることはしていません、マスクで随時酸素を送っているだけです。」
 ベッドには色々な機械やモニターが設置され規則的な信号音がしている。
 頭は包帯でぐるぐるに巻かれ、そこからは色とりどりのコードが延びていた。

 アタシは足がすくんで動けなかったけど、冴美さんが腕を取ってベッドの傍まで連れて行ってくれた。
 その時初めて冴美さんが泣いているのに気がついた。
 きっとICUに入ってから泣き出したんだと思うけど、あぁ、ここにも一希さんを想っている人がいる・・・
「かじゅき・・・」
 冴美さんの泣きながら呼ぶ声を聞いたとたん、アタシもまた涙があふれて止まらなかった。
 一希さんの顔を覗き込む、涙がこぼれる、一滴、彼の頬に落ちた。
「かじゅき・・・」
 小さい声で何度も呼びかける、あ、瞼が動いた。アタシも声を掛ける。
「一希さん。」
 やっぱり瞼が動く、思わず医者の顔を見ると、
「反射ではないようです、ちゃんとご自分の名前を理解していますよ。
ですから完全な意識不明という訳でもないのです。
 今は鎮痛剤や、鎮静剤、抗生物質、その他もろもろの薬が効いていますからはっきりと反応できないんです。
 脳の腫れが一週間ほどで引くと思います、それからちゃんと検査をします。
 さぁ、もう休ませて上げてください。
 乙葉さんは今までに経験したことのないダメージを受けています、今は眠らせてあげることが一番ですよ。」
 
 アタシ達は医者に促されICUを出た。
 外では聖羅ちゃんと未来君が待っていた、不安そうに。
「ごめんなさい、アタシより聖羅ちゃんや未来君が入ればよかったのにね。」
「大丈夫だよ、とーちゃんの意識がちゃんと飛んで来てるから、心配してないよ。」
「聖羅も解る、綺麗なエメラルドグリーンの光が見えてるから、大丈夫と思うわ。」
 なんかやっぱりこの家族は違うわね、アタシもそれを聞いて少しホッとした。
「とにかく今夜はうちに来なさい。
 もう遅いし、それにあの家に戻るのは嫌でしょ?」
 冴美さんが声を掛けてくれる、甘えさせてくれるのかな?

 病院の玄関を出ようとすると、何台かのパトカーとさっきの刑事が待っていた。
「大石さん、ちょっと署まで来て貰えませんか?
いや、隣ですから、それに今夜はお疲れでしょうからあまり遅くまではかけません。
なんなら乙葉さんもご一緒していただいても結構ですが?」
 冴美さんは少し考えていたようだったが、聖羅ちゃんと未来君に家にタクシーで帰るように言うと“一緒に行きます”と刑事に向かって言う。
「それじゃ、お子さんたちはこちらでお送りします、君たちどうかね、パトカーで送るよ。」
 二人も“お願いします”と頭を下げて、パトカーに乗り込んだ。


 ホントに隣だった。
 わざわざパトカーに乗る必要ないくらい、でも夜風は気持ちがいい。
 アタシ達は刑事課という所に通された、
「取調べじゃないんで、ここで・・・」
 机がひしめく一角のソファに座らされた。
 田村刑事と磐田という名前の女性刑事が向側に座る。
「今夜の事は志津香さんにとっても大変だったと思います。」磐田刑事が切り出した。
 田村刑事は席を外した。
 そうよね、男には聞かれたくない事もあるし、冴美さんが手を握ってくれる、少し勇気が出た。
「どうして、乙葉さんがあなたの家に行ったのかわかる?」
「一希さんの仕事先は、家の斜め前なんです。
アタシ、父から逃げるのに必死で手当たり次第物を投げつけたり家具を倒してたりしたから、気づいたのかもしれません。」
「そうね、大きな音はしたでしょうしね。
ところで、乙葉さんとあなたの関係なんだけど、乙葉さんの娘さんのお友達って言ってたわよね。」
「あと、一希さんの作業所でボランティアもしてます。」
「奥さん、ご主人はどういったお仕事をされておられますか?」
「障害者施設の施設長をしています。」
「そうですか、ただのお友達じゃないんですね。」
 なんか引っかかるわ、その言い方。
 アタシが口を開こうとしたら冴美さんが手を強く握る、喋るなってことね。
「もう少し詳しく聞いてもいい?」
「何のことをですか?」
「その、お父さんとは・・・そういう関係だったの?」
「なんて事を聞くんですか?」冴美さんが怒ってくれる。
「あのぅ、取調べじゃないんですよね。」
「そうよ。」磐田刑事がにっこりとうなづく、
 やっぱり刑事、中々食えないわ。
「あんまりプライバシーに踏み込んだお話になるのなら、ちょっと相談したい人がいるんですけど、電話をしても良いですか?」
「誰に電話をするの?弁護士さん?」
 ちょっと眉間に皺が寄ったわよ、アタシだって伊達にあいつら相手に高級娼婦をやってたんじゃないわ。
「ええ、そういう事も含めてですけど・・・」
 今度は田村刑事がやってきた
「どうかしましたか?」
「アタシまだ未成年なんで相談したい人がいるんです、その人に電話をしてもいいかなって。」
「いいですよ、電話をお貸ししましょうか?」
「いえ、自分のケータイに電話番号が入ってるんでそのまま電話します。」
 通話履歴見られたら大変だわ、アタシじゃなくてこの警察がよ。

 アタシ以前にトラブルになったら電話をしろって言われてた所に電話をした、
“議会”の事に話が及びそうならどんな些細な事でもいいからって言われてたから。
「もしもし」
「そろそろ電話がかかってくるかと思っておった、遅かったのぅ。」
 アタシはびっくりした、ジジィじゃん!直通?もう、この事知ってるの?なんで?
「申し訳ございません、でも直通のお電話でしたの?」
 いきなり言葉遣いが変わったので、周りはびっくりしている。
「大丈夫かの?」
「わたくしは大丈夫なんですが・・・。」
「そうか・・・」
 電話の向こうで何事か囁いている。
「今、手を打った、もう心配せんでええ、すぐに帰れるて・・・
ところで嬢ちゃん。今度、彼氏と一緒に食事でもせんかな?」
 一希さんの事だ、思わず涙が出てしまい言葉に詰まった。
「・・・あ、ありがとうございます。
でも無理かもしれません、父に頭を撃たれておりますから。」思わず洟をすすった。
「嬢ちゃん、その男が彼氏かの?
・・・そうか、彼氏のために泣くんじゃな、いいことだ。
では、治癒(よく)なってからでええ、きっと治癒(よく)なる。
嬢ちゃんの愛した男じゃからのぅ。
・・・じじは鬼畜と思っとろぅがの、」
「いえ決して・・・」
「よいよい、嬢ちゃんに色々したじじじゃ。じゃがのぅ、じじは孫のように思っとったぞ。」
「ありがとうございます、勿体ないお言葉です。」
「ではな、またじじに電話をくれ、この番号は嬢ちゃん専用じゃからな。」そう言うと電話が切れた。
 アタシ専用電話?思わず手にした携帯電話を見つめる。あのジジィとのホットライン?な~んか、イヤ!
 携帯を切ると刑事課の電話が鳴った、ナイスタイミング。
「はい~、刑事課。」見る見るうちに田村刑事の表情が険しくなる。
「いえしかし、けが人も・・・
トカレフにしてもどこから・・・
はっ、解りました、
では、そちらの線で、はい、失礼します。」
 田村刑事は見えない相手にお辞儀をすると電話を切った、そして苦々しくアタシに言った。

「アンタ、何者?」


 警察を出て病院の駐車場に向かう、今度はパトカーで送ってはくれないみたい。
 夜風が気持ちいい、おなかの中の座敷わらしの一希さんも眠っている感じ。
 動かないけど、でも安らかさはある。あぁ良かった、一希さんは生きてる。
 
 アタシ、冴美さんには言わなくちゃと思った。一希さんがこんなことになったのも全部アタシと“議会”のせい。
 帰る車の中で“議会”の事を話した。驚いていた。そりゃ驚くわよね。
「でも、かじゅきは“そんなの関係ねぇ”とか言ったんでしょ?」アタシは小さく頷く。
「だったら、いいじゃない。」
「だってぇ・・・」最後は涙声になっちゃった。
「大丈夫、かじゅきは絶対元に戻る、貴女はそれを信じるのよ。
 今、かじゅきは一所懸命生きようとしてる、それをワタシ達が信じないでどうするの?
貴女もひどい目にあった。でもかじゅきに救われた。今度はあなたが幸せになって、かじゅきを救わなきゃ!でしょう?」

 見慣れたマンションへの道、最後に一希さんと通ったのはいつ?

 アタシはその晩冴美さんに抱かれて眠った。
 母親に抱かれて眠った記憶は無いけど、きっとこんな感じだったのかも・・・
 アタシそんな優しい母様から一希さんを取り上げようとしてる。
 翌日から期末試験。一希さんのためじゃないけど、とにかく今やれる事は頑張ろう。
 アタシの中には小さい一希さんがいるのがはっきりと解るもん。

大丈夫、彼は生きてる!


 
 
 
 翌日の朝刊には事件の事は一行も書かれていなかった。
 アタシはコンビニで全誌、買って隅から隅まで読んだけどホントに記事として載っていなかった。
 あのジジィ、やるぅ

 ホントは毎日一希さんの所へ行きたいんだけど冴美さんが許さなかった。
「まず、期末を乗り切ることでしょ?
うちの子だって期末試験よ。
 まぁこの二人は病室に行きたくないってのがあるんだけどね。」
「どうしてですか?」
「聖羅ダメなの、馴れないもの。」
 まずいものを食べたという顔をする、アタシは首をかしげる。
「見ちゃうの、死んだ人を・・・」冴美さんが解説する、
 そんな話なの?アタシだめなんですぅ~怪談話。

 聞けばこの間の病院行きは決死の覚悟だったという。

「だって、志津香さんがシャワーを浴びている間中、シャワーカーテンに子供がつかまってるし、カーテンを開けると志津香さんの後ろにソバージュの女の人が立ってるし、その前は、血だらけの志津香さんを珍しそうに餓鬼が囲っているし。」
 やめて!お願い、耳ふさいじゃうわよ!
「そうそう、俺もICUに入れって言われたらどうしようって思ってた。
よくかーちゃんは入っていったと感心したよ。」

 未来君まで・・・

 そうか、あの時二人とも不安そうにしていたのは一希さんの容体よりそっちのほうだったのね!
「でもさ、お医者さんの話を聞いた部屋、すごかったよね。」
 いやです、本当に勘弁してください。
「お願い、もうやめてください。アタシこの手の話ダメなんです~」
 すると三人ともきょとんとする。
「だって、憑物落し見たんでしょ?」と未来君が。
「あれは、特撮物みたいじゃないですか、帝都物語とか、妖怪大戦争みたいな・・・」
「え~?それしか見えてないんだ、ママ、志津香さんって聖羅たちと同じじゃないの?」
「ちょっと違うみたい、前に未来が憑巫だとか言ってたでしょ、自分自身じゃわからない、けど・・・みたいな。
 今度パパに聞いてみな?もっと詳しく教えてくれるよ、きっと。」
 
 あんな大怪我してるのに、入院してるのに、なんかどっか旅行にでも行ってるみたいに話すのね。
 本当に良くなるって知ってるのね。
 アタシなんか、みんなが居ないと一希さんに逢いたくて、心配で、ついつい泣いちゃってるんだよ。

 そうだ!期末試験が終ったら娘です、って言って病院に行っちゃお