WillcomがSoftBank傘下に入ってしまいました。
安くてよかったんです、Willcom。
今Willcom03を使ってるんですが、フルキーボードに慣れてしまって、他の携帯電話での入力が出来なくなってます。
そんなわけで・・・でもないんですが、先細りのWillcomに見切りをつけて携帯電話を購入しようかと。
まぁ、SoftBankへの移行がスムーズなんでしょうけど、いかんせん田舎では使えません。
まだまだ使えるエリアはdocomoが一番のようです。
でもやはりdocomoはお高いんですね、これが。
i-Phone4とXperiaでは毎月2000円近くの差がついちゃうんですね。
通話エリアのXperia、料金のi-Phone。どっちにしようかと迷っていたら、来月auですまーとほんを出すらしい。
しかもシャープ製!料金はこれまたSoftBankとdocomoの中間。
今使っているWillcom03はシャープ製だし、他にもNetWalkerなんていうシャープのものがあるのでそこそこ信頼できる機種(?)かな・・・と
シャープの修理窓口のタコさ加減は別としてですが。
なんとなくいじれるかなと。
来月になったら、ちょっとお店をのぞいてみようかな、なんて・・・


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--------普通預金--------


 やっと終りました、期末テスト、今日から期末休みです。
 なので張り切って、病院へ。
 
 おっとその前にお金を下ろさなきゃ、
 アタシ、裏口座(あの議会からのお手当てが入る口座の事よ、引き出したことないわ。)と生活費の口座、二つ持ってる。
 このあいだ裏口座を見てびっくり。約一億五千万円ぐらいのお金があるの、利息だけで贅沢しなければ十分食べていける。
 それに比べて表口座はつつましいけど、それでもやっぱり二千万ぐらいは常に入ってるのよね。
 とりあえず表口座から十万円ぐらい下ろして冴美さんに渡そう。
 後はあのジジィに連絡して慰謝料として裏口座のお金を一希さんに渡してもいいか聞かなくっちゃ。

 十万円下ろして何気に残高を見た。
 一、十、百、千、万、十万、百万、・・・千万・・・一億?え~十億?何かの間違いよ。
 きっとあのジジィだわ、慌てて電話を掛ける。
 昼間だけどいいかしら?
「大石でございます、先日は醜態を曝してしまいまして・・・・
今、お時間はよろしいでしょうか?」
「おお、嬢ちゃんか、うれしいのぅ電話があると、若返るわい。」
「またまたそんな、わたくし以上の美女は大勢居られましょうに?」
「そんなことはないぞ、もっと自分に自信を持ちなさい。見てくれだけの美女などナンボでも作れるわい。
嬢ちゃんはもっと美しくなる、内面からのぅ。
 ところで今日はどういう風の吹き回しかの?」
「あぁ、お時間を取らせてしまいまして申し訳ありません、下世話な話で恐縮でございますが・・・」
「金、かの?」
「・・・はい、今回は父様の事で乙葉家には多大なご迷惑をかけてしまいましたので、今までいただきました口座のお金、乙葉様に渡したいと・・・
慰謝料として。
 お許しいただけますでしょうか?」

 しばらくの沈黙ののち、電話の向こうで笑う気配があった。
「やはり嬢ちゃんはじじが見込んだだけのことがあるのぅ。」
「なぜでございますか?」
「今までの者たちはの“議会”を守るのだからと言って金をせびってくる。
嬢ちゃんの口座だけでなく、父親の口座にも金が入っておろう。」
「はい、それも伺いたく思っております。」
「それが我々からの慰謝料じゃ、このようなトラブルのときにな、皆に支払われる。
皆はそれでも足りんと云う。
ところがどうじゃ、嬢ちゃんは自分の金を充てるという。
 思ってもみんかった。
 じじは今一度、人をな、信じてみても良いなと思った所じゃ。
・・・嬢ちゃんには感謝しておる。」
「そんな、わたくしなどただの女子高生でございます。」
「いやいや。謙遜しすぎるのも嫌味じゃぞ、
 嬢ちゃん、あの口座の金はそのままとっておきなさい。いつかきっと役に立つ。
 そして必要なら父親の口座の金を自由に使いなさい。、
ただし、嬢ちゃんの彼氏、乙葉君といったかのぅ、慰謝料や治療費はじじから支払う。
 今回の事では、じじが嬢ちゃんに固執したばかりに父親を狂わせてしまった。
人生、約一世紀生きてきても、人を見る目がまだまだということじゃ。
その反省を込めてのぅ。まぁ、金でしか償えんが。」
「そんな・・・よろしいのでございますか?」
「これ、じじを誰だと思うとる?」声には笑いが含まれている。
「も、申し訳ありません、どうかお気を悪くなさいませんように。
・・・ありがとう御座います。それではお言葉に甘えさせていただきます。
乙葉さんが元気になりましたら、必ず二人でご報告に上がります。」
「うむ、まっとるでな。」
「あ、それからマスコミにも手を回していただきまして、ありがとうございます。」
「それは礼には及ばんよ、じじの身も危なくなるものでな。
では、二人に会える日を楽しみにまっとるぞ。」そう笑いながら電話が切れた。
 ただのスケベジジィじゃなかったのかな?でもアタシはまだ信じられない。十年近くも蹂躙されてきたんだからね。

 病院に着くと面会希望を出し白衣に着替える。
 マスクまでしたらアタシって判らないじゃないの。
 でも逢いたいから、ガマン!
 
 ICUの看護師さんは“まだ目が覚めないの、ゴメンネ。”と言った、“あなたが来たことに反応してくれるといいわね”とも。

 彼の腕には点滴の針が刺さり、胸には心電図系のセンサーが貼り付けられ、頭の周りには色々なモニター、頭の包帯の中からは色とりどりのコードが・・・それから酸素の音かな?コポコポと鳴ってる。
「一希さん、聞こえる?十日ぶりね、アタシ、志津香よ。」
 手を握りながら小声で話し掛ける、するとアタシの手を握り返した。思わず声を上げる、
「看護師さん、手を握ってくれてます。」
 アタシの声に二人の看護師が駆け寄り、それを確かめると一人は医者を呼びに、一人はセンサーの表示を確認した。
 隣のナースセンターみたいなところから医者が小走りに寄って来る。
 しばらく様子を見ていたが。
「良かったですね、目覚めたようですよ。」と話してくれた。
「乙葉さーん、判りますか?まずこの手を握ってください。
・・・はいOKです。
 では目を開けてください、どうですか?」
 瞼がぴくぴく動く、看護師に“暗くして”と指示が飛ぶ。
 少し開いた。
「眩しいですね、眩しかったら手を握ってください。
・・・はいOKです。
 では声が出せるかマスクを外しますよ、苦しかったら手を握ってください。」
 医者はアタシを向き“大丈夫です。”と言った、良かった。嬉しさで涙が出ちゃう。
「はい、マスクを外しました、どうですか。」
 やがて空気が漏れるように声を出した。
「し、ず、か、ごめん。」
 医者は言葉の内容を気にも留めず、
「この人が誰だか判りますか、志津香さんですよ。
 志津香さんがここにいるのが解りますね、判ったら手を握ってください。」
 結果に満足した医者はアタシに向かって、
「今日はここまでにしましょう、このままの状態が続けば一般病棟に移せるでしょう。」
「もう少しここに居てもいいですか?」と聞いてみる。
「あと三十分ぐらいなら」そう言い残して医者は去っていった。
 
 看護師さんが椅子を持ってきてくれたけど、ここは周りを遮るものがないからキスはできないわね。でもマスクはとっちゃえ。
「一希さん、まだ声が出しづらいんでしょ、手を握ってくれればいいわ。」
 首もまだ動かせないみたい。
「良かった、助かって、今はそれだけでも嬉しい。」
 手を握り返してくれる、アタシはその手の甲に口づける、掌を頬に当てる、暖かい。
 もう言葉が出なかった。今はこのままでいい、こっち側に居てくれさえすればいい。


 それからさらに一週間。
 やっと一般病棟個室へ、ここならあまり見えないと聖羅ちゃんも未来君もお見舞いに来る。
 でも来るたびに“あそこに居た”とか“ここに居る”とか言うし・・・ホントにアタシ、ダメなんですってば!

 ここに来るようになって、聖羅ちゃんはアタシの事を“し~ちゃん”未来君は“ダイねーちゃん”と呼ぶようになった。
 ま、いいけどね。
 
 アタシは毎日学校帰りにここに来る。
 未来君が“ダイねーちゃん”と呼ぶので、看護師さんの間ではすんなりと長女の地位を手に入れたみたい。

一希さんは確実に快復している、

 そんなある日、冴美さんが飛び込んできた。
「し~ちゃん、し~ちゃん。」って、冴美さん、アナタまで・・・
「どうしたんです?」
「お金が増えてる、しかもハンパじゃない金額。」
「貰っとけばいいじゃないですか?慰謝料だって言ってましたよ。」
「誰が?」
「“議会”」
「それで、し~ちゃんに迷惑はかからないの?」
 アタシ、絶句!ちょっと腹が立っちゃった。
 何でこんなときまで人の心配するの?どうしてそんなにいつも他人のことを考えちゃうの?まるで一希さんみたいじゃない!
「アタシに迷惑はかかりません、逆にそれを受取ってもらわない事のほうが・・・」
 嘘じゃない、多分それはジジィが考えてること。
「何言ってんの、ほんとに貴女に迷惑はかからないの?これ以上あなたが酷い目に遭わされるのは嫌なの。」
 アタシの事を考えてくれるの?嬉しい、泣けてきちゃう
「アタシの事を・・・そんなに?」
 冴美さんはアタシを抱きしめて静かに話してくれた。
「そうよ、ワタシたちはもう家族なの、あなたはフェイクファミリーって思ってるかもしれないけど・・・
ワタシたちはみんなかじゅきに幸せを貰った、貴女もかじゅきに幸せを、思い出を貰ったでしょ。
 だから今度はワタシたち全員でかじゅきに幸せをあげるの、ワタシも聖羅も未来もそれは共通の想い。
 貴女が酷い目に遭わされるのは誰も望まないし、それに乗っかった幸せはいらない。
 アタシは欲張りだから貴女も、聖羅も、未来も必要なの、大切なの!

 ・・かじゅきが好きになった貴女(ひと)。
 ワタシは貴女じゃなかったら反対してた、何でもっと嫌な女じゃないんだろう?って、いつも考えてる。
でもやっぱり、かじゅきの選んだ人は、素敵な人だった。
 ワタシ、貴女を気に入っちゃったんだもん!自分の子供みたいなんだもん!
かじゅきの見る目は確かよ、ワタシたちは家族なの、これからもずーっとね!わかった?」
 そんなダメ押しをしなくても・・・アタシはただただうなづくばかり。

「お金は、本当に受取っておいてください。
でも、一希さんが良くなって、二人でその方にお会いしたときにお返ししたいと話してみます。
それまでは、持っていて下さい、そして少しでも使ってください、お願いします。」
「ん、解った、でもスゴイ金額よ?」ちょっと素に戻った?
「そんな事ないでしょう、もしもこれで障害が残ったら足りなくなりますよ。」
「そんなにかかるものなの?」
 冴美さんが不安そうに尋ねるけど実はよくわかんない。
「たぶん・・・」
「まぁいいわ、とにかく必要最低限のお金はいただきます。あとでちゃんとかじゅきと落とし前はつけてきてね?
かじゅき、来たわよ。」
 そう言って冴美さんは彼の額にキスをする。

「あ、そうそう。
し~ちゃんのお家だけど、未来が友達連れて片付けに行くって言ってたわよ、頼んだ?」
「あぁ、忘れてた。いつにするか言ってました?」
 この前“そうだ掃除をしなくちゃ”と呟いたら、未来君がやってあげるとか言ってくれたんだっけ。
 でも本当は家の中を調べたいらしい、アタシが今まで溜め込んでいた(ハズの)魍魎をどこに出していたのか気になるって言ってたっけ。
「今度の土曜日にって、任せてあげて。なんか好きな娘も連れて行きたいみたいよ。」冴美さんがニヤっと笑った。
 その顔、お母さんの顔じゃないです。全くこの母子は・・・
「デートの口実ですね?」
 アタシもつられてニヤっと・・・


--------夢の中で-------



 一希さんの容態はあれから一月たってもそう変わってはいない。
 
 一日中うつらうつらと眠るでもない、起きるでもない、誰かが来ると反応はするけど、それ以上でもなく。
 確かにまだ頭を固定されていて首が回せないし、薬の量もハンパじゃないからしょうがないのかもしれないけど。
 でも未来君は一希さんの手を握る事で会話ができるらしい、きっと聖羅ちゃんもできてるんだろう、いやひょっとすると冴美さんも?
 またアタシだけ仲間はずれ、やっぱり寂しい。
 アタシができるのは毎日通って様子をみる事だけ。
 冴美さんは一希さんの額から唇を離さない、やっぱり会話してるんだわ。
「なんて言ってます?一希さん。」
「解らないわ、まだ混沌としていて・・・」

 アタシと冴美さんはお喋りするでもなく、ただただ彼の姿を眺めて時間を過ごした。それだけで満たされる。
 時折、看護師さんが点滴の交換や、モニターの表示を確かめに来るけど、それ以外は酸素のコポコポという音だけが病室に響いている。
「さてと、ワタシは帰るけど、し~ちゃん、何時ごろ帰ってくる?」
 もうすっかり乙葉家の一員、アタシが帰ってくる事が当然の事として話されてる。
「最後まで居ますから七時ぐらいになります、今夜はなんですか?」
「未来のリクエストで青椒肉絲。」シブイなぁ、未来クン
「は~い」
「じゃぁ、先帰るね。」冴美さんは一希さんの頬にお別れのキスをすると帰っていった。

 アタシは独り言のように一希さんに語り掛ける。
「二人で旅行って云うのもいいけど家族旅行もいいわよね、みんなで温泉とか?
あ、でもそうしたらアタシはどこで寝ればいいんだろう、やっぱり一希さんと二人っきりって訳には行かないよね。
 冴美さんも交えて三人という選択肢もあるけど、嫌がるだろうしなぁ。
 アタシは全然嫌じゃないよ、慣れてるから・・・
こんな事言うとまた叱られるわね、ゴメンネ一希さん。」
 アタシはそう言いながら一希さんの掌にくちづけする。

「パパは?」
 突然聖羅ちゃんが声を掛けたのでびっくりした。
「やだ~突然声をかけないでよ、音も立てずに入ってきて・・・
ただでさえあなたたち二人が怖い事言うから、びくびくしてんのに!」
「ごめんごめん、そんなにびくびくしなくてもいいよ、し~ちゃんは見えないんでしょ、私なんかマジ怖いよ。
 病院だと死者と生者の区別が希薄になってるから特にね。
 血だらけで椅子に座ってるのが死者とは限らないもの、この間のし~ちゃんみたいにさ!」
 えっ、アタシが?
「そんなふうに見えたの?」
 確かにあの時はアタシ、死んでたと思う。一希さんが死んじゃったら、もう生きる意味がないと思ったし。
「ん、し~ちゃんが死んじゃって、パパを探しているのかと思っちゃった、未来もそう見えたって。」
「聖羅ちゃんもパパと話せるの?」
「ん~話せる訳じゃないんだけど、なんとなくパパの頭の中がイメージで感じられる・・・かな?」
「今は混沌?」
「そう、それね。でもパパの座敷わらしが元気なんで、きっとまだ眠って居たいんだなって思う。」
「そうなんだ・・・」
 あたしにもそんなのが解ればな~

 それから二人でしばらくお喋り、その後二人一緒に帰る事に、面会時間は終了。
「じゃ、パパまたね!」
「一希さんまた明日来ます。」


--------冬京--------

 正月早々雪が降りました。

 一希さんはまだ入院中。
 これから吹き飛ばされた大脳に詰め物をして、セラミックの頭蓋骨をはめ込む手術があるそうです。
 なので、まだ数ヶ月は帰ってこられません。
 父様の(あ、アタシは二人っきりになった時以外は一希さんを父様と呼んでいます。)状態は、右半身に麻痺が残りました。
 言語や情緒に障害は残りませんでしたし“力”も健在なようですが、まだ一人で起き上がる事すらできません。
 基本的には全介助となるようです。
 座位の保持はできるようになったので、食事は一人で済ませられます。
 でもアタシたちがそれを許しません。
 父様の世話をめぐっては、結構、裏で争奪戦が繰り広げられています。
 まぁ、本人には内緒ですけど。

 アタシは、希望の大学に推薦で入学する事が決まり受験勉強から開放されました。
 ひょっとするとあのジジィが手を回したのかもしれませんが今は彼と過ごす時間が取れることが何より嬉しいです。

 今日も雪です、みんなで作ったおせちを持って一家全員病室にいます。
 普通、これくらいの歳になると子供たちは友達と遊びに行くとかするものだと思うんですが、この家族は父様の事となると一致団結。
 キズナの強さには脱帽なんです。
 父様は子供たちとは血がつながってなくて、子供たちも父親が違ってて、
 冴美さんにいたっては“かじゅき(父様)に育てられたようなもんよ!”と話しているのに。
 こんな、ホントに“愛”でつながってる家族ってどこを探してもないんじゃないかな?
 今はアタシもその家族に入れてもらえて、感謝、嬉しい、もう表現できない。
 でもやっぱり中心は父様なのね。

 ここへきて実の父の後見人問題や遺産の生前贈与など何かと大変だったけど、あのジジィがうまくやってくれたみたい。
 これは本当に父様が良くなったらご挨拶に伺わなければならないみたいです。

 今、その父は隣の県にある病院に入院しています。
 人事不詳。一日中独り言を呟き、部屋の隅で“何か”に怯えながらうずくまる毎日を送っています。
 父様の“怒り”で人格崩壊したと父様は言います、どうやったのかは知りません。
 アタシはあの場にいましたが、父様の背中に隠れていましたから。
 
 そして、父様の遺言になるかもしれなかった言葉“志津香、ごめん、お父さん、壊しちゃった”。
 自分の最期の時にまでアタシなんかの事を心配してくれる、なんてバカな人だろうと嬉しくも悲しく思いました。
 最期を覚悟したはずなのに、聖羅ちゃんや未来君。いえ、冴美さんに一言残してあげられなかったのかな?って。
 アタシなんかじゃなくて、しかもあの男のことなんか・・・
 父様は、どんな父親であっても実の親はかけがえの無いものだという事を伝えたかったのでしょうけど・・・

 でも、アタシまだ父を許せません、病院で父に面会しても何の感慨も沸きませんでした。
 もっとも向こうもアタシが誰なのか判らないようでしたが・・・

 しばらくは父の事は封印します、アタシの中で何かが変わるまで。

 乙葉家の話に戻しましょう、現在父様は休職扱いです、交通事故で瀕死の重傷を負っていることになってるので・・・
 まぁ“交通事故”のところ以外は全部合ってますから別に齟齬は生じてません。
 治療費はどこからか・・・きっとあのジジィの差し金なんでしょうけど支払われているようです。
 生活費も“議会”から一希さんへの“慰謝料”とアタシに支給された“慰謝料”で何の問題もありません。
 でも、冴美さんはそれに手をつけたくないと頑張っています。

 実際、冴美さんのお仕事(最近知ったのですが“翻訳家”でした)の収入も結構なものなので、確かに手をつけなくてもよさそうです。
 ちなみにこの翻訳、どんな言語で書かれててもOKらしいんです。(原本があればですが)
 ほとんど感覚で判るんだとか、内容がビジュアル化されて見えるんだそうで、これも“力”の一つなのよと彼女は笑っていってます。
 なので、直訳はできないと、意訳になってしまう。でもそれが受けているらしく仕事に切れ目がないんです、なのに専門書の類はダメだとか。
 以前医学書の翻訳で、人体器官の解剖方法を記述した個所があまりにもリアルに見えて吐き気が止まらず。
 それ以来、絶対専門書の翻訳はしないのだとか・・・

 みんなが父様LOVEなんですが、アタシたちを二人きりにしてあげようと気を使ってくれます。
 でも、今まで散々怖がらせておいて・・・なんです。
 アタシ、怖い話はダメなんです。
 聖羅ちゃんも未来君も“アソコにいたのは・・・”とか、“そうそう階段の踊場の・・・”とか。
 何でみんな怖くないの?
 でも、みなさんのお心遣いありがとう御座います、という事で久しぶりに二人っきり。

 今日は一希さんも調子がいいみたい、少しお話してくれる。
「・・・一希さんに話しておきたい事があるの・・・」

 アタシは切り出した。

「アタシ、五歳の時に母様を亡なくしました。
父はアタシを母様の代わりにしました。
体こそ求められなかったけど・・・今度の事があるまでは。
 でも心の拠り所にされました。
事あるたびに“おまえだけが俺の安らぎだ”とか“もう俺にはおまえしかいない”とか・・・
 八歳のときに“議会”に送られました、その頃は何もわかりませんでしたが。
でも歳が上がり、胸が膨らみ、初潮が来て、下のヘアも生えてくる頃には自分の境遇を知りました。
 生理の処置も“議会”の専属看護師に教えてもらいました。でもマンションに・・・
 あ、当時はあの家ではなく都内のマンションでした。
 マンションに帰るよりは“議会”に居るほうが良かったんです。
一人の部屋で毎回違う女性を連れてくる父を見るより、夜中にセックスの声をを聞くよりはよっぽど良かったんです。
 そんなんですから、もう家族なんて遠い世界の事だと思ってました・・・
あなたに逢うまでは・・・
 アタシも最初は父の代わりをあなたに求めているんじゃないかと自分自身を疑ってました。
 でも、あの憑物落しの時にあなたの心の声を聞いてからは違っていると解ったんです。

 アタシを物、道具としてではなく、個人として、人間(ひと)として見てくれる誰か、愛してくれる人が欲しかった。
 そして“家族”。
 一希さんも、冴美さんも、聖羅ちゃん、未来君もみんなが愛してくれている家族ができた。

 冴美さんが
“だからワタシ達は家族になるの!
あなたがフェイクファミリーと思うならそれでもいい、でもワタシ達は貴女が大切。それだけは覚えといてねっ!”って、そして
“アタシだってね、アンタがもっと嫌な女だったらっていつも思うわよ、でもね、憎めないんだもん、可愛いんだもん、かじゅきを盗られちゃってもしょうがないと思ってるんだもん。
 やっぱりかじゅきの選ぶ人はステキなんだもん。”って言ってくれた、
 アタシ本当に、心の底から、言葉にすると安っぽいけど嬉しかった!愛してもらえているって云う実感。
 一希さん、アタシはどうやってみんなにお礼をすればいい? 
冴美さんや、聖羅ちゃんや、未来君・・・そしてあなたに。」
 一希さんは、アタシの頬に掌を・・・その腕には点滴の針が刺さっているけど・・・当てて、
「幸せになりましょう、貴女の望む幸せです。誰かの・・・ではない、貴女のです。
まず、先に幸せになってください。オレは貴女を追いかけます。」
「そんな事言われても・・・」
「なにが?」
「だって、アタシ幸せだった事がないんだもん!幸せになる方法なんて知らないんだもん!誰も教えてくれなかったよ。」
 言ってしまってから、ずいぶん忘れていた感情だって事を思い出して、おかしくなった。
 一希さんも、笑い始めた、アタシも笑った。
「オレたち同じなんだねぇ・・・」
「だから惹かれあったのかも・・・好きよ、一希さん。」
「オレもだ、愛してるよ志津香。」
 あ~もぅ、どうしてアタシより先に“愛してる”って言っちゃうの?ずるい!
 悔しいから、無理やりキスしちゃお~っと。
「あ、こら、頭触っちゃダメ!」
 一希さんの頭は頭蓋骨が無いので触るとぶよぶよしている。
「そうそう、志津香に言わなきゃならない事があったんだ。
今日医者が来て大事な事を言ってったんだよ。」

 嫌な予感。

「怪我の事?」
 アタシどうしよう?このうえ一希さんまで失ったら・・・
「重要な事だって。怪我のあとのこと。」
 アタシもう聞きたくない、涙が止まらない、何で、どうしてアタシたちばかり・・・

「禿るって。」

・・・アタシその言葉を理解するのに少し時間がかかった。

・・・冗談?

 モーレツに怒りが湧き上がってきた。
「何よそれ、冗談?言っていい冗談と悪い冗談があるわよ!」
「だからちゃんと言ったよ怪我の“跡”の事って。」
 そう言って笑いながらアタシの頭を抱きしめて胸に抱いてくれる。
「ごめんな志津香、
でも、あんまり深刻に考えないで、二人でゆっくりと幸せになればいいじゃん。
 今は生きてるのが辛い?」
 アタシは激しく首を振った、そんな事ないよ!
「そうでしょう?全世界があなたを嫌っても、必要ないと言っても、
オレや、冴美、聖羅、未来はあなたを必要としてるよ、解ってるだろう?」
 今度は激しく頷く、嬉しい・・・
「志津香にとってオレたちは必要ないかい?」
「絶対必要、空気と同じくらい!ううん、それ以上!」
 アタシは顔を上げて答える、ちょっとクサかったかな?
「ん~いい答えだ。だからオレも冴美も子供たちも志津香を必要としてる、オレ達は家族。
 誰が欠けても、寂しい、辛い、悲しい。
 冴美は志津香が好きだよ、きっと自分の子供のように思ってるよ。
志津香にしたら“家族ごっこ”かもしれないけど、オレたちはかなり真剣なんだよ!」
 アタシはただ頷くだけ、
「でも一つだけ、これは志津香に叱られるのを承知で言います。
 両親を知ってる志津香が羨ましい。
 あんな父親でも?と云うのも、もっともな話だけど、これだけはオレも冴美もどうしても手に入らない。
 憎んだ記憶さえ羨ましい。これだけは覚えておいてください。」
 そんな・・・憎んだ事さえもだなんて。
「それからね、志津香。もう一つ大事な事・・・これからも愛してくれる?ハゲても?」一希さんが笑いながら言う。
 アタシは答えずに笑顔で首を締める振りをした。
「ごめんごめん、でもオレにとっては、大事な事なんだよ、
デヴでビール腹でもハゲにだけはなりたくないって思ってるんだ、白髪ならばまだ許せると自分の中にはあったんだよ。」
「一希さん、アタシがそんな外見的なことを気にするとでも思ってる?」
 あれ?どっかで聞いたセリフ。
「そうは思ってないけど自分で許せないの!厭なの!ハゲなんて!」
 そんなもんなのかな~やっぱ、どっか俗物。
「大丈夫、つるっぱげになっても愛してあげる、
その頭にキスしてあげるわ、毎朝おはようのね!」
 あ、なんか冴美さんもやりそう。
「冴美もしたがるな、それ。」やっぱりそう思う?

 ふと、窓の外を見やると雪が降っていた。
「一希さん、外、雪が降ってる。」
 アタシは手を貸して起き上がらせると窓の外を見せてあげる。
 外はそろそろ暗くなり始めた黄昏時。灰色の空の下、街灯がポツポツと灯り始める。
 その中を大きなぼたん雪が、ふわふわと音も無く舞い降りる。
 アタシはベッドに腰掛け、彼の頭を抱きながらそれを見ている。
 彼の指がアタシの髪の毛をもてあそぶ、とても気持ちがいい、眠くなっちゃうわ。
 あぁ、こんなに心安らぐのは久しぶり。
 冴美さんたちと一緒にいる時とは違った安らぎがある、やっぱりアタシには一希さんが必要。

“誰も、気にしないで、泣いてなんか、いるのじゃないわ余計な事、気にしてる、一人歩きは、みんな、寒い”

 一希さんが歌を口ずさんでる、ステキな声。よくなってきてる実感。でも、誰の歌?

「志津香・・・」
「なぁに?」
「ビールが呑みたい。」
「ダメに決まってるでしょう?」
 確かにこれだけビール好きの彼が我慢させられているのは辛いだろうとは思うけど、ここは病院だし、ましてや大怪我で入院してるんだから。
「アタシのキスで我慢して・・・」
「え~、ビールがいい!」って、全く五歳児か?駄々こねないでよ~
「じゃぁ。もうキスしてやんない!」
「そんなぁ・・・キスはキス、ビールはビール、比べられないよ~」
 んもぉ、ちょっと状態が良くなるとすぐこれだ。
「無理言わないの!冴美さんに言いつけるわよ。」
 冴美さんにも叱ってもらわないと。
 
 アタシはベッドから降りて、腕を組んで睨みつける振りをした。
“コンコン”ドアが開いて看護師さんが入って来る、点滴の交換と、モニター数値の記録ね。
「どうしました?」
 アタシと一希さんの顔を交互に見る。
「父様が、ビールを呑みたいと駄々をこねるんです。」
「あらあら、それは大変ねぇ、」
 看護師さんも苦笑している。
「やっぱりダメでしょうか?」
 一希さんが看護師さんを見上げる、そんなウルウルした目で見つめても看護師さんは落ちないわよ!
「お正月ですしね、ちょっと先生に聞いてみます。」
 あれ?嫌に簡単ねぇ?


 その晩、ビールが許可された。お正月という事で・・・
 100ccの缶ビール。一本。
 一希さんはしばし呆然としてそのビールを見詰めていた、その目には光るものが、それは嬉し涙?それとも・・・