Q

舞姫についてです。なぜ豊太郎は自分のことを自分でアリスに話さなかったのでしょうか?

 

A

アリスって、誰ですか
エリスの事ですか
以下、エリスだとしてお答えします
「嗚呼、さらぬだにおぼつかなきは我身の行末なるに、もしまことなりせばいかにせまし。今朝は日曜なれば家に在れど、心は楽しからず。」
これは、エリスの懐妊を知った時の豊太郎の心情です
「自分は将来が見えないのに、同棲相手のエリスが妊娠とは面白くない。」
問題は、ここで彼の言う「我身の行末」の内容、その意味する事です
具体的には、相沢が書いている「汝が名誉を恢復するもこの時にあるべきぞ」、つまり豊太郎の名誉回復、大日本帝国若手官僚としての栄達と、同棲相手のドイツ人女性エリスの妊娠、これが無関係で互いに独立しているかどうかです
それが無関係であれば、「もしまことなりせばいかにせまし…心は楽しからず」が説明できますか
関係あるからこそ、つまり名誉回復、大日本帝国若手官僚としての栄達が実現すれば、ドイツ人女性エリスとの関係は実質維持できなくなることを豊太郎がこの時点ですでに知っているからこそ、「いかにせまし…楽しからず」であるのと違いますか
天方伯に認められ、名誉回復・栄達が確定した時点で「黒がねのぬかはありとも、帰りてエリスに何とかいはん」となることは、最初の時点で豊太郎に予想できていたのです
【(天方伯に認められ、将来の)帰国と栄達が実現すれば、エリスとの幸福な未来が失われることを豊太郎は知っていたから。】
以下補足です
「なぜ豊太郎はエリスに話さなかったのか」という問いが不適切です
そうではなく、「エリスに話さなかった豊太郎の心情はどのようであったか(豊太郎がエリスに話さなかった意味は何か)」と考えるべきです
描写や叙述から人物の心情を読み取るのが小説の読解です
読解は、描写や叙述の意味を読み取れば済むのです
つまり、読解に必要なのは「意味の問い」です
「なぜAはBか」と(論証の問いにして)問うのは、方法的に誤っています