Q

平安時代の桜は白が普通だそうですが、ピンク色(赤色系)の桜が詠まれた和歌などはあったのでしょうか?あるのなら、出典と和歌を教えてください!

 

A

「ひざくら(緋桜)」は現在はピンク色の花びらを持つヒガンザクラとされています
・春をやくひかりはおなじ梢にも分きて名にたつひざくらの花 (新撰和歌六帖 第六「木」 2377 藤原為家 13世紀)
しかし、軽い興味からおたずねでしょうが、これはたいへん難しい問いです
中世以来の歌学において、あなたのご質問は、その考究の一対象になっています
「ひ」が何を意味しているのかも、よくはわかっていません
上の歌も、確かに歌われている「ひざくら」がどのような品種で、その花弁が何色であったかは定かではありません

・秋をこそ焼くとは見しか山の端に薄紅の緋桜の花 (新撰和歌六帖 第六「木」 2379 藤原光俊 13世紀)
この歌は色彩を「薄紅(うすくれなゐ)」すなわちピンク色と詠んでいます
この歌は、ご質問を満たす歌と言えます

・梓弓春の山辺に煙立ち燃ゆとも見えぬ緋桜の花 (夫木抄 巻四「春四」 1373 凡河内躬恒 10世紀)
この歌も「燃ゆ」とあり、赤系統の色であるとわかります
時代は平安中期、歌人は『古今集』選者の一人です

 

返信Q

とてもとても助かります!古今和歌集の「春霞たなびく山の桜花移ろはむとや色変わりゆく」という歌について今調べています。たいていの注釈で、桜の色を「白」として捉えているものが多かったので、私は逆にピンク桜の色が霞によって薄れていく…という意味として捉えてみたいと考えていました。「緋桜」の例を使えば、この私の解釈も否定はされないでしょうか?ややこしい質問、申し訳ないです。

 

返信A

「緋桜」の例は、あくまで他の歌です
それを取り上げてお調べの歌を説明するのは牽強付会でしょう
「春霞たなびく山の桜花移ろはむとや色変わりゆく」
そもそもその歌で詠まれている桜の品種はわかりませんから、品種を問題にするのは筋の良い論とは思えません
この歌の「うつろふ」が、10日ほどの開花期間における花びら自体の褪色によるものか、一日の中における太陽の傾きによる日差しの変化など、外光の影響による視覚上の変化か、特定できますか
和歌で詠まれた事物の色を問題にするときは、常にこの点が問題になります
この歌の場合、「うつろふ」の時間の幅をどう考えるか(一日か数日か)で、立場は別れるでしょう
あなたが論じたい方向で論じるのは結構ですが、その際、「自分は花びら自体の褪色による変化ととらえた/一方で、外光の影響による視覚上の変化と見る立場もある」などと、論の前提も含めて客観的に論じるべきかと存じます

 

返信Q

白(光の変化)についても論じようとは考えております。紅がいいなと思う理由は、この歌の霞は中国的な茜色の霞を表しているらしく、それなら桜の色も紅よりの方が良いのではないか?と考えたからです。この考えを示せば論の前提を含めていることになるでしょうか?

時間軸的には、晴れて輝いていた白い桜を見ていると霞で隠されてぼやけた…(光に焦点を当てた場合)と考えております!

 

返信A

当初のご質問からそれています
あなたの主観やご希望はあなたのものであり、私の回答すべき対象ではないと存じます
ただ、一般的な事を申し上げますと、霞は水蒸気であり、そのもの自体に色はありません
それが「茜色」であるのは、外光による視覚上の色彩であるということになります
外光は日中の時間帯で変化するものです
ということは、この歌における「うつろひ」は、日中の時間帯の中での変化(数日間の褪色ではないし、おそらくは朝夕のごく短い時間内)という事になりませんか
その同じ外光の変化は、桜の花の色彩、その見え方にも当然影響するでしょう
その具体的な色は、この和歌において特定も限定もなされていません
それをこの和歌全体からどうイメージするかは読者に任されています

これ以上はご勘弁ください

 

質問者からのお礼コメント
回答者様がとても有識者であり、質問がヒートアップしてしまいました。長らくお付き合いありがとうございました。