Q

学校の課題で
夏目漱石の「こころ」で「自由と独立と己に充ちた現代に生まれた我々はその犠牲としてみんなこの淋しさを味わわなくてはならないでしょう」という覚悟を持っている先生が「記憶してください。私はこんな風に生きてきたのです」と「私」への遺書に書き残した。この先生の生き方を「他者」を一人選び、その人間関係から分析し、論じよ
というのが出たのですがどのように書けばよいでしょうか?
できるだけ本文中の引用から根拠付けて書きたいですまた、時代背景にも触れたいです。

 

A

かつて先生は友人Kの前に跪いた
「最後に私はKといっしょに住んで、いっしょに向上のみちをたどって行きたいと発議しました。私は彼の剛情を折り曲げるために、彼の前にひざまずく事をあえてしたのです。そうしてやっとの事で彼を私の家に連れて来ました。」(下22)
その後、お嬢さんをめぐって先生はKと対立し、Kを裏切った
「しかし前にもいった通り、私はこの一言で、彼がせっかく積み上げた過去を蹴散らしたつもりではありません。かえってそれを今まで通り積み重ねて行かせようとしたのです。それが道に達しようが、天に届こうが、私は構いません。私はただKが急に生活の方向を転換して、私の利害と衝突するのを恐れたのです。」(下41)
しばらくしてKは自殺し、先生は苦しんだ結果、そうした覚悟(上14)を持つに至った
先生の覚悟は学問を学んだ結果得たものではなく、Kとの関係において自身が体験して得た認識であった

先生は、私からの尊敬を退けようとしたのは、自分を含めた人間一般に対する根本的な不信を抱いていたからです
その認識を自分の死とともに遺書として私に伝えた事は、その認識とそれを支える事実を糧に、人間不信を克服する生き方を追求してほしいという願いからあったと解釈できます

などです
以上はこの作品の筋の基本的な解釈です
私でなくとも誰でもこのように読める内容です
その上で、作品の解釈と評価はさまざまでしょう
私はこの作品を高く評価しますが、それは上記の筋(深刻な体験をして自殺し遺書を残したという)の解釈のためでなく、その語り方のためです
しかしそこまで要求されている課題ではありませんのでその事に触れる必要はありません

時代背景については、旧民法における結婚の規定と乃木希典の殉死の二つが考えられます
旧民法における結婚の規定については、若い女性に自己決定権が認められていなかった性差別に触れざるを得ず、問題が複雑になります
乃木希典の殉死は、遺書あるいは自殺という要素に関係するだけであり、その方が単純でしょう
謝罪しようのない過去の失敗と謝るべき相手の死、その二つが先生との自殺との共通点です
殉死は世界的に見れば時代遅れ、時代錯誤の行為です
「自由と独立と己に充ちた現代に生れた我々」に、ふさわしくない行動です
乃木が明治天皇という価値に寄り掛かって生きそして殉死したように、Kも先生も自分の信じる価値に寄り掛かって生きそして死んだということになります
そうした生き方を越えて生きていくようにという若い人々に対する思いが、この作品の主題であったと考えられます

以上です