Q

太宰治の水仙で主人公が最後に静子夫人の水仙の絵を破いて捨てたのはなぜかを聞きたいです。できれば本文からの根拠なども描いていただけると幸甚に存じます。

 

A

静子夫人は冒頭の松平忠直だったということです
忠直は本当は剣術が上手かった。それをひねくれて解釈した挙句に破滅した。語り手は「忠直卿行状記」(おそらく菊池寛作の)の忠直をそのように解釈しました
【その殿様は、本当に剣術の素晴らしい名人だったのではあるまいか。家来たちも、わざと負けていたのではなくて、本当に殿様の腕前には、かなわなかったのではあるまいか。庭園の私語も、家来たちの卑劣な負け惜しみに過ぎなかったのではあるまいか。】
破滅した後で事実を知れば、事実を知らずにひねくれていた時よりもさらに惨めになってしまうのではないか(破滅は出生や他人、すなわち自分には責任のないことのせいであったのが、実は自分の愚かさのせい、すなわち自業自得であったとなってしまう)、それくらいならば、真実を知らずに出生や他人を恨んでいた方がまだましだ、そういう理解が語り手にあります
それを静子夫人に応用すれば良いだけかと思います
自分を勘違いしてさんざん放蕩した挙句、聴力を失い破滅したなら、悲劇の主人公として死ねます
実は才能があり、良い絵を残したことを知ったなら、自分の愚かさから才能を空費し、せっかくの人生を自ら手放した、より惨めな者になってしまいます(自分で自分を許せない、救いようのない愚か者だったのだと思い知らされてしまう)
それくらいならば、勘違いして破滅した自分を哀れ、周囲からも哀れまれながら死んだほうがまだましだろうという思いから、語り手は彼女の傑作を破り捨て、彼女の才能の証拠物を隠滅したのです

 

質問者からのお礼コメント
さんこうになりました