落っこちましたよ、わたしの生徒は | ぞうの みみこのブログ

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こちらのピアノを中心とする音楽教室で有名な検定試験が、ABRSMの略語で知られる、英国王立音楽検定。( Associate Board of The Royal School of Music)

本部はイギリスにあります。

試験はわたしがお勤めしてるようなニューヨークのいろんな音楽教室でも受験できるようになっていますが、試験官ははるばる本部イギリスからお越しになります。

生徒が言っておりました、試験官は”ブリティッシュ・アクセント”でしゃべってた、”と。

レベルが1級から8級まで分かれていて、数字が上がるにつれ難易度が高くなります。

(無事合格すると、イギリスからこのようなりっぱな証書が送られてくる。イギリス王室のメンバーが名誉顧問みたくなっていて、その名前も記載されている。)


日本の感覚でいうと、一級がバイエルの60番くらい。8級は、J.S.バッハのシンフォニアや、モーツァルトのソナタ、ベートーベンの初期のソナタとかが弾けるレベルです。

音大とかとはまったく関係なく、趣味で習う生徒向けの試験ですが、

こちらでは大学や高校入試に向けて、どんな学校外の活動をしているか、学業以外でどんな才能があるかを応募書類のなかでアピールするため、試験を受ける子供達が多いです。

級ごとに課題曲をまとめた楽譜集が毎年出されており、

A,B,C,と三つのセクションに分かれたなかから、セクションごとに一曲づつ選び、トータルで三曲を演奏する事になります。

だいたいAはバロックから古典派、Bはロマン派、Cは近現代、(印象派もふくむ。)となっています。

曲の演奏以外にスケールやアルペジオを弾いたり、簡単な口頭試験や、初見やソルフェージュのテストもあります。


この秋、(といってもつい一月前、11月ですが)私の生徒の一人が8級を受けて、今日のレッスンの日に結果の講評シートを持って来ました。彼女はこっちの大学の女の子です。(音楽専攻ではありません。)

見事不合格。予想はしてたのですけどね。どうしてかというと、試験の直後のレッスンで

”どうだった?”
と感想をきくと聞くと、

”だめだと思う。”

”どーしてー?”
”だって、すごく緊張して、なんども止まったから。”

こういう音楽の試験て、多少間違うならまだしも、音楽を中断させる事、途中で止まる事に関してはすごい減点を伴うんですね。

過去にも、レッスンでは合格点レベルの調子で弾けてた子が、本番であがりまくって何度も(ふつうならすらすら弾けるようなとこで)止まり、不合格になった事もあります。

100点が合格最低点なのですが、彼女のスコアは95点。まさにぎりぎり不合格。

結果の講評シートをみると読み取りにくい筆記体でいろなことが書かれていましたが、
総合的に判断して、やはり上がりまくって何度も止まり、

それが原因でペダリングが不明瞭になったり、曲想をつける余裕すらなかったことが原因のようでした。

来年の4月にも受験のチャンスがあるんで、曲は代えずに暗譜を完璧にさせて再度チャレンジする体制にもっていこうと思います。彼女のご両親もそう望んでらっしゃるよう。

わたしもいろいろ反省しなくちゃと思いました。(他の先生の生徒だけど)おんなじ時期に受けたおんなじ級の生徒でも、もっと高い得点で受かったケースもあるし、

つめが甘かったかな、とか、課題曲のこと以外、たとえばスケールの演奏のスコアも低かったから、

自分で、”練習しときなさいよ”と言うだけでなく、レッスン内で各スケールを綿密にチェックすべきだったかなとか、

(講評によると、スケールのレガートとスタカートが”一貫してなかった”そう。)
思いました。

8級だと、口答のテストで和音の終止形を述べたり、移調を説明したり、試験官が弾いた短いピアノ曲について何の時代の楽曲かを答えたり、(ロマン派、古典派、現代、など)

簡単に作曲技法に関して説明しなければなりません。
(例えば”対位法を駆使している、”とか)そのへんの練習問題も、もっとすべきだったかな、とか反省しきり。

趣味で習う人のための試験とはいえ、8級ともなると試験官のチェックも厳しくなります。

課題曲として彼女が選んだのは

A:クララ・シューマン 前奏曲とフーガ Op. 16 No. 2 

(クララ・シューマンは時代でいうとロマン派ですけど、フーガというスタイルの為か、通常ならバロックのセクションにあたるところに配置されています。)


生徒の講評シートでは、

”前奏曲のベースラインは流れがあったけど、音楽のShapeに欠ける”とのこと。

”フーガは、それらしいスタイルはあったが、(再び)音楽のShapeに欠ける。一貫性はあったけど、主題がはっきりと弾けておらず、情感がなかった。”

のようなことが書かれていました。

(フーガやシンフォニアは、何はともあれ主題やモチーフを他の声部より強調して弾くようにってなんども言ったじゃん!とはいえ後の末裔。)

生徒が”音楽のshape"(musical shape)って何?と聞いてきました。

わたしもよくわからなくて、

”あいまいな表現ねー、多分、曲全体に置ける流れとか、解釈とか、曲想の表現のことと思うけど、あなた、この曲を自分でこのように表現したい,とかこういう感情で、とか思って弾いた事ある?”

と聞くと、”他の曲に関してはあるけど、この曲はそれが出来なかった。”みたいな事を言ってました。

それまでインベンションとシンフォニアしか経験がない彼女にとって、いきなり四声のフーガはかなりのチャレンジだったのかも、と思いました。

B W.A.モーツァルト ピアノソナタ ニ長調 K.284 第一楽章(これも通常はロマン派がくるセクションですが、たまにこのような例外もあります。)


講評によると、
”みるべき細部の表現もあったし、テンポも適切だったが、モーツァルトらしき軽快さやエレガンスに欠けていた”とのこと。

C ドビュッシー Valse romantique


講評では

”みるべき細部の表現や、スタイルの把握はあったが、この楽曲には繊細な強弱の表現があってしかるべき。。。”

生徒に聞きました。”繊細な強弱が、、、と書いてあるけど、すごいおおげさな強弱で弾いちゃった訳?”

彼女曰く、”(それどころか)あがっていて、強弱が全然つけられなかった。”

。。。。こうして書いて明確になった事、わたしの指導も問題ありですな。多少あがっても、ある程度のレベル以上に弾けるよう、通常のレッスンで厳しくすべきでした。

自己嫌悪なレッスン日和。

上記の事以外に、彼女曰く、ロマン派の曲などと比べて,曲想など、フーガ全般は
 ”どう表現していいかわからない”

みたいなことを言ったので、わたしが手持ちのリヒテル様の平均率のCDを貸し出し、そのうえ、Youtubeでお手本となりそうなフーガ類の演奏ビデオのリンクをメールすることを約束。

彼女によると、自分でも、音楽を理解しようと、それなりにバロックのCDを聞いたり、動画をみたりしたけど、どれもすごい速さで弾きまくってたり、ただただメカニックに聴こえる演奏だったりで、”音楽的”な表現に出会えなかったと言う。

わたしは、フーガは、少なくとも主題を弾く時は、自分でそれを歌ってるような気分で弾きなさい、と言った。(この点、リヒテル様のCDは役に立つとおもう。変なこぶしましなどの癖はないし、歌心がありますからな。)


リヒテル様による、平均率第一巻、前奏曲とフーガ、ハ長調

”J.S.バッハは自分で強弱記号やスラーを書いてないけど、(当時はみんなそう)それは強弱無しで、スラー無しで弾け!という意味じゃない。

結果さえ音楽的で良ければ自由に表現して良いのよ。でも、それには一貫性がなくてはだめよ。最初から最後まで,おなじ主題は同じスラー、スタカートで統一しないと。”

などと、これまで何度も言ったはずの事も言った。

なにはともあれ、音楽は楽譜上の指示やせんせいの言う事にしたがうだけでは不十分。自分で積極的に曲を理解して、表現しようとしなければ。

ではLet's try again.