ヒロシは本当に車の運転が好きだった。県内どこでも走っていた。


ヒロシの最初の車はダットサントラック


仕事に自転車で出かけたのに帰り自転車を荷台に積んで帰ってきたのを

今でも鮮明に覚えてます。


たまに子どもたちを荷台に乗せてくれました。

お転婆な私は運転席のすぐ後ろに立って風切るのが好きでした。

いまなら違法で絶対やっちゃいけないですけどね。

その時代は殆んど車も走っていずのんびりしてました。

昭和40年前半の話ですから・・・


その後ヒロシはトヨタカローラを購入


カローラを見たときはなんてかっこいい車なんだろうと子供心に思った。

いつか自分もこんな車運転できるようになりたいと夢膨らませました。


ヒロシの運転ですがかなりのスピード狂・運転が荒い。

なによりも家族に心配をかけたのは飲酒運転。

うちで晩酌をし、トイレでもいったのかと思うといつの間にか

車で出かけているのです。


いまほど飲酒運転取り締まり厳しくなかったけどタツコは

いつも心配してました。


タツコは酒を飲まないので送り迎えするからとなんど

言っても、思い立ったら吉日のヒロシは言うこと聞かなかった。


ヒロシの車に乗ると子供心に緊張した。

ギヤチェンジのマニアル車でファーストからグイ~ンとアクセルを踏み

サードへ入れたりトップに入れたりするのです。

スピードが落ちてもトップのまんまエンストする寸前にギヤを変えたりする。


始めのころは他の車に乗ったことがなかったからこれが普通と思っていた。


しかしタツコが自動車学校へ行って免許を取りタツコの運転する車に

乗って初めてヒロシの運転は乱暴だということに気づいた。


なるべくヒロシの車には乗らないようにしようと子どもごろこに誓った

ワタシでした。


ど田舎村に帰ってヒロシは聞いてきた。

この間行った熱海の夫婦のことを。


ワタシは絶対に嫌だと言い放った。

ヒロシは前からワタシを養女にするという話を進めていたらしい。

なんだかんだと説得してきた。


ヒロシの言い分

向こうのうちはうちより金持ち

向こうの家の子になれば好きな学校に通わせてくれる

親戚になり自分はいつでも遊びにいける

などなど


ワタシは自分で考えられる言い訳を全部並べてヒロシに対抗した。

ワタシの人生は自分で決める。

ヒロシが今までしてきたように。


そしてついにヒロシはワタシを養女に出すことを諦めた。


ヒロシはどんな思いで一番可愛がっていたはずのワタシを養女に

だそうと思ったのか。


一番可愛い娘を知らない東京に出すのは自分で言っておきながら

心配だったのではないか。


だから戦友の養女にしてもらい監視をしてもらう?


今となっては聞くこともできません。




ワタシは3姉妹の真ん中。

姉マユミは2人の子どもがなくなってできた子だからヒロシもタツコも

大事に育てた。

頭もも良くて美形だったマユミはワタシと妹サユリにはまぶしい存在だった。

そして祖母はマユミを溺愛していた。

祖母はマユミにお菓子を上げたりお金をあげたりしてた。

ワタシとサユリはうらやましくてしょうがなかった。


サユリは最後に生まれたからタツコがいつも一緒で寝る時も一緒の布団で

寝ていた。


ワタシはといえばそうヒロシと一緒に寝ていたのだ。


ヒロシは酒を飲むと必ず

「お前は東京へ出て暮らすんだ」

「そうすればいつでも東京にいける」が口癖だった。


幼いワタシはなんでワタシだけ東京なの?

ヒロシはワタシがじゃまなのかなぁ

と思ったことがありました。


このことは後で現実のこととなるのです。


ワタシが高校2年生になった頃ヒロシが突然熱海に行く

とワタシを連れ夜行電車に乗ったのです。

新幹線はあったけどヒロシは時間を有意義に使うため東京へ出るのは夜行列車が普通でした。

4人がけのイスに座りヒロシは缶ビールを飲んでいました。

その時何故熱海に行くのか聞いたきがします。


ヒロシはそろそろ就職先を決めなくてはならない。

いい就職先が見つかったからこれから見に行くと

言いました。


ワタシは東京に出てゆくんじゃないの?なんで熱海?と思ったけど

もう夜行列車のなか12時間以上ゆられて熱海についた。


駅にはヒロシの戦友という夫婦が立っていた。


その夫婦はワタシにとてもやさしかった。

人生で初めて豪華なホテルに泊まり豪華な食事に目をうばわれました。

奥さんはワタシと一緒に温泉に入ってきて身体まで流してくれようとする。


「なに?これ・・・・・」さすがのワタシもこの異常な雰囲気はビシビシ感じた。

 

ヒロシは終始ご機嫌で戦友と酒を酌み交わし昔話に花をさかせておりましたが

ワタシといえばそれと反対にどんどん気分がめいってゆくのでした。


どうなるワタシ






前にも書いたようにヒロシはなぜかワタシをとても可愛がった。


男の子が欲しかったヒロシしかし夢はかなわず・・・・

しょうがない男の子のようなワタシを可愛がったのでしょう。


思い出すと一番近い町の映画館によくワタシを連れっていってくれた。

映画を見終わった後どっかの食堂でヒロシはビールを飲んでいた。

ワタシはその横でジュースを飲み座ってた。

どこかに出かけるとヒロシは飲み屋に入るのではなく必ず食堂に

入った。ワタシたち子どもが一緒だからかなぁ。


ある時は田舎市にあるデパートの屋上に連れて行ってくれ遊ばせてくれた。

屋上には小さな乗り物がいっぱい。

そして必ずデパートの食堂でお昼を食べさせてくれた。

メニューはヒロシが決めてくれてヒロシお勧めの料理を食べました。

デザートには必ずソフトクリーム。子供心にソフトクリームは

都会の味がしました。


昭和30年代後半の話です。



米どころのど田舎村では冬になると各家々でドブロクを作っていた。

ドブロクは密造酒ひそやかに作られていた。


近所に麹屋があり、麹を買わされに良くいかされました。

その麹がなんに使うのかは子供にはわかりませんでした。

麹菌は真四角の豆腐のような形をして売っていました。

お米を炊いて麹菌をまぜ一定の温度で寝かすと麹が出来上がります。

この工程はうろ覚えです。

大きなカメに麹・水を入れ光が入らない暖かいところで寝かすとドブロクが

出来上がるようでした。


ワタシたち子供は絶対にこのことを外に漏らしてはいけませんでした。

もしこのことが外に漏れると子供はさらわれると教え込まれました。

今考えれば密造酒禁止で大人が捕まるはずなのに子供にうそまで吹き込んで

まったくなぁって感じです。


子供はそのカメが家にあること自体恐ろしいことで決してその場所に近づかず

でもそのカメは何なのかとても興味をそそられました。


ある日タツコが専売公社が子供をさらいにくるくる。

子供は家の中に隠れて誰が来ても鍵を開けないように

と言い残して出て行ってしまった。


そのときの恐ろしいことといったら真っ暗な部屋にこもり息を殺していたことを

今でも覚えてます。

密造酒作りが後を絶たず抜き打ちで専売公社が調べに来ていたんでしょうね。


出来上がったドブロクは親戚が集まったりしたとき堂々と飲まれてました。



ヒロシは本当に思いたったら吉日の人で妻のタツコは保守的で心配性な母だった。


そんなタツコがヒロシと夫婦になりずっと一緒に暮らしていたのだから

タツコの苦労は並大抵ではなかったと今になって思う。


ヒロシと夫婦になったタツコは尋常小学校しか出てないのに

バイクの免許・車の免許・調理師の免許・危険物取り扱い免許などなど

取ってよくやったと思います。


昔の女性は忍耐強かったんですね。


普段酒を飲まなければ寡黙なヒロシだが酒を飲めば別人(酒での失敗はかなりあったような。)

仕事は次から次に変える。


普通こんなに旦那さんが仕事変えたりしたら現代なら実家に帰らせていただきます。

で離婚になっちゃいますよね。


まぁ祖父のようによそに女を作ったなんてことは

聞こえてこなかったから夫婦なかはよかったと思う。

こんな破天荒なヒロシと暮らしをタツコは本にでもしたらどんなに面白ことでしょう。


10年前ヒロシを癌で亡くし現在タツコは80歳に近くなって残りの人生をど田舎村で病と戦いながら

姉マユミ家族と暮らしている。


生きているうちタツコの口からヒロシとの生活でどのように感じていたか

ヒロシと夫婦で幸せだったか聞いてみたい。


ヒロシを知っているただ一人の生き証人だから。



ヒロシとタツコワタシの人生の中で1度だけ離婚の危機があったような。

ワタシは子供だったからどういう状況かということは判らなかった。


でもタツコはある時期確実に実家へ帰っていた。


何日実家に帰っていたかは定かではないがワタシと妹サユリは

タツコのいるタツコの実家に遊びに行った記憶がある。

そのときタツコは布団に入って寝ていた。

その様子は病気で床についているというイメージでした。


タツコの実家は歩いても2分くらい。かなりご近所です。

事情は分からないにしても何かかなり深刻な問題と

子供心に思っていたんでしょうね。


何がどうなってタツコが家に帰ってくるのか判らないけど

雪の降る日、誰と迎えに行ったかは定かでないが、タツコと一緒に

手をつないで家へ帰ってきたことを覚えています。

多分ヒロシが一緒だと思いますが・・・


どんな仲が良い夫婦でもこういうことは一生に1度くらいあるんですね。


何があったのかタツコにいつか聞いてみたいと思っています。

話してくれるかなぁ・・・



旅館は高台にあり、見下ろす景色は下に昔の川が沼になっていて

あとは1面田んぼが一面に広がるのどかなところでした。


その沼のほとりに小さな屋根つきの小屋みたいなものが建ちました。

子どもは絶対にそこには近づいてはいけないといわれていました。

ある日温泉に入りにタツコに連れられていったときのこと

沼のほとりからパン!パンと乾いた音がするのです。


なんだろうと沼のほうを覗くと小屋からなにやら白いものが沼に向かって飛び出す。

その直後パン!パン!と音がする。


気になって気になってタツコに聞いたら鉄砲を撃ってるという。

鉄砲??その言葉になんかとてつもない恐怖に駆られて

あそこの場所には絶対行っちゃいけないんだと子供心に思いました。


しかし怖いもの見たさ、その白いものは何なのか知りたい

後になってマシンから飛び出す物は皿だとわかりました。


小屋に近づけないのでどんな人が銃を撃ってるか分かりませんでした。


旅館の駐車場にたまに大きな犬がつながれていいて今思えば猟犬だったんですね。


ヒロシは銃を持っていたのでしょうか。

いくら記憶を手繰り寄せても思い出せません。


ある日年上の従兄弟がビニール袋にいれた赤や黄色の小さな筒を見せてくれました。

そしてその筒はなんに使われるか説明してくれました。


それは散弾銃の玉と言って銃に入れて撃つと中に入っている小さな玉が散らばって

鳥や獣を打ち落とすらしい。

ワタシはいくら考えてもどのようにして鳥や動物が打ち落とされるか想像できませんでした。

ただ赤や黄色の筒が欲しくてヒロシに隠れて誰もいないとき

小屋に行ってみたことがあります。

小屋には鍵がかかってて外には人の足跡がいっぱい。

そしていくつかの筒を拾い宝物のようにしていました。

その小屋に行ったということはずっと秘密にしていました。


後になってテレビや本であれはクレー射撃練習場だったんだ分かりました。


昭和40年代始めの頃射撃する人が近くいたんですね。

ヒロシは射撃場を経営していたのであろうかそれとも管理していたのであろうか。


もう聞ける人はいません。




最初温泉旅館は規模もそんなに大きくなく

ヒロシ一人でまわっていたようなきがする。


だんだん忙しくなり、人手が足りなくなったのかいろんな人が

温泉旅館を手伝うようになった。


いつも朝から晩まで手伝いにきていたおばさんはヒロシの腹違いの

弟の嫁であった。


その当時ど田舎村で化粧をしている女性にあうなんて皆無。

でもおばさんはいつでも化粧をしていた。

おばさんの側を通るとぷ~んと化粧品の匂いがして子供心に

このおばさんは他の女の人とは違うと思った。


タツコは酒を飲まない。

しかし、おばさんはガンガンに酒を飲む。

ヒロシが議会とかに出ている時はこのおばさんが一人で

旅館を切り盛りしていた。


中学生のワタシと2歳違いの妹サユリは宴会があると良く手伝いに

借り出された。

殆んど料理を運んだり、酒を運んだり、後は厨房で皿洗いをしたりの

仕事であった。

うちで宴会する時は小学生で良くお酌させられたのに旅館となったら

途端にお酌に借り出されることはなくなりました。


ヒロシも分かっていたんでしょうね。年端もいかない子どもがお酌しても

男の人は喜ばないということを。


ワタシは宴会の席を覗くのが好きだった。

なんか大人の世界に足を踏み入れるようでわくわくした。

しかしな宴会を覗くことはなかなか出来なかった。

注文された料理やお酒を持っていくと宴会の出入り口に女の人がいて

ワタシから受け取り中に入ってしまうからです。


女の人は何人かいて同級生のお母さんだったりした。

普段会うときはお化粧もしていず、着てる物も質素で野良着だったりするのに

旅館であう時は、一応にみな化粧をしてこざっぱりとした格好をしていた。


それを見るとなんか知らない同級生のお母さんの一面を見てるようで

中学生のワタシはなんか嫌な気持ちになった。


その時は解らなかったけど、今思えばお母さんではなく女を感じていたんでしょうね。

彼女たちの仕事は酌婦だったんです。


前にも書いたようにヒロシは歌が好きだった。

それも戦後すぐの流行歌。

18番は神戸一郎。花の都~恋の都~♪東京ラブソディ

藤島一郎、田端義男の歌などなどを歌っていました。

子ども心に都会の臭いを感じヒロシは普通の人とは違うんだぁと思ってました。

なんせ小さなど田舎村の生活しか知らない子どもですから。


田舎県は民謡の盛んな地域

宴会があるとどこからともなく民謡をうたう声が聞こえてきました。

この頃まだカラオケはなかったけれど誰かが尺八吹いたり太鼓たたいたり

してにぎやかでしたね。


いつもは仕事ばっかりしているヒロシとタツコ。

普段2人が仲良く話しているなんて状況みたことなかった。

しかし

宴会の席ではヒロシが歌を歌うとそれにあわせて母タツコが踊りを踊るのです。

それも即興で。

ヒロシはタツコの踊りをみて上機嫌。


本当ヒロシが酒飲むといつも明るくて、酒を飲まないタツコも踊って

子どもながらそんな家族が好きだった。


今思うといつ二人はコミュニケーションを取っていたのだろうか。

多分子どもの知らない寝室ででしょうね。