「マルクス主義の正体~人類を破滅させる妄想体系~」のささやかなレビュー | 加納有輝彦

「マルクス主義の正体~人類を破滅させる妄想体系~」のささやかなレビュー

昨年11月中旬、レビューを書きますと宣言して、年越しになってしまった。

HS政経塾スタッフ、HSU非常勤講師の赤塚一範氏翻訳の「マルクス主義の正体~人類を破滅させる妄想体系~」のささやかなレビューを書かせて頂きたい。

 本書は、ハイエクの師、オーストリア学派を代表する経済学者、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスの「マルクス主義を自由主義的な観点から学ぶ上で最適な一冊(入門書)」・・・とは、訳者赤塚氏の解説である。
※入門書としては「自由への決断」もお勧め。
 
 経済学の素人で、この年になるまでミーゼスの著作は一冊も読んだことのない私が、とりあえず通読できたゆえ、赤塚氏の言に嘘はなかったといえましょう。(笑)

 何より有り難かったのは、ミーゼスの講義録本論の前に、訳者赤塚氏自身の解説が、26ページにわたり書かれていた事であった。

ミーゼスを初めて読む私にとって、400字詰め原稿用紙にして100枚を超えるであろう訳者渾身の解説は、マルクスの亡霊が未だ生き延び、それどころかプチ復活を果たしつつある日本の、世界の言論界において、ミーゼス的にはおそらく有象無象というべき言論の誤謬を批判する内容の「白眉」というべき情熱が充溢する堂々たる内容であった。赤塚氏の情熱に脱帽。

 赤塚氏が、解説で紹介した、マルクスのプチ復活を暗示する書籍は、例えば、

・トマ・ピケティー『二十一世紀の資本』(2013)

・斎藤幸平『人新世の資本論』(2020)

・キア・ミルバーン『ジェネレーション・レフト』(2021)

・ヤニス・バルファキス『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』(2021)

・アーロン・ベナナフ『オートメーションと労働の未来』(2022)

・クリステン・R・ゴドシー『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』(2022)

・ジェイソン・ヒッケル『資本主義の次に来る世界』(2023)

 マルクス主義と同時に、近年ケインズ主義(ミーゼスはケインズ主義も批判した)も復活した。『現代貨幣理論(MMT)』が流行しているのも、ケインズ主義の復活を示している。

 赤塚氏が原稿を書いて以降も、三橋貴明氏の最新刊のタイトルは、『日本「新」社会主義宣言』である。
日本のみならず、あのアメリカでさえ若者が左傾化し、マルクスの亡霊が復活している現在。

 かつて故渡部昇一氏が政府の諮問委員をしていた時、会議中のある学者の発言に「その考えには分配思想(社会主義思想)」がある!」と渡部氏が驚きをもって指摘しておられた事を回想するに、隔世の感を禁じ得ない。現在、保守の立場の人でも「分配思想」は当然の前提となった。

このように、マルクス主義と、ケインズ主義が時を同じくして流行している現在だからこそ、ミーゼスの思想は、今一度、復活せねばならないと赤塚氏の信念は固い。

 赤塚氏はこう書いている。
「ミーゼスの思想は、ハイエクやフリードマンの源流に位置するものなので、それらを学べばミーゼスの著作を読まなくても問題ないようにも思える。だが、この考えは間違いだ。というのも、ミーゼスの思想の重要な部分が彼らの思想にきちんと取り込まれていないのだ。従って、ミーゼスの貢献を正確に学ぶためには、ミーゼスの著作に当たらなくてはならない。」

「詳しくは論じないが、経済計算論争の理論的基礎となっているミーゼスの主観主義や資本理論は、必ずしもハイエク等に完全な形で取り込まれているとは言えないのだ。つまり、市場経済についての理解を深めるためには、ハイエク等の理論と共に、ミーゼスの理論も学ぶ必要があるのである。」

 なにゆえに、これほどマルクス思想の亡霊は生き延びるのか。
赤塚氏は言う。
「マルクス主義というのは、唯物主義、古典派経済学、ヘーゲル哲学などを基礎に築かれる壮大な体系であり、その強靭さの理由の一つに、特定の部分の欠陥を指摘したとしても、残りの体系が生き残っているために、しぶとく生き延びる。」と。

 マルクス主義の強さが体系そのものにあり、その体系全体をひっくり返す必要が認識され、ミーゼスは、彼の著「ヒューマン・アクション」で、マルクスに対抗し得る独自の体系を作り上げたのである。

ただ、「ヒューマン・アクション」は、1000ページに及ぶ大著であるゆえ、一般読者には敷居が高すぎる。本書のような入門書が必要なのである。26ページにわたる解説により、訳者赤塚氏のその一点における情熱がひしひしと伝わってくる。

 私は、反グローバリズムがSNSで隆盛を極めている中で、例えば保守層から「竹中平蔵云々と」新自由主義が批判されて久しいが、ミーゼスなども一蓮托生「新自由主義」として葬り去られてしまうリスクを、ネット社会は孕んでいると感じる。

これに関し赤塚氏は私信で、「ミーゼスやハイエクの自由主義はいわゆるグローバリズムではないように思います。どちらかと言うと、マルクスの方が、世界の同質性とか、インターナショナルという組織を作ったりしてグローバリズムに見えます。」との考えを頂いた。

 本書を読んでいる間、あきらかにネットに身をおいている時の時空間と、異質の時空間を体感した。異質ではない、本来、ネット空間がなかった頃に身をおいていた「懐かしい」時空間でもあった。
 
 本の活字、それを集中して追う自分の眼、自分、それ以外に存在しない時空間。孤独な時空間が展開したのである。そこにはネットに身を置く何倍もの持続する集中力が必要とされた。

 孤独な時空間における集中力の持続。日頃、ネット社会に身を置く私の、それらの力が衰えている事をまざまざと実感した。

 こうしたグローバルなネット社会の発展した社会だからこそ、一層、雑多な情報を遮断して読書に集中する大切さを実感させてくれた。そうした副産物をこの書は、与えてくれた。赤塚氏は、この翻訳を完成させるまでに5年の歳月を要したと書いてある。

 今の時代だからこそ、孤独な知的格闘が必要であると思った。若き赤塚氏の忍耐に敬意を表したい。

HS政経塾の若き俊英赤塚氏を応援する意味でも、また、我々の青春の孤独な読書を、もう一度、リバイバル、再体験するためにも、そして何よりミーゼスを知り人類を破滅させる妄想体系マルクス主義と戦うためにも、本書をお読み頂きたい。

Amazonで購入できます。下記リンクを参照されたい。

さて、最後に、ささやかなレビューをミーゼスの言葉を引用して閉じたい。
第9講義(最終講義)の結語である。

「資本主義の強みというのは、資本家でなく、大衆の利益のために存在しています。資本主義とは、何より大衆のための大規模生産です。(中略)それは国民や大衆に報いるための制度なのです。
もし、個々の資本家が悪人であるとしても、資本主義を廃止することで彼らを罰するべきではありません。ですから、邪悪な資本家というイメージを植え付ける、フィクション、文学作品、演劇を書く作家や著述家たちは皆、ピントがずれているのです。
 私が資本主義に賛成し社会主義に反対するのは、資本家たちがとても素晴らしい人間だからではありません。ある人は善人でしょうし、ある人は違うでしょう。
 その点、資本家は他の人たちと違いはありません。
私が資本主義に賛成するのは、それが人類を利するからなのです。
私が社会主義に反対するのは、社会主義者が悪人であるからではなく、それがあらゆる人々の生活水準を引き下げ、自由を破壊してしまうからなのです。

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【補足】
現政権の教育無償化等バラマキ政策に対する大川隆法総裁先生のコメントを紹介させて頂きます。
◇「まだまだ元気で働ける人たち、働く意欲が旺盛な人たち、資本主義の精神を体現して頑張っているような人たちを、わざわざ怠惰にする方向へ引っ張っていくならば、それは、『国の没落を意味する』と言わざるをえないのです。ゆえに、社会保障や医療、教育などがタダになる方向へ行くのは、問題であると思います。(『未来への国家戦略』/第2勝0098富国創造に向けて)

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