ヤマモトくん、 | 端

あっ!


アルバイトの生意気な少年は、金持ちの家庭に生まれた。何不自由なく育ち、与えられる最大限を与えられ今日までをふらりふらりと生きてきた。
一人っ子の彼は、驚くほどに白い肌と冷めた目をしていた。諦めながら言った。

「どれだけ貧乏でも、たくさん家族を持ち、兄弟と喧嘩をし、騒がしく生きることの方がよっぽど魅力的だと思いました」

ふらり、ふらりと生きているように思えた少年の背後に少しだけ寂しさが見えたような夜だった。



結局のところ人間はないものをねだる性質を持っている。「足るを知る」という言葉があるが、それをどうしても出来ずじまいに人生を終える。
足りている、十分に足りていたとしても隣の芝は青く見えるものなのだ。
例えば誰かは孤独に憧れ、少年は大勢の騒がしさに憧れた。
有るものを「有る」というだけで満足できる人間こそがほんの少しだけ顎を上げて生きていける世界でどうやら君は「無い」ものを追い続けることだけがアイデンティティのようだ。

無いものは、無いよ。
これからも、無いよ。
有るものは、無くせないよ。
これからも、持ったままだ。


そんなことに気がつくまでにたとえ何十年を費やしたっていいよ。だってどうせ人間に「こうあるべき」などという決まりはないんだもの。



今日もあの少年の冷めた目が忘れられない。
「大勢の家族が羨ましかった」、
ヤマモトくん、君がこれから作っていけばいいよ。

大勢の家族も、騒がしい日常も。

君が作っていけばいいんだ。羨ましいならば。

ヤマモトくん。
与えられるということは、それが決して最大の幸福ではないということを君は知っているのだから。
与えられなかったものたちに与えたって、それも経験になるのだから。


君が、君自身が、
ぜんぶ作ればいいんだ。

例えそれが茶番だと笑われたって。
君が、作っていけばいい。

君が憧れた、「賑やかな家族」を。
これから、何度だって挑戦すればいい。


だって君は冷めた目をしながら、どこか憧れに手を伸ばそうと足掻いているように見えたのだから。


君が、世界を変えるんだ。
変わるのを決して待つんじゃない。