植田光宣・寛美さんの‘天の羽衣’ | ROKA BLOG

植田光宣・寛美さんの‘天の羽衣’

作品展は終了したのですが、期間中に書ききれなかった内容を数回に分けて補充していきたいと思います。


まずは植田さんの‘天の羽衣’です。


度々言っていますが、日本には「見立て」という文化があります。

「見立てとはある物の様子から、それとは別のものの様子を見て取ること(Wikipedia)」です。

落語では扇子を使って「煙管」や「箸」に見せたり、植物関係では盆栽、枯山水などはその典型ですね。


「ゴジラ」がアメリカで映画化されると恐竜みたいな姿になるのも見立てに関係することです。

つまり見立て文化の日本では「大怪獣が大都市を破壊している」に見えるのが、その文化の無いアメリカでは「着ぐるみがミニチュアを壊している」にしか見えない。だからリアリティーを追及した結果、ああなってしまった(オタク文化論 岡田斗司夫氏)。

そう言えば、日本では小さい頃から○○レンジャーなどで見立ての練習をしていますね。


さて、当然その手法は植物の品種名にも多く使われています。

作品展では藤田伸也さんの‘こみかん’が代表的なもので、品種名(見立て)でその花の先にあるイメージ(桜島、薩摩)が広がります。つまり場所や時空を超えて作者とイメージの共有ができること、そのイメージに作者と共に漂えること、これが見立ての真髄であり、醍醐味なのです。


さて、そうような視点から見ると、この‘天の羽衣’もその見立てです。

ROKA BLOG-天の羽衣
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‘天の羽衣’

画像では紹介しきれいほどの色幅があります。

特に明るいアプリコットの個体は人目を引いてまずそれから売れていきました。

かなりの色幅があるのに共通しているのはフリルであり、原色ではない柔らかな色合いであるということ。

ROKA BLOG-天の羽衣

作者は気付かれているのでしょか。なんと八重咲きの個体も混じっています。


では、どこが「天の羽衣」の見立てなんでしょうか?

「天の羽衣」は言葉や絵はありますが、実体のないイメージの世界のものです。


さて、イメージしてみましょう。

まずはその言葉を頭に入れます。そしてゆっくりと花を見つめます。ほら、そうすると見えてきますね。


天女の纏っている衣装。裳、唐衣、巾。天女は舞いながら天に昇っていきます。その衣装の揺らぎ。放つオーラ(光)の色!その衣装、オーラは何色に見えますか?


「もう少し選抜を掛けたい。(妻と)喧嘩しながらやってます」と、この品種についておっしゃいました。つまり、ご主人と奥さんでは見える色(衣装、オーラ)が違うということですね。


でも私はこの「衣装の揺らぎ」と「放つオーラの色」という基本のイメージがあれば、もっと多くの色を含んでもいいんじゃないかと思います。本当にいろんな色が見えるのですから。


後、欲を言えばもう少しステムが長い方がいい。

今は花が株の中に埋まって、松林の中で舞っている感じ。出来れば舞うのは松林を突き抜けたところがいいですね。そうすれば衣装もオーラももっと輝きます!


さて、この天の羽衣から覆輪タイプを選抜したのが‘ミルキーウェイ’だそうです。

ROKA BLOG-ミルキーウェイ
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‘ミルキーウェイ’

こちらはライトパープル~ローズと色幅が狭くなりますが、覆輪タイプのフリル咲きです。


「天の羽衣」と「ミルキーウェイ(天の川)」の関係性を聞いて私はドキッとすることがありました。


天の羽衣伝説にはいろいろと派生した物語があります。


その中の一つは「一人地上に残った夫は妻(天女)のことが忘れられず、麻(他の植物の話もあります)を伝って天に登る。ところが妻の父親はそれを快く思わず瓜の実を夫に切らせると瓜から川が流れだし二人を川の対岸に分かつ」。

つまりは七夕の話に繋がっていく。で、この流れ出した川が天の川(ミルキーウェイ)なんです!


イメージの連鎖。

天の羽衣に始まった話が天の川に繋がっていく。衣装の揺らぎが川の波、渦に繋がってっていく・・・。

すごいイメージの連鎖だと思いませんか?でも、話はここで終わらないのです。


天の羽衣よりも輪が小さくてフリルがゆるいのが‘キャンディーウェーブ’です。

ROKA BLOG-キャンディーウェーブ
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‘キャンディーウェーブ’

こちらも天の羽衣ほどではありませんが、色幅があります。そして香りのする個体も多くあります。


キャンディーは飴菓子のこと。ほら、マンガでよくあるぐるぐる巻いたペロペロキャンディーのことですよ。


つまりは植田さんのフリルの品種群は、「揺らぎながら天に昇り、川の渦になって、最後は子供の片手のペロペロキャンディー(香りも付いた!)に集約する」というイメージの展開を見せるのです。

天の羽衣が最後は片手のペロペロキャンディーですよ!誰がここに結びつけます?


宮崎駿監督並みのイメージ力。それくらい言っていいんじゃないでしょうか。いやー、感服しました。


今でさえこうなのですから、そこに年数が重なればそのイメージはより深く、そして更に広がるでしょう。


「(妻と)喧嘩しながらやってます」


まさしくこれはお二人だからこそできる育種だと思います。