初めてパニック発作が出たのは、JR山手線の車内。


2年ぶりに日本に帰国し、仲の良かった元同僚と会い、お酒をのみながら楽しい時間を過ごし、つい24時近くになってしまって、急いで電車に乗った。


電車はそれなりに混んでいたけど、山手線はいつもこれくらい混んでるし、特に普段と違うことはなかったと思う。


でも池袋にさしかかったあたりから、心臓がドキドキしてきて、夏でもないのに頭からは汗がたらりと流れる…。


身体が緊張で硬直している。


何だろう?と思ってる間にも、動悸は激しくなって来て、突然「ここにいたくない!今すぐ電車から外に出たい!」と言う思いで、頭がいっぱいになってしまった。

吐き気もする。


死んでしまうかも!とは思わなかった。


ただ、「ここから出たい!」という理由の分からない強烈な感情と、「このまま電車にいたら、頭がおかしくなって叫び出してしまいそう」という、恐怖感で絶望的な気持ちになったのを覚えてる。


心のなかでは人生最大の大混乱を起こしていたけど、実際は大騒ぎしたわけでも、倒れたわけでもなく、周りの人は誰も気がつかなかったと思う。


汗をたらたら流しながら、何とか代々木駅まで我慢し、そこで我慢が限界に達し、電車から降りた。


トイレに言って、大混乱している頭のなかを整理しようと思ったけど全然出来なくて、感情がコントロール出来なくて、怖くて、どうして良いのか分からなくて、涙がとめどなく出てきた。


24時と遅い時間だったので、躊躇したけど、迷ったすえに家と妹に電話した。


父が電話に出て、「体調が急に悪くなって、今代々木駅にいて帰れない…」と声を振り絞って、迎えに来てくれないか頼んでみた。


父に迎えに来て欲しいと連絡したのは、これが人生で初めてだった。


車なら、代々木駅は30分もかからない距離。


でも父は、「今日はお酒を飲んでるから、運転できない。タクシーに乗って帰って来なさい。お金が足りないなら、かえってきた時に払ってあげるから」と言った。


また絶望的な気持ちになった。

分かったとだけ言って、電話を切った。


もう頼れる人は誰もいない。


ホームにふらふらしながら戻り、乗ろうと思っては、怖くて足がすくんで乗れずを繰り返し、でも終電までには乗らなくちゃ!と何とか勇気を振り絞って電車に乗り込んだ。


緊張と恐怖のあまり、倒れそうになりながらも、手すりにつかまり、渋谷まで乗ることが出来た。


降りる頃には手にじっとりと汗をかいていた。


手に汗握るという言葉があるけど、パニック障害になるまでは、手に汗をかく程緊張することなんてなかったと思う。


それから別の電車に乗り換えて5駅。


車内にいる間、人生で一番時間が感じた。

永遠に続くのではないかと思った。


それなのに、電車から降りた時点で、嘘のように恐怖心はなくなって、あれは一体何だったんだろうと?と駅から家に着くまでの間、自転車にのって考えていた。


今日はお酒を飲みすぎたのかな(普段はお酒は飲まない)、疲れていたのかな…と思い、すぐに寝たけど、まさかこれが始まりに過ぎず、それから10年以上もパニック障害に苦しむことになるとは、その時は知らなかった。