(これは数年以上前に書かれたエッセイの再掲載です)
その日は朝5時になっても寝られない日だった。
連日の猛暑な熱帯夜続きでへとへとなこともあってか、なんだかミョーな感じで寝てなくても眠くない夜のような朝であった。
で、ふいに「スイカや!」と気持ちがググンと伸びてきて、冷蔵庫から小玉のすいかを半分にパックリ切り、なんだか獣みたいにすいかをバクバク食べた。
ひとしきり食べたらおちついて眠れるかな、といかノンキに思っていたのに、今度はそのまま「空腹感」に苛まれはじめて、そう感じはじめると、もうこれがなんだかムショーに空腹に思えてきて、
「なんでもいいからたらふく!」と、焦りに似た気持ちでパンパンになる。
で、早朝5時過ぎである。空いてる店やコンビニは限られている。
コンビニ弁当などではなく、お店で食べたかった。ファミレスはなんだかもさっりしてるから嫌だなぁ、吉野屋くらいかぁ?と考えていると、お、牛丼かぁ・・・とにわかに牛丼腹になってきたところへ、そういや暑い国では食欲出すのにカレーとか食うんだよなぁ、などとひとりごちて、どっちくうかなぁ・・・朝5時にカレーの食える店もないことはないけどなぁ、とつらつら考えていると、ああ、そういや、そのどっちもある店があるなぁ、と思いだし、それも「ひと皿に両方」載ってる店があるよなぁ、と寝不足の頭が判断し、「松屋」に行くことにした。
松屋、というのは「牛めし」という名で牛丼を290円ではじめたファーストフードチェーンなわけです。吉野屋がまだ並み400円の頃に、すでに安い価格を提示してたチェーンです。(注:執筆当時の価格)
朝5時なのに、他にも客はいました。チケットを520円で買い、
「カレギュゥ~ください」と、朝っぱらから挑戦モードに入る。
さて、このカレギューとは、ま、名はタイを表す通り、「カレーと牛丼、いっしょくた!」というなかなかシンプルかつデンジャラスなメニュー。普通のカレー皿に福神漬もついて、そのライス部分に牛丼が汁ごとのぺっとかけられた、さしてたいして、その混合に気を使われてない感じのする、「まぜてみましたぁ!!」的ひらめきメニューです。
かつて、友だちが東京から来てくれた時にも、みすみす朝食にこれを選んで食べたら、その日は体調がミョーだった、というメンタリティーにも響くメニュー。
さて、当然カレーは辛い。んー、朝にはカレーは目覚めるねえ~、とか思っていると、お、そうそう、もともと牛丼くいたかったんジャン!とライスにのってる牛肉を食すと、口の中でカレーと牛肉アンド汁が入り交じり、にわかに瞳孔が開くね。ん~、朝。
ただでさえ、この「自爆ブレンド」には「白味噌」がつく。カレー食って牛肉食って、白味噌で流すのだ。
これが正式のメニューにできる店がかつてあったろうか?ましてやひとつの皿に盛り付けることがあったろうか。
その決して「絶妙なブレンド」になり得ない組み合わせが「店のメニュー」にできてしまえるところが、私が松屋を評価するところである。特に私は「カレギュー」をみすみす「かれ・ぎゅぅぅぅ~」ともったりもっさりとインパクトある音色で言うことにしてる。
かなり暑苦しい。朝、寝癖もなおさないヤローがチケットを買って
「かれ・ぎゅぅぅぅ~」と言うのである。いややなぁ。
だーれがこんなメニュー許したんだろう、といつもカレギューを食べてる時は胸が高鳴る。
企業なんだからシャチョーってよばれる人とかいるんだろうな、で、経営会議とかすんだろうな。
んでもって「今度の新メニューについて提案はあるかね?」とかやるんだろうな。
エラソーな重役とか各支店チョーとかがひしめきあって会議してるんだろうな。
松屋の未来を決める大事な会議さ。
そんな中不思議な感性を持った人が
「カレギューなんてどうでしょう!」とか高らかに宣言するんだ!
一瞬会議室は戦慄に満たされるんだよ、そこでエラソーな人らが「君はいったいなにをいってるんだね!」とか叫びかけるところをテレビ演出よろしく、さえぎるようにシャチョーみたいな人が
「いいね!これが若いっていう感性だよ!」とか英断
しちゃったんだろうな。
落胆するエラい人らをしり目に、このカレギューはきっとチェーン店全般に広まってしまったんだろうな。
そんな逸品に、わたしは今、朝の5時に眠りもしないで口に運んでしまっているのだなぁ、とポエミィにうっとりしながら、あまり口の中の味わいに気付かないフリをしながら食べてる。
「牛めし」とか「マーボ茄子飯」「和風ハンバーグ定食」とか、ひとつひとつ頼めば、ジューブンおいしいはずのメニューをすっかりこころの外において、みすみす、カレギューなんだよなぁ、とかボンヤリしてしまうのは、カレギューのせいかしら?ときどき冷たい水を流し込むと「ホッ」とするのが暗示的だ。
つーか、食べながらこんだけ妄想が膨らむって時点で、なんて楽しいメニューなんだ、とか思う。
こんなに愉快なメニューはどうして今までなかったんだろう、とか思う。
味?味じゃない!心よ、この遊び心!
心を楽しみ、時として「ばつゲーム」としてのアイテム性もあるこの「細かいことはシラン!」と言い切るようなスガスガしさを、私はこのメニューに見つけてしまうのです。なんて楽しいんだ!なんてアホらしいのだ!ビバ!カレギュゥゥ~!
さんざん食べて部屋に戻るとバタンキューで眠れました。
ん?眠れたのか・・・はたまた・・・・ん?
P.S カレギューは松屋のきちんとしたメニューです。このエッセイ内で愉快めに語ってる部分は🐼の任意で恣意的な感想でありますので、松屋会議風景などもフィクションなので、松屋さんになんの他意も悪意もありませんことをここに追記します。
P.S 記事中のメニュー・価格などは執筆当時のものです。あしからず。