いってらっしゃいとリイクニは言った | アメブロなpandaheavenブログ

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最近漫画の先生始めました。
好評です☆

写真を撮ったり映画を見たり。でもやっぱり普通が一番!
みんなも無理しないでね!

(これは数年以上前に書かれたエッセイの再掲載です)

 

「オネアミスの翼」がスカパーでやってる。

シロツグがロケット乗りをして突進してるシーンだ。森本レオの声は芝居なんだか、その他の何かなんだか、やっぱり見ててわからない。わからないけど好きだ。森本レオの声はいい。
同僚が言う「宇宙ライダー、カッコイー!」

オネアミスがまだ「リイクニの翼」であって、そのサブキャプションに小さく「王立宇宙軍」とついてた頃、私は高校生で、ガンダム、マクロスとアニメばかり見て育ってた町民だった。高校1年でゼネプロの「DAICON」見て以来、私はまだ8ミリフィルムで作りたい作品が撮れないでいた。

 

 

そんなおり、ゼネプロのお茶会ってので、「八岐大蛇の逆襲」という尊敬する赤井孝美監督の16ミリ映画を見る機会に恵まれた。それまで、ゼネプロは8ミリフィルムの作品ばかりで、「帰ってきたウルトラマン」「DAICON3&4」「早撃ちケンの大冒険」「怪傑のーてんき」などの愉快なのに凝ってる作品群に私はクラクラきてた。

くやしくって、うらやましくって、8ミリの撮影・映写機材を集めたのに、かの人たちは16ミリフィルムの作品を作ったというのである。せっかく8ミリで近付けた気のしてた私はひどく当惑した。
16ミリじゃ、幸田って町じゃ撮れない。

さて、いざ八岐大蛇~を見たものの、作品そのものは「アマチュアにしてはすごい!」というラインのものではあるけど、それまでゼネプロに抱いてきた衝撃はなかった。衝撃はなかったけれど、悔しかった。16ミリは撮れない!ちくしょう!

これに加えて、ゼネプロはおもちゃ販売不振で潰れそうになってたバンダイに資金を出させて映画を撮る運びになってるのだ、とお茶会で聞いた。

で、そのパイロットフィルムを上映したのだ。

映画・・・・・つまり、35ミリフィルムである。劇場公開である。アマチュアではなく、プロに属していこうとしてる人たちが目の前にいて、作品を見せはじめたのだ。

それはワーグナー「ニュルンベルグのマイスタージンガー」前奏曲をバックに、雄大な宇宙へのパイオニアものの映画として、恋・活劇・若者のガッツを想像させるゆったりと豊かな5分のパイロットフィルムだった。

(注釈:パイロットフィルム、とは、本編映画ってものを作る前に、映画そのもののおおまかな雰囲気を出資者やスタッフと分かりあわせるために、印象的なシーンばかりをちりばめたショートフィルム)

DAICON4を見て以来、またガーンときて、ガックリきた。
すげえ!すげえ!すげえ!という気持ちの向こうにちくしょう!ちくしょう!また間が空いた!

私は高校生で、この「お茶会」のために小遣いためて、名古屋までくるにも幾多あまたの段取りがいる、普段は町民の高校生で、8ミリフィルム撮ってるだけでなんだかちょっとがんばってるような錯覚を覚えてる愛知のちっぽけな男なんだと見せつけられてるような気がしたのだ。

そんな風に思わなくてもいいのに、私はそう思ったのだ。
ダメだ、8ミリならまだしも、16ミリで「チキショー!」て思ってたのに、35ミリ?劇場公開?なんでだよ!なんでだよ!チキショー!

パイロットフィルムに写っていた風景は、たしかにのちの「オネアミスの翼」にちりばめてある。だ・が、

パイロットフィルムに描かれている世界は、本来の「オネアミス~」とは意図的に違う冒険活劇を暗示していた。私がそのパイロットフィルムで感じてたうらやましさは、明らかに「オネアミス~」には写っていなかったのだ。

そのとき、「あ・・・なんか・・・大丈夫だ、まだ」とわたしは思ったのだ。
私にできることがある、となんだか、なぜだか、思ったのだ。

私はできる、と・なぜか、思ったのだ。

DAICON4の絵コンテまで買い込み、ゼネプロの人たちは大阪芸大の人らしいと知り、DAICON4を毎日見るために、ブラウン管に向けて8ミリカメラで撮影し、フィルムにして、映写機で自分の部屋で天井に上映し、くり返し、くり返し、くり返し見た。当時、私の家にはビデオデッキはなかったのだ。

オネアミスのパイロットフィルムのビデオを買い込み、パイロットフィルムを見るために、やはり8ミリフィルムにした。

変な話なんだけど、やっぱり「オネアミスの翼」よりも、パイロットフィルムの方が作品として素敵に見えた。

この後、私は大阪芸大に行った。映像学科でアニメをやるつもりだった。
ゼネプロの人たちが使っていたカメラはZC1000。このカメラが欲しくって仕方なかった。これさえあれば、これさえあれば、あの人たちと同じくらいのことができる!できるんだ!おれにできるんだ、と思って、もう生産中止されてる機材なのに、買った。

赤井孝美監督が使ってたカメラがボリューの16ミリカメラと後日わかり、その入手にも尽力した。学校の機材でアリフレックス、スクーピック、エクレールNPRなどがあったので、16ミリまで撮影できるようになった。うれしかった。


そう、嬉しかった・けど、


違う。

私は、まだ、なにか、やってない、届いてない。

卒業後、35ミリフィルムってのも撮れた。
でも、違う。フォーマットじゃない。
私の心のしこりは「なにで撮るか?」ではない。

とはいえ、「撮れないまま」では、どーしてもすまなかったのだ。
私は撮れるようになっていたかった。

シロツグという主人公のボンヤリとした性格は「アニメ」にあっては異常な主人公だったけれど、こうして15年たってもこの作品を目の当たりにすると、私はやっぱり冷静でいられない。

暗殺者に狙われたシロツグが清掃車のバンパーの上で、もう殺される!という際に見せる表情を覚えてますか?小刀を手のひらで返し、暗殺者に切りかかる際のあの表情。

マナが笑顔を見せるシーン覚えてますか?

リイクニが列車から降りてシロツグが「いってきます」といいます。
リイクニは「いってらっしゃい」と言います。

シロツグがシャワーのあと、髪を整えます。

将軍の決断「秒読み、戻せ」
歓声「やったぁぁ!」

 

 

全部、シーンで思い出せるでしょ。
みんな、思いだせるでしょう?

 

 

映画ってもんが、くやしいけど、チクショーなんだけど、やっぱりわたしに方向をぶつけてくるのだ。

ゼネプロがガイナックスになったからといって、その作品すべてに「万歳!」とはやはり叫べない。ガイナックスが好き!というわけではなく、私はかつて知ってた
「衝撃」の瞬間にやっぱり「ちくしょう!」って言いたいんだろうな。

映画の中で、リイクニは言う。静かに言う。
「いってらっしゃい」


その言葉は、私の中で、かなり、効く。
どこに、どう?ではなく、でかける相手に「いってらっしゃい」という。
相手は返す


「いってきます」




「オネアミスの翼」は私にいろいろ思い出させる。
あんまり正気でいられなくなる。
それだけのことだ。それだけの、ことが、ね。

 

 

P.S このガイナックスのデビュー作品を懐かしむ反面、今月ガイナックスは倒産しました。

時代の趨勢になったスタジオで、去り際まで見れた幸いだったのかもしれません。

 

彼が迸らせたエッセンスは忘れないし、なかったことにもきっとならない。

 

楽しかったな。すごかったな。