近況についての話になった。

泥は、まだ以前から勤めていた店で働いていた。

しかし、部署が変わり、今現在は、

ウェイターらしき仕事をしているようだった。

なんにせよ、泥の高校時代を思い出すとき、赤点だらけで、

卒業さえも危うかった泥が、長く同じ店で、

立派に勤め上げていることを、嬉しく思う。

黴は、横浜の長津田で仕事をし、旭川に帰り、

東京都の八王子に出没したところまでは把握していた。

そしていま黴は、神奈川県の相模原で、

ガスの営業の仕事をしているらしい。

黴が、どういった経緯でガスを売っているのか。

詳細は聞かなかったが、真面目に仕事をしている黴を、嬉しく思う。

そして、モケダラ。

「モケさん、大学は卒業したの?」

私の質問に、モケダラの表情は、卑屈に曇った。

「大学は辞めました・・・」

モケダラは大学を中退し、現在は、なんらかの勉強をしていた。

どんな勉強をしているのか。

詳しく詮索しなかったが、大学を辞めるほどの

価値があるものだと信じたい。

「でも、なにか目標があるっていうのは、素晴らしいことですよ」

卑屈な表情のモケダラを見て、泥が、なんとなくフォローする。

しかも、敬語で。

「ちゃうねん、あかんねん・・・」

モケダラは、自虐的な態度になっていた。

モケダラ曰く、試験勉強をしているうちは、

崇高な目標があったとしても、決して誇れるものではなく、

試験に合格して、初めてスタートラインに立てるのだという。

そうだ。

モケダラも自覚しているのだろうが、このときのモケダラの卑屈な表情は、

おっさんである私はともかくとして、若くして立派に働いている泥と黴が、

眩しくて仕方なかったのだろう。

モケダラよ。

勉強など、大学に通いながらだってできたはず。

そして、働きながらだってできるのだ。

甘い、甘いぞモケダラ。

そして、頑張れ、モケダラ。


つづく


このころから、私は軽い吐き気に襲われていた。

ここで、酒など飲んでしまっては、マーライオンになりかねない。

大人しく、ジンジャーエールを注文する。

ほかの皆は、酒を注文。

お酒に強いって、素敵なことね。

それから、念願の手羽先のほか、焼鳥も注文した。

「メモリーが全部、飛んじゃったから・・・」

黴が、携帯電話を取り出しながら言った。

どうやら、諸事情があったらしい。

そこにいた皆が、黴に連絡先を教える。

そこで思い出した。

先日、泥から、メルアド変更を知らせるメールがあった。

一括送信したであろうそのメールには、

ほか数名のアドレスが載っていた。

知っているアドレスもあれば、知らないアドレスもあった。

その中に、おそらく牧子のではないかと推測できる

アドレスがあったので、試しに送信してみた。

直後に、牧子の携帯が鳴る。

プライバシーというものは、このように暴かれていくのだろう。

ほかにも、ディック峰と思われるアドレスもあったが、

確証が持てないのでスルーしている。

そして、モケダラ。

モケダラも、牧子の連絡先を知らないようだった。

赤外線機能を駆使し、牧子との連絡先の交換を試みる。

その姿、誠に助平也。



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つづく




「全然違うやん・・・」

落胆しながら、黴がそう呟いた。

「似てると思うんだがな」

私は、そう思った。

まあ、さらさらヘアのキュートな眼鏡っ娘が、

全体的に目愚民に見えてしまうのは、

おっさん化計画が成功しつつある証拠なのだろう。

もはや、目愚民と奥華子の区別さえつかないほどだ。

しかし待て。

北海道で、コオロギと生活している目愚民が、

こんなところにいるはずはない。

冷静に考えれば、いるはずはないのだ。

いとも簡単に騙されてしまう、素直で純情な黴に、そっと萌えてしまう。

居酒屋の奥へ奥へと進み、個室式のスペースへ通された。

個室式といっても、ボックス席をなんとなく、

壁で仕切っているだけのものだったけども。

モケダラが奥へ座り、私は反対側の奥へ。

ここで、続いていた牧子と黴が戸惑う。

さて、どちらの隣に座るか。

「そっちに胃下垂トリオが並んだらええやん」

モケダラが提案する。

しかし、エロい。

それはつまり、牧子を隣に座らせて、あんなことやこんなことをしたい。

そういう欲望が渦巻いての発言だったのだ。

そして座席の配置は、モケダラの希望通りとなった。

「あ、荷物はこっちに置きますよぉ」

モケダラは皆の荷物を受け取りながら、満面の笑みを、

否、だらしない笑みを浮かべていた。


つづく



なんとなく、話の流れというか、ノリで、2次会を行うこととなる。

このまま別れてしまうには、あまりに勿体ない気がした。

名古屋が地元の泥に案内してもらうということで、外に出た。

外はまだ、雨が降っていた。

他愛のないことを話しながら、名古屋駅方面へ向かう。

しかし、泥。

泥は現在大阪に住んでおり、

名古屋には、高校卒業までしかいなかった。

つまり、高校生レベルの遊び場しか、知らないのである。

名古屋に、どのような酒場があるのかなど、知らないようだった。

適当に歩き、適当な雑居ビルにある、

適当な居酒屋で飲むことに決まった。

「手羽先、手羽先」

モケダラは、名古屋名物手羽先が食べられれば、

それでいいようだった。

エスカレータで2階へ。

外にあったメニューを見ると、きちんと手羽先がある。

なぜか、誰もが消極的ながらも、中へ入る。

中に入ると、すぐにレジがある。

そこにいた、若い女性店員。

肩まで伸びた、さらさらストレートヘア。

桃色の縁の、キュートな眼鏡っ娘。

間違いない。

「めぐみんがいるぞ!」

私は、まだ店内に入っていなかった一同に言った。

「えっ!?」

誰よりも驚いていたのは、黴だった。

慌てた感じで、レジの若い女性を確認するため、黴は店内へと走った。


つづく


エレベーターに乗り、1階エントランスへ降りる。

宴の後。

少し、物悲しい感じもする。

モケダラと黴と牧子が、クロークに荷物を預けていたので、

受け取りに向かう。

「俺は手ぶら命だからな」

私は、どこへ出掛けるにも、手ぶらでいたい。

財布と鍵と携帯はポケットに。

荷物は基本的に、それだけだ。

「祝儀袋が内ポケットに入ったから、手ぶらでいいやと思って」

「そう、俺も」

泥が、同調する。

彼も、同じ嗜好らしい。

ここで「手ぶら=エロ」という公式が、鮮やかに成り立つ。

そして、手ブラはそもそもがエロい訳だが、

ここでしているのは手ぶらの話であって、手ブラの話ではない。

そういう訳で、話を進める。

荷物を受け取った後、2階の更衣室へ。

牧子は女子更衣室。

モケダラは男子更衣室へ。

泥、黴、私の3人は、着替える必要はなかったのだが、

なんとなくモケダラを追う。

モケダラは、その見た目の老け具合とのバランスを保つためか、

きちんと礼服を着て参加していた。

帰宅に際して、礼服から着替えるらしい。

更衣室にて、素早く着替えるモケダラ。


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しかし、着替えるといっても、礼服を脱ぎ、白ワイシャツはそのままに、

上からカーディガンのような服を着ただけだった。

しかも、そのカーディガンのような服が肌色だったため、

どう見ても「防寒用ラクダ」です、ありがとうございました。

「ラクダかよ」

「えーっ、ラクダちゃいますやん、えっ、おかしいっすかね、

これ、普通に着てたわぁ」

からかう私に、焦りながら心配するモケダラ。

愉快な仲間たちだ。


つづく


新郎新婦の退場。

場内には、B’zの曲が流れる。

とにかく、この披露宴。

どこを切り取っても、B’zの曲が流れまくっていた気がする。

退場のころ、スクリーンとなっている壁に、

本日のダイジェスト映像が、やはりB’zの曲と共に流された。

控え室での新郎新婦。

会場へ移動する参加者。

式の様子。

披露宴の様子。

泥、黴、私の姿や、モケダラの醜態も、微かに映り込んでいた。

場内が明るくなり、披露宴も終了。

引出物等を受け取った我々は、

名残惜しそうに、集合写真を撮影する。


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会場を出た我々。

ロビーに新郎新婦の姿があり、参加者にジャムを配っていた。

産品から、順番にジャムを受け取る。

そして、私の番。

「うーん、何味がいいかな・・・」

割と真剣に悩む私。

「腹黒いから、黒に近いこれだな」

そう言って、産品が渡してきたのは、

ブルーベリー味のジャムだった。

腹黒いという自覚は充分にあるので、納得して受け取る。

「パンダさん、そのまま」

この産品と私のやり取りを、モケダラが写真に収めた。


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私の後ろが行列になっていたようだったが、

そんなことよりも大切なことがあるのだ。


つづく




披露宴も終盤に差し掛かる。

ここで、新郎新婦との懇談タイムである。

新郎新婦が、各テーブルを訪問。

職場の同僚、親族と、各テーブルを巡回する。

各テーブル10分くらいだろうか。

そしていよいよ、我々のテーブルに、

産品と茄子の香りがやってきた。

「やあ、参加賞は受け取ったかな?」

そう言いながら、産品が用意された椅子に座る。

そして、その隣に茄子の香りも座る。

産品と同様、茄子の香りとの付き合いも長いが、

会ったのはその日が初めてだった。

茄子の香りと私は、電話で2回会話しただけであり、

茄子の香りは最近まで、

私に嫌われているのではないかと思っていたほどの

関係性なのである。

しかし、仲間というものの威力は凄まじく、テーブルを囲めば、

あの日、ハンゲームの雀卓を囲んだ仲間になることができた。

しばし会話を弾ませたところで、司会者からストップが掛かった。

時間が押している関係で、巡回式懇談タイムは中止された。

巡回式懇談タイムのあとは、新郎新婦から、

両親へ向けての、手紙朗読コーナーが待っていた。

産品の手紙の内容は忘れてしまったが、

茄子の香りの手紙の内容は、やや憶えている。

確か、要点を書けば、

「迷惑を掛けたが、ありがとう」

そんな内容の手紙だった。

茄子の香りは、読みながら自らが号泣した。

どこまでも感受性豊かな、エモーショナル茄子である。

最後に、披露宴の締め括りとして、産品の挨拶があった。

「本日は・・・」


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産品の挨拶は、一級品だった。

葬儀屋のスキルが高いことは知っていたが、まさかここまでとは。

それはその日、新幹線の性能の次に、私が感心した事件であった。

それにしても、産品が挨拶をしている最中、

産品の横顔をうっとりと見つめる茄子の香りの表情が

微笑ましかったな。


つづく


牧子が流されたテーブル席は、茄子の香りの友人席。

しかし、友人といっても幅がある。

そのテーブルに、牧子の友人はいなかった。

そんなこんなで、途中から、牧子は産品の友人席、

つまり、我々と同じテーブルに移動してきた。



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そして牧子、テーブルの人間に、お酌して回る。

「あ、すんませんね」

てな感じで、私はお酌を受けるわけだが、モケダラが酷い。

おそらく、若い女性にお酌をされるなんて、不慣れ極まりないのだろう。

頬の筋肉は弛緩し、目元は垂れた。


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そして、その後も牧子にいいように弄ばれ、

それを私に激写されるモケダラ。

しかし、真性のドMなので、拒絶をするとか、怒り出すとか、

そういうこともなく、ただただ人として、

そして披露宴出席者として、失格だった。



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話は変わる。

出席者の席を明らかにするために、

テーブルに予め、名札が置かれていた。

首尾よく座ることができた我々だったが、

そんな名札に興味を持つ人間なんておらず、

その名札に隠されたサプライズに気づいたのは、

披露宴も中盤に差し掛かったころだった。

名札は二つ折りになっており、開いてみると、

新郎新婦からのメッセージがあった。

それがこちら。


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マメだなと思った。

参加者それぞれ違うことが書かれてあった。

披露宴参加者全員だ。

式の準備で忙しい中、こういう感謝の気配りができるのは、

立派なことだと思う。


つづく




コース料理も中盤戦。

「7、伊勢海老のヴァプールときのこのソテー、“二人の愛の証”」

「8、鮑のブレゼ、えんどう豆とナッツの二色のソース」

「9、黒毛和牛フィレ肉の網焼き、

ドフィノワーズと温野菜のヴァリエ、マディラソース」

もう、なんのこっちゃ分からんが、味は申し分なかった。

そしてこのとき、私の目の前では、ちょっとした事件が起きていた。

黒毛和牛を平らげ、ひと息つく我々。

しかし。

「食うの早えぇよ・・・」

黴がそう嘆きながら、必死に料理を口に運ぶ。

その時点で、まだ「二人の愛の証」と格闘しており、テーブル上、

黴の前にだけ、料理が大量に置かれていた。

基本的に、ここのコース料理はテンポが速かったが、

根本的に、黴の食事のスピードは遅い。


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萌えてしまう。

「10、山海の幸の茶碗蒸し」

「11、十勝産小豆、御赤飯」

「12、岡崎八丁味噌仕立て、伊勢海老祝汁」

コース料理も、いよいよ佳境に入る。

佳境に入れていないのは、黴だけとなった。

最後にデザート。

「13、抹茶とホワイトチョコのオペラ風、ガトーフロマージュ、

ピスタチオシャンティー、ショコラミルフィーユ、

フランボワーズの果実入りジュレ、季節のフルーツ添え」

つまりは、皿の上に、6種類の小さなデザートが乗っている訳である。

「料理の写真を撮っとけばよかったな」

私は、ディック峰のブログを思い出しながら、そう言った。

食べることに夢中で、誰一人として、

そんなことを思いつきもしなかったことは、言うまでもない。


つづく


華やかしき、2人の初めての共同作業。

それはケーキ入刀であろう。

本当は違うんだろうけどね。

誇らしげに、ケーキの前へ移動する新郎新婦。

司会者の案内で、参加者がカメラを持参し、ケーキを囲む。

泥、黴、私は、同じ場所に陣を取ったのだが、

なぜかモケダラだけが、茄子の香りの同僚、つまり看護士エリアに。

カメラ小僧と化したモケダラを、遠くに見るのは楽しかったが、

じつに変質極まりない。

ケーキ入刀と同時に、フラッシュが瞬く。

一世一代の晴れ舞台。

産品と茄子の香りの表情は、満足そうであり、そして希望に満ちていた。

以下、モケダラアングル。


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入刀したまま、しばらく固定。

シャッターチャンスの演出。

以下、パンダアングル。


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入刀したナイフを使い、ケーキを切り分ける。

そしてそいつをお互いに食べさせる訳だが、

基本的に2人とも具がデカイ。

まずは産品が茄子の香りに仕掛ける。

以下、パンダアングル。

お行儀良く、産品の攻撃を受け止める茄子の香り。


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以下、モケダラアングル。

見よ、この産品の慈愛に溢れた目を。


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そして攻守交代。

茄子の香りの復讐が始まる。

以下、モケダラアングル。

見よ、この茄子の香りの楽しそうな笑顔を。

鬼畜である。


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以下、パンダアングル。

もはや口に入るはずもない、アメリカンサイズ。

さすがの産品も、悶絶するほかない。


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とにかく、この披露宴で、一番笑える場面だったと思う。

素直に、素敵な2人だと思ったし、いま思い出してもそう思う。

参加者の笑い声に包まれた2人に、

笑いの絶えない未来が続くことを願うと同時に、

そうであろうと確信するものである。


つづく