黄 昏 ハ ン ド メ イ ド 。 -38ページ目

黄 昏 ハ ン ド メ イ ド 。

耕 せ ば ま た よ み が え る 星 だ か ら ぼ く ら は 両 手 を も っ て 生 ま れ た




運命じゃない人
2004年  日本

監督・脚本:内田けんじ  音楽:石橋光晴

出演:中村靖日、霧島れいか、山中聡



会社員の宮田は彼女と住むために
広いマンションを購入する。

しかし彼女に突然振られてしまい
寂しい一人暮らしをしていた。

そんな友人を放っておけない
私立探偵の神田は
レストランで偶然居合わせた真紀をナンパし
真紀と宮田を置いて帰ってしまう。

しかし真紀は婚約していた男性の浮気を知り
家出をしてきたところだった。。


内田けんじ監督の劇場用長編デビュー作。

物語は宮田と真紀が出会った夜から
次の日の朝までの一晩を描いていますが
それを登場人物それぞれの視点から見ると
全く異なったストーリーができあがるという仕組み。

観客は視点が変わるごとに
「えー!そうだったのかー!」と驚かされます。

視点ごとにがらっと変わるストーリーと
細かな布石や伏線が見事に回収されていく様は
観ていて本当に面白くて爽快です。


観終わるとすぐにもう一度観たくなりますが
その二回目こそが面白かったりします。

内田けんじ監督には
こういう映画を作り続けてもらいたいです。

肩の力を抜いて
でもちゃんと映画を楽しめるいい作品でした。




蝶の舌
1999年  スペイン

原作:マヌエル・リバス  監督:ホセ・ルイス・クエルダ

出演:フェルナンド・フェルナン・ゴメス、マヌエル・ロサノ



スペイン・ガリシア地方の小さな村にすむ
8歳の少年モンチョ。

彼は喘息持ちで学校に行っていなかったが
家で本を読むのが大好きだった。

ある日学校に行けることになったモンチョ。

しかし極度の緊張から逃げ出してしまう。

そんなモンチョを救ってくれたのは
ベテラン教師のグレゴリオ先生だった。

先生は春になると生徒たちを自然の中へ連れて行き
蟻が家畜を育てること、蝶には舌があることなど
たくさんのことを教えてくれた。

親友もでき、いろんなことを覚え
少しずつ成長していくモンチョ。

しかし時代の大きな波が
すぐそこまで迫ってきていた。


スペイン内戦やフランコ政権を
描いた映画は数多くあり、その中でも
「ペーパーバード」や「パンズ・ラビリンス」などは
それぞれ違う角度から当時の様子を描いていて
素晴らしい映画でした。

そしてこの「蝶の舌」も
また違う角度からスペイン内戦という
悲劇を描いた素晴らしい作品でした。

映画のほとんどを占めるのは
8歳の少年モンチョの成長物語です。

喘息持ちで引っ込み思案な少年が
偉大な先生や心を許せる友と出会い
様々な経験をする中で成長していく様子を
とても丁寧に描いています。

これが今の時代であれば
ただの成長物語で終わったはずです。

しかしスペイン内戦という時代の悲劇が
8歳の少年の心に大きな傷をつけてしまうのです。


終盤、空気がガラっと変わるところは
観ていて恐怖を感じるほどでした。

そして8歳の少年に突きつけられた
あまりにもつらい出来事。

物語が終わった瞬間は
悲しみというより呆然としてしまいました。

そしてエンドロールが終わる頃
それがやっと悲しみとなって襲ってきて
そこから涙が止まらなくなりました。


映画は戦争の影を残して終わりますが
現実はここからがつらいんですよね。

この後に待っているスペインの悲劇を思うと
本当につらくやるせない気持ちになりました。

最後にモンチョが発した言葉はとても悲しいですが
彼が先生に出会って成長した証でもある気がして
それだけが唯一の光だった気がします。

戦争の場面を一切描いていないのに
こんなにも戦争のつらさを感じる映画は
初めてでした。

血を見せることだけが痛みを伝える術ではない。

そんなことを考えさせられる作品でした。




バルタザールの遍歴
佐藤亜紀  2001年



ひとつの体を共有する双子
メルヒオールとバルタザール。

その体ゆえ苦労することもあったが
侯爵として何不自由なく暮らしていた。

しかしナチスの台頭など時代の変化によって
彼の家も没落。

自暴自棄になり
酒を友にした放浪生活が始まる。


デビュー作にして
ファンタジーノベル大賞受賞という
経歴に惹かれて読みました。

なんだろうこの世界感。

とにかく凄い小説でした。

海外小説の翻訳を読んでいるかのような文体に
最初は躊躇しましたが
翻訳のような読みにくさはなく
文章自体はすっと入ってきました。


ひとつの体を共有する双子という設定も
興味をそそられます。

2人はうまく共存しながら生きていきますが
それぞれ性格は違っていて
ときには対立したり離れたり。

特に没落してからは自暴自棄になり
酒浸りの毎日を送ったり
騙されてとんでもないところに連れて行かれたり
2つの脳みそがあるのにどうしようもないことばかりで
そのキャラクターに感情移入してしまいます。

一見すると堅苦しい文章の
随所にユーモアが散りばめられていて
読んでいてとても楽しく爽快でした。


これだけ現実からかけ離れた世界を描いていて
これだけ引き込まれるというのは
彼女に並外れた文字の力があるからこそだと思いました。

20代の女性がデビュー作でこれを書いてしまったら
大賞しかないでしょう(笑)

それぐらい読んでいて納得の筆の力でした。

他の作品も是非読んでみたいと思います。