19世紀最大のミステリーと言われた、カスパー・ハウザーの物語。
1828年、ニュルンベルクの広場に突然現れた少年。
手紙を握りしめ立ち尽くしていた彼は、歩くことも話すこともままならなかった。
人々の好奇の目に晒されながらも、教育を受け、驚異的な速さで言葉を覚えていったカスパーは、発見されるまでのことを少しずつ語り始める。
16歳まで牢に入れられ、なんの教育も受けなかったという彼の境遇は、誰もが「かわいそう」と思うものだろう。
しかし劇中の彼に悲壮感はない。それどころか、牢の方がましだと言う。
確かに牢の中では行動は制限されていた。しかし彼の思考は制限されていなかった。
周りの人々が彼を人間らしくしようとすればするほど、彼は牢に繋がれていた以上の生きづらさを感じていたのかもしれない。
実際、彼が持っていた研ぎ澄まされた感覚は、普通の生活や食事に慣れていくにつれ、失われていったそうだ。
進化とは。教育とは。人間の本質とは。様々なことを考えさせられた。
「謎」とついているが、色々な憶測が飛び交い名前だけがひとり歩きしてしまった彼を、ひとりの人間として優しく映し出した作品だった。


