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自室の机に向き合って座っていた永沢俊は、頭をかきむしっていた。ふと、壁にかけてある時計を見ると、三時二十五分を指していた。こうして、原稿とにらめっこしているうちにかれこれ三時間が過ぎてしまったのだ。それなのに、まだ原稿には一文字も埋まっていない。何度も消したあとが汚らしく残ってはいるが。
ピロロロロ、ピロロロロ……
俊は机の端に山のように積もっている、既に使ったティッシュの中に手を突っ込んだ。そして、まさぐりまわす。その時、指先が何か堅い、丸みを帯びたものに当たった。俊はそれを引っつかむと、山の中から取り出した。クシャクシャのティッシュが何枚か床に散らばる。しかし、そんなことは気にせずに俊は子機の「通話」ボタンを押した。
「……もしもし、永沢ですけど」応答するのにためらわれたのは、通知を見て相手側方からである。
「春木です。……それで、原稿の方は……」
春木と言うのは俊の編集担当者だ。このところ、俊の原稿が仕上がりを見せないので、しょっちゅう電話を入れてくる。
「……あ、いや、まだです。……すみません」
「……そうですか。あ、気にしないで下さいね。遅くても、良い作品が出来ればいいですから……。それでは、またかけます」すると、電話を切った。
ガチャッ、ツー、ツー
ピッ。俊も「切」ボタンを押した。そして、子機をティッシュの山の上にポイッと投げ置いた。しかし、手元が少し狂い、山にうまく乗らず転がって机の横にあるゴミ箱に入ってしまった。
チッ。悪態をついた。が、そのままにしておいた。あえて取らなかったのだ。