ぼんやりとしている彼の目線の先にはソファに畳んで置かれたベビー服があるようだった。

間が持たないなんてことはないけれど、話しかけるのは、なんだか若干はばかられた。

唐突に口を開いたのはリーダーだった。

「大変か?」

「俺はそんな大変でもないよ。大変なのは、いつも女の人でしょうよ。」

そう答えながら、この人は一体、何を、何に思いを巡らせているのだろうと俺は考えた。

「そっか」

彼は続けて言った。

「可愛いだろ?」
今度は俺が、う・・・っと声が出そうな番ですよ。

「そりゃーもう」
本心だった。
でも、本心でもない気もする。
違うな。本心だもんね。だって。
ただ、心から本心だけど、自分に子どもがいるってことが未だに不思議な感じがするだけで。

それに、その話を今、ここで、リーダーと話しているのが不思議な感じがするだけで。


「可愛いだろうな、そりゃ」
いやいや、どう答えたらいいか、わかんないよ。

「子どもか・・・」

続けて彼は独り言みたいに言った。

珍しく何を考えているのかわからないような気がすることに戸惑った。

「欲しいんすか?子ども」

一瞬、自分でも変なことを聞いたと思ったけれど、リーダーは思いの外、穏やかなカオをしていた。

「欲しいとかは、あんま、わかんねぇけど」

あぁ、この人は何を言うんだろう。
自分で問いかけておきながら、思わず、思いがけず、次の言葉に俺は身構えた。


「もし、俺に子どもがいて、カズにも子どもがいたらとか、一瞬、ちょっと考えたな」

彼は穏やかに笑っていた。

対して、それは俺には軽く衝撃だった。


「・・・え?」
すっとんきょな声が出たと自分でも思った。

「いや、だってよ、お前の子どもとさ、俺の子どもがどっかで出会ったりさ」

俺は珍しく何かを上手く言えなかった。
そして、そう言う彼はとても眩しく見えた。

「お前の父ちゃんと俺の父ちゃんは友達だったんだって。とか、一緒のグループだったんだ。ってとかな」

彼の例え話に、いつもの俺なら他の例題をすぐにあげることができるだろうに。
それは、そういうのは滅茶苦茶得意ですよ。自慢じゃないけど。
なのに、それができないくらい、俺には衝撃だった。

「ないか、ないよな。けど、そんなことをさ、ちょっと思った」

そんな、おそらく彼の何気ない言葉に穏やかに感極まってしまうくらいには自分はイカれてると、俺は確信して自覚した。



なんだよソレ。
ほんとうに口にして言ってやりたかった。

そして俺は、ほんとうに何も言えなくなってしまった。

「どした?」
こともな気に彼は尋く。

「どうもしませんよ」
これが精一杯だ。


油断した。

翔ちゃんなら、まだ言いそうなことだけど、まさか、この人の口から「未来」をきくとは。



なんだろうね、この感じ。
時々、四十を前に、未だに、こうした気持ちになる自分に呆れる。


鼻の奥がツンとした。
俺はそれを誤魔化したくて、鼻を親指と人差し指の腹で挟んでから大きな音をたてて、鼻から息を吸った。
気取られないようにするのに必死だ。


彼がことも無げに語る「未来」が、俺には衝撃だった。たとえ、それがありそうにない未来の世界線だとしても。


それは、まるで、子どもの時、昼間遊び疲れて眠る夜、明日は晴れかなあ。などと、当たり前に明日くる「未来」を思う時のようだった。


当たり前のようにくる、安心した穏やかな、たいそれたことじゃない、微かに希望に満ちた明日。


そうだった。


彼はそういう人だった。


なんの邪気もなく「未来」を思える人だった。