これはさ、今、陥っているのは、俺が思うに、その情景や感慨に気持ちが感情が昂るってことだと思うんだよ。メタ認知的に。

切ないような、胸がきゅっとするような。涙が出そうになるような、そういうモノ。
けど、それはさ、そんな、なんか派手に感動したとか、号泣するとか、そういうんじゃなくて、穏やかな日常や普段にあるような、その先にあるようなモノ。


綺麗に清んだ静まる朝や、穏やかに降る雨が沁みてゆく地面、繰り返し寄せて返す波、そういうのに近いゆらぎみたいなもの。


肯定的にどうしようもないって、こういうことだと思うんだよ、俺は。




友達でも家族でもない、恋人でもない

付き合いは10年以上

いつしか語るより、感じる方が多くをわかってしまうようになってしまった。

なのに、なのに俺は未だに自分で途方に暮れて諦めるくらいには持てあますような感情を、時に彼に持ってしまうのだ。

俺は、一生のうちで、あぁ、あん時、あそこで、あの人と一緒で・・・って、仰ぐみたいに、切ないみたいに思い出したりする一瞬があるだけでさ、

こういう気持ちになるだけで

生きてきた、生まれてきた意味がそこにあるって思うんだよ。


やってきた、生きてきた意味があると思うんだ。


そして、それはそこが終わりじゃなくて、すべては続いて行くんだ。


一瞬を内包して永遠みたいに。




「あんだよ?何泣いてんだよ」

彼は俺の頭を撫でた。

そんなもんはわかりませんよ。

わかりゃーしないよ。俺にだって。

なんで、いつも、ふとした時に、思いがけず俺をこんな気持ちにするんだよ。

「泣いてませんから」

「泣きそうやん」

「泣いてねぇわ」
時々彼の言葉に出る関西弁のいまいましさも相まって俺は言った。

「リーダーのせいだ」

「なんでだよ」
彼は笑った。
そして仕方ないなと言わんばかりに俺を引き寄せた。

その胸はとても心地良かった。いつものように少し高いような体温、太陽の、おひさまのような匂い。


俺は大きく大きく息をついた。


誰かの胸で泣くのは安心する。例え俺が大人でも。男でも。

だって、ほんとうは誰も大人になんかなれないんだから。





「好きだよ、カズ」

「知ってる」
俺は目を閉じた。

「あんたさ、俺のこと好きだよねぇ、ほんと」
つい、思っていることが口をついて出てしまった。 

だから、俺も時々は彼を抱きしめたりする。

「あんだよ。お前は好きじゃねぇの?」
そういうとこあるよねー(笑)
まった、口を尖らすみたいになっちゃって、負けず嫌いがこういうとこでも出ちゃうんですね。

「好きだよ」

体温の暖かさ、心地良さに体を預ける。

たまには、こういうのもいいんじゃないかな。と思う。


「朝飯、食ったんですか?」

「まだ」

「なんか食べる?」

「面倒くさいからいいよ」

「うまい食パンがあるんすよ。頂きもんだけど」

俺は彼から離れて、何やら美味しいと評判の食パンを厚めにきって焼いた。

「バター出して、冷蔵庫」

「かった・・・切れねぇよ」

「ほら、貸して」

香ばしく焼かれたパンにバターを塗ると、黄金色にいい匂いが広がった。

これはしあわせの匂いだ。

「好きでしょ?パン」

「うん」


彼はとてもとても幸せそうに笑った。

だから、俺も幸せだった。






こうやって、あなたと私は

時には離れて、それでも寄り添い

共に生きて行くのだ。

どこまでも。