引越しの多い我が家は今の自宅で3軒目の住み家となる。
この世に生を受けてから高校3年の17年間を過ごした第1軒目の住居では、毎年夏から肌寒くなる時期の期間限定で虫達と共に過ごしてきた。体に暑さを感じる季節になると廊下では「待ってました!!!」と言わんばかりにアリがウヨウヨと大名行列を始め、時には台所や自室・茶の間にまで侵入していた。そして風呂場には毎晩のようにナメクジも出た。そのナメクジを素足で踏んだ時の「プチッ!」というフロ場に響いた音と足の裏の感触は未だ忘れられない。
高校3年の冬、そんな昆虫屋敷とおさらばする事となった。
新築を建てるという話が出たのだ。新しい自宅が出来るという嬉しさよりも先に「もう虫に悩まされる事がないんだっ!素晴らしい人生が待っているんだっ!!!」などと、虫とおさらば生活に胸を弾ませながら引越し作業をし、家が完成するまでの間しばらく祖父宅へと身を寄せ、その数ヵ月後、新たな人生(家)の扉を開いた。
それからは室内でドッキングしていた虫達と鉢合わせる事のない、恐怖とは無縁の生活を過ごしていた。まだあどけない小学生の頃、一人黙々と廊下のアリをほうきで掃いては捨てていた時の事を思い出すと、虫と関係が切れた解放感が何よりも嬉しく「今年の夏もいい夏だったなぁー」などと、夏が来る度に体全体では表現しきれない程の快適さに喜びを噛みしめていた。
高校卒業と同時に専門学校へ通うため、数年間ほど自宅から500キロ離れた地で一人暮らしをしていた事もあったが快適な実家を好み、しょっちゅう帰省していた為「また帰ってきたの?」などと煙たがられていた。そしてまた数年後には一人暮らしを強制的に終えて地元へ戻り、ヒマさえあれば部屋の模様替えをし、それが一つの趣味と化していた。真夜中になると突然部屋掃除をしたくなるという衝動に駆られる時もあり、夜行性である自分はシラジラと夜が明けるまで部屋の模様替えをしていたという事も度々あった。
だが、そんな極楽生活も7年で幕を下ろす事となった。父の経営している会社が倒産したのだ。
『父さんの会社が倒産した』とはこの事である。
建てた新築が担保に入っていたため差し押さえになり次の住み家を探さなくてはならなくなったが、数日後、一軒家を借りられるという話が舞い込みすぐに引越しとなった。
そしてまたしても風呂場や廊下にアリが出た。
ここでもまた夏には虫と格闘の日々を過ごし、1年半後には居住人数と間取りの関係から許容範囲を超えるという関係で再び引越しが決まった。
今度は築80年の2階建て住宅。
数十年空家になっていた事もあり『何だか嫌な予感がする』と思いながらも部屋数7DKという広さと爆発的に格安で借りられるという話にそそられ、早く落ち着きたいという全員の気持ちも一致し「いいじゃん。いいじゃん」という安返事から即決で話が進んだ。
1年目は何事も無く平穏な日々が過ぎた。
「なんだ。大丈夫じゃん!良かった良かった!」等と、のんべんだらりと日々が過ぎた2年目の夏、それは突然やってきた。
2階の自室カーペットでゲジゲジを発見したのだ。
その日はちょうど年に数回行う布団干しをした事もあり「あらま。布団についたまま取り込んじゃったかな?」などと大して気にもせずベランダからゲジゲジを放り投げた。
次の日、姉が部屋から突如フラッと出てきた。
何かあったのかと問うと「部屋に変なのが居た・・」とボソッとつぶやきながら外へ出ていった為「気味の悪い人だねぇ」などと言いながら姉の後ろ姿を見送ると、数秒後、姉が再び戻り「足がいっぱいついた変な長い虫が居たから外へ捨てに行ってきた‥」と、捨て台詞を吐きながら部屋へと戻って行った。
出たのだ。
姉の部屋にもゲジ男だかゲジ美だかが出たのだ。
『今度はゲジ男(美)か・・』と、今まで悩まされた事のない新たな同居人の出現に対し一抹の不安はあったものの『そんなにしょっちゅう出るものでもないかも』と勝手な憶測をし、大して気にも留めなかった。
それから数日経ったある日、居間でグダグダと横になりながらテレビを見ていた時に事件はおきた。
『何だか足首がモゾモゾする』という、気持ちいいんだか気持ち悪いんだかよく分からない感覚に襲われフト足首を触ってみた。それと同時に手のひらで何かが『クチャッ』と音をたてた。
視線を足首へ向け急いで飛び起き凝視してみると、ほんのりとヒデブしたゲジゲジがクネクネと身を悶えながら踊っていた。
その様はまるで忘年会時に腹踊りをしている酔っ払いか、扇子をフリフリするボディコン女のようであった。もしかしたらそれ以上の舞いだったかもしれない。
『これはヤバイ』とさすがに危機を感じ、何気なくカーペットをめくると新たな仲間が優雅にクネクネと踊りを披露していた。
急いで2階へ駆け上がり姉に伝えると「もういっぱい出てるよ」と平然とした態度であった為、一人熱くなっている事が何だかバカバカしく思い「そっか」とだけ返した。
だがやっぱりヤバイ。
このままではダラダラする事さえ出来なくなってしまう。
なぜ室内に居るのにも関わらずこんなにも虫達と対面しなくてはならないのか。
おまけに室内には虫達が出現するものの、庭やベランダではあまり見ないという皮肉さ。
一生、虫生活とは縁が切れないのであろうか。
こうなったら姉のように開き直るしかないのかもしれない。
その後、夜中に便所へ行った際にもゲジ男(美)が壁を歩いているのを発見したため一瞬にして目が覚めた事により、半分覚醒しながらも急いで用を足したり、足元にも注意するようになった。少し離れたカーペットの上で黒い物体を発見したなんて時には恐る恐る近づいて行き、ただのゴミだと知ってホッとするという、人生において全く意味のない行動もとるようになった。
このゲジ男(美)以外にも洗面所では夜中の2時になると必ず出没するという、時間に律儀なカマドウマも出るようになった。
去年の夏も虫と共に過ごし、また今年の夏もたぶん同居人と化すであろう虫達。
『家賃さえ払ってくれればなぁ』などとくだらない思いを抱く今日この頃である。
この世に生を受けてから高校3年の17年間を過ごした第1軒目の住居では、毎年夏から肌寒くなる時期の期間限定で虫達と共に過ごしてきた。体に暑さを感じる季節になると廊下では「待ってました!!!」と言わんばかりにアリがウヨウヨと大名行列を始め、時には台所や自室・茶の間にまで侵入していた。そして風呂場には毎晩のようにナメクジも出た。そのナメクジを素足で踏んだ時の「プチッ!」というフロ場に響いた音と足の裏の感触は未だ忘れられない。
高校3年の冬、そんな昆虫屋敷とおさらばする事となった。
新築を建てるという話が出たのだ。新しい自宅が出来るという嬉しさよりも先に「もう虫に悩まされる事がないんだっ!素晴らしい人生が待っているんだっ!!!」などと、虫とおさらば生活に胸を弾ませながら引越し作業をし、家が完成するまでの間しばらく祖父宅へと身を寄せ、その数ヵ月後、新たな人生(家)の扉を開いた。
それからは室内でドッキングしていた虫達と鉢合わせる事のない、恐怖とは無縁の生活を過ごしていた。まだあどけない小学生の頃、一人黙々と廊下のアリをほうきで掃いては捨てていた時の事を思い出すと、虫と関係が切れた解放感が何よりも嬉しく「今年の夏もいい夏だったなぁー」などと、夏が来る度に体全体では表現しきれない程の快適さに喜びを噛みしめていた。
高校卒業と同時に専門学校へ通うため、数年間ほど自宅から500キロ離れた地で一人暮らしをしていた事もあったが快適な実家を好み、しょっちゅう帰省していた為「また帰ってきたの?」などと煙たがられていた。そしてまた数年後には一人暮らしを強制的に終えて地元へ戻り、ヒマさえあれば部屋の模様替えをし、それが一つの趣味と化していた。真夜中になると突然部屋掃除をしたくなるという衝動に駆られる時もあり、夜行性である自分はシラジラと夜が明けるまで部屋の模様替えをしていたという事も度々あった。
だが、そんな極楽生活も7年で幕を下ろす事となった。父の経営している会社が倒産したのだ。
『父さんの会社が倒産した』とはこの事である。
建てた新築が担保に入っていたため差し押さえになり次の住み家を探さなくてはならなくなったが、数日後、一軒家を借りられるという話が舞い込みすぐに引越しとなった。
そしてまたしても風呂場や廊下にアリが出た。
ここでもまた夏には虫と格闘の日々を過ごし、1年半後には居住人数と間取りの関係から許容範囲を超えるという関係で再び引越しが決まった。
今度は築80年の2階建て住宅。
数十年空家になっていた事もあり『何だか嫌な予感がする』と思いながらも部屋数7DKという広さと爆発的に格安で借りられるという話にそそられ、早く落ち着きたいという全員の気持ちも一致し「いいじゃん。いいじゃん」という安返事から即決で話が進んだ。
1年目は何事も無く平穏な日々が過ぎた。
「なんだ。大丈夫じゃん!良かった良かった!」等と、のんべんだらりと日々が過ぎた2年目の夏、それは突然やってきた。
2階の自室カーペットでゲジゲジを発見したのだ。
その日はちょうど年に数回行う布団干しをした事もあり「あらま。布団についたまま取り込んじゃったかな?」などと大して気にもせずベランダからゲジゲジを放り投げた。
次の日、姉が部屋から突如フラッと出てきた。
何かあったのかと問うと「部屋に変なのが居た・・」とボソッとつぶやきながら外へ出ていった為「気味の悪い人だねぇ」などと言いながら姉の後ろ姿を見送ると、数秒後、姉が再び戻り「足がいっぱいついた変な長い虫が居たから外へ捨てに行ってきた‥」と、捨て台詞を吐きながら部屋へと戻って行った。
出たのだ。
姉の部屋にもゲジ男だかゲジ美だかが出たのだ。
『今度はゲジ男(美)か・・』と、今まで悩まされた事のない新たな同居人の出現に対し一抹の不安はあったものの『そんなにしょっちゅう出るものでもないかも』と勝手な憶測をし、大して気にも留めなかった。
それから数日経ったある日、居間でグダグダと横になりながらテレビを見ていた時に事件はおきた。
『何だか足首がモゾモゾする』という、気持ちいいんだか気持ち悪いんだかよく分からない感覚に襲われフト足首を触ってみた。それと同時に手のひらで何かが『クチャッ』と音をたてた。
視線を足首へ向け急いで飛び起き凝視してみると、ほんのりとヒデブしたゲジゲジがクネクネと身を悶えながら踊っていた。
その様はまるで忘年会時に腹踊りをしている酔っ払いか、扇子をフリフリするボディコン女のようであった。もしかしたらそれ以上の舞いだったかもしれない。
『これはヤバイ』とさすがに危機を感じ、何気なくカーペットをめくると新たな仲間が優雅にクネクネと踊りを披露していた。
急いで2階へ駆け上がり姉に伝えると「もういっぱい出てるよ」と平然とした態度であった為、一人熱くなっている事が何だかバカバカしく思い「そっか」とだけ返した。
だがやっぱりヤバイ。
このままではダラダラする事さえ出来なくなってしまう。
なぜ室内に居るのにも関わらずこんなにも虫達と対面しなくてはならないのか。
おまけに室内には虫達が出現するものの、庭やベランダではあまり見ないという皮肉さ。
一生、虫生活とは縁が切れないのであろうか。
こうなったら姉のように開き直るしかないのかもしれない。
その後、夜中に便所へ行った際にもゲジ男(美)が壁を歩いているのを発見したため一瞬にして目が覚めた事により、半分覚醒しながらも急いで用を足したり、足元にも注意するようになった。少し離れたカーペットの上で黒い物体を発見したなんて時には恐る恐る近づいて行き、ただのゴミだと知ってホッとするという、人生において全く意味のない行動もとるようになった。
このゲジ男(美)以外にも洗面所では夜中の2時になると必ず出没するという、時間に律儀なカマドウマも出るようになった。
去年の夏も虫と共に過ごし、また今年の夏もたぶん同居人と化すであろう虫達。
『家賃さえ払ってくれればなぁ』などとくだらない思いを抱く今日この頃である。