イタリアといえば?:サボナローラチェア
****************************
椅子の名前:The Chair for something special
特別な響きをもつ椅子の名前をその由来と共にご紹介する特別企画
第二回:サボナローラチェア
****************************
今日はこのタイプのチェアについての考察です。
Folding armchair (sedia a Savonarola)
15th century (textile); 19th century (chair: with earlier parts)
MET Museum(public domain)
X型のフォルムを持ち、由来は古代エジプトまで遡ると言われます。
古代ローマでは執政官のために持ち運び用として重宝されたという説もございます。
元々は折り畳み椅子でしたがイタリア初期ルネッサンス時代に発展し、18世紀後半から19世紀にヨーロッパでゴシックリバイバル、ルネッサンスの再流行の流れの中、
さまざまなタイプが作られました。
このタイプのチェアは色々な名前で呼ばれています。
「X-chair/エックス・チェア」
「scissors chair/シザーズ・チェア」
「Dante chair/ダンテ・チェア」
そして、代表的な名前が「Savonarola chari/サボナローラ・チェア」。
まず、「X-chair/エックス・チェア」「scissors chair/シザーズ・チェア」は見た目の形からきている名称でしょう。
難しいのが「Dante chair/ダンテ・チェア」「Savonarola chari/サボナローラ・チェア」の名前の由来。
サボナローラとは、宗教改革の先駆とされる「ジローラモ・サボナローラ/Girolamo Savonarola(1452-1498)のこと。
15世紀末、フィレンツェで修道士として激しい反メディチ家の説教を行い、イタリア戦争に乗じて1492年にフィレンツェの実権を握り神政政治を行った人物です。
「虚飾の焚刑」と称して美術作品や焼き払うなど厳しい神政政治を行いましたが、最後は民衆の支持を失い、ローマ教皇によって焚刑されました。
Girolamo Savonarola
by Fra Bartolomeo
c.1498 (Public Domain)
そしてダンテとはもちろん「ダンテ・アリギエーリ/Dante Alighieri(1265-1321)」のこと。
イタリア都市国家フィレンツェ出身の詩人、哲学者、政治家であり、代表作「神曲」によりルネサンス文化の先駆者とされています。
by Sandro Botticelli, 1495
何故このチェアはイタリアを代表する偉人の名前で呼ばれるようになったのでしょうか。
これが調べてみると諸説あり、定かではございません。
信頼性の高い情報源として「ブリタニカ・オンライン」をみてみると・・・
チェア、スツールとしては最も古い形のひとつで、2000年以上の歴史を持ち、中世ヨーロッパでは祭礼の際に用いられることが多かった、ずっと使われ続けてきたが、18世紀終わりから19世紀中ごろにかけて歴史的な家具(ヒストリック・ファニチャー/historic furniture)のブームがきて人気となった・・・。
というようなことが書かれており、語源に関しては言及していません。
ブリタニカ・オンライン(英語版)
「Scissors chair」
https://www.britannica.com/technology/scissors-chair
ちょっと変わったところからの引用ですと「タンパベイ・タイムズ /Tampa Bay Times(フロリダの新聞)」のサイトに詳しく書いたコラムが載っていました。
それによれば、サボナローラ・チェアと呼ばれだしたのは19世紀に入ってからであり、何故そう呼ばれるようになったのかは誰もわからない・・とされています。
タンパベイ・タイムズ(英語版)
「HISTORY BEHIND SAVONAROLA CHAIR」
https://www.tampabay.com/archive/2010/02/19/history-behind-savonarola-chair/
カラヴァッジョ「エマオの晩餐」1601年
他には、ヒストリック・ファニチャーブームの時に家具屋がイタリアで使われていた家具だからイタリアの有名人の名前をつけた、とか、イタリアに侵攻したシャルル8世(1470-1498)率いるフランス軍がこのチェアを祖国に持ち帰り、当時イタリアで有名だったサボナローラの名前をつけた、という説もあります。
サボナローラスタイル ヴィクトリアン マーケットリースツール
1890年代 英国 パンカーダ
さて、どうしましょうか。
どうやらここではっきりとした結論をだすことはとても無理なようです。
どちらにしても、イタリアの偉人の名をもつチェアは深い歴史ある意匠とルネサンスの香り漂う特別な存在感をもっていることは間違いないでしょう。
お手元で愛でながら、そしてそのチェアに座りながら、貴方も深い考察に参加してみてはいかがでしょうか。
by N