女神の椅子 | 東京の高級アンティーク家具店パンカーダのブログ

女神の椅子

パンカーダには、イタリアからの古い椅子があります。

 

まだメンテナンスが終わっていないため、サイトにはアップされておりませんが、
見事な背板の意匠に惹かれて、少し調査をいたしましたので、ここでご紹介させていただきます。

 

 

椅子に座り、風格ある佇まいを見せる女性。

 

 

 

右手には旗が、左手には「REVERA/真実」と書かれた書物のようなものを持っています。彼女の膝には犬。足元には胸をはだけたもう一人の女性、そして散らばったマスク。よくみれば、足元の女性の後頭部にはもうひとつの顔(マスク?)がみえます。

 

 

 

いったいこのモチーフはなんなのでしょう。

 

調べたところ、16世紀の版画家、彫刻士であるJohann Sadeler/ジャン・サデラー(1550-1600)による版画がもとであるということがわかりました。

 

 

モチーフは「フィデス/Fides」。


ローマ神話における信頼(信義)の女神です。

 

 

タイトルは「Vertrouwen (Fiducia) overwint Heimelijk Bedrog (Tecti doli)」。
「信頼」が「隠された嘘・まやかし」に打ち勝つ、とでも訳しましょうか。


一般的に信頼の女神フィデスはオリーブの枝の冠をかぶり、杯またはカメや軍旗を手に持っているといいます。

 


それでいえば、このフィデスは軍旗はもっているものの、かなり異色と言えるでしょう。


でも、きりりと姿勢をただし、足元の怪しい女性(足先は獣のようですし、サソリのような尾もでています)を押さえつける様は、さすが信頼の女神。

 

 

ジャン・サデラーは聖書や神話をモチーフにした、多くの版画を残しています。

 


Wewtenwind/西風



西風を司る神ゼピュロスと、春の女神フローラがモチーフ。


フローラはもとはニンフでしたが、ゼピュロスに強引に誘拐され、それを悔いたゼピュロスにより神の地位へと昇格し、女神となりました。

 

 

 


また、今回ご紹介したものに似ているシリーズとして・・・。

 

Rede (Ratio) overwint Violentia (Violentia)
「理性」が「暴力」に打ち勝つ、の意味。

 


Gerechtigheid (Justitia ) overwint Geweld (Violentia)
「正義」が「暴力」に打ち勝つ、の意味。

 

 

それぞれ、「理性」や「正義」を象徴する女神が「暴力」を象徴する悪魔や荒ぶるものの象徴としての半獣神を抑え込んでいます。

 

 


イタリアが国家としてまとまっていない頃。

 

都市国家であったイタリアは、各都市においてメディチ家のようなの有力貴族が大きな力をもち、警察や裁判所代わりのようなことも行っていたといいます。

 


ひょっとして、このあたりのモチーフをつかった家具は、そんな有力貴族の家のホールなどに、シリーズとして置かれたものかもしれません。

 

波乱にとんだ多くの事をみてきたであろう、信頼の女神。


想像が広がるストーリーをもつ、稀有な存在がいまここにあります。

 


*信頼の女神の椅子はサイト未公開です。
*ご興味のある方はお問い合わせください。

 

by N