医術の神と蛇の杖・アスクレピオス
癒しを与える者は神となる。
いつの時代どこの世界でも人は病を恐れ、抗い、癒しを求め、それを与えるものは神と崇められました。
A Sick Child Brought Into The Temple Of Asclepius - John William Waterhouse (1849-1917, UK)
古代ギリシャの医者で「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスは科学的な医療の礎を築いたとされていますが、その祖先はギリシャ神話に登場するアスクレピオス神であるといいます。
Asclepius with his serpent-entwined staff, Archaeological Museum of Epidaurus
アスクレピオスは、全能の神ゼウスの子であるアポロンと、ラピテス族の王プレギュアスの娘コロニスの間に生まれました。
誕生前には悲劇がおこりました。
アポロンとの子を身ごもっていたコロニスですが、イスキュスという別の男と結婚してしまいます。使いにしていたカラスがこのことを知らせると、アポロンは激怒し、コロニスを矢で射殺してしまいます。
Apollo slaying Coronis by Domenico Zampieri (1581-1641, Itarian)
コロニスはお腹の中に子がいることを告げ息絶えました。アポロンは子を救い出し、ケンタウロスである賢者ケイロンにその子を託しました。ケイロンに育てられたアスクレピオスは、師であるケイロンを凌ぐ勢いで医学に才能を発揮しました。
ある日、アスクレピオスは一匹の蛇を誤って殺してしまいました。すると別の蛇が草をくわえて現れ、死んだ蛇につけるとその蛇は生き返り、去っていったのです。それを見たアスクレピオスは薬草を学び、やがて死者をも蘇らせるようになりました。
癒しを求める人々はアスクレピオスがいるエピダウロスの地を目指しました。そこでの治療は夢を見ること。アバトンと呼ばれる館に入ることが許された者はそこで眠り、アスクレピオスや彼のシンボルである蛇や犬の夢を見ます。
そして目が覚めると彼らの病は治っていたといいます。
Dream of Aesculapius by Sebastiano Ricci (1659-1734, Italian)
偉大な医者となったアスクレピオスですが、死者を蘇らせることが冥界の王ハデスの怒りを買います。「世界の秩序を乱すもの」としてハデスから抗議されたゼウスはアスクレピオスを雷霆で撃ち殺してしまいます。
しかし、その偉業を認めていたゼウスは、父であるアポロンの怒りと悲しみを鎮めるためもあって、アスクレピオスを天に上げ、へびつかい座として神にしました。
杖に巻き付く蛇の意匠は「アスクレピオスの杖」と呼ばれ、現代でも医療のシンボルマークとして使われています。
パンカーダに届いたオークのカップボードには「アスクレピオスの杖」と思われる見事なカーヴィングが施されています。
リアルに表現された蛇は今にも動き出しそうなほど。
トップには松かさと思われる意匠が据えられています。
松には「永遠の若さ」という意味があり、日本でも「不老長寿」という花言葉を持っています。
http://pancada.net/item/sideboard/post_1546.html
カップボードはクレデンザともよばれ、語源は「信用」を意味するcredenceといわれています。
「永遠の若さ」を纏った「アスクレピオスの杖」をもつ「信用」の家具。
ひょとして、パンカーダのカップボードは医療関係の仕事に関係していた人の特注品だったのかもしれません。
様々な願いが込められ、現代へと受け継がれてきた、癒しの力の象徴。
120年の歴史を纏った傑作が日常に溶け込む瞬間をご体感ください。
by A
*ギリシア神話については諸説ございます。