名画にみるアンティーク:居心地の良い場所
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パンカーダ 早春の特別企画
Antiques in the masterpiece
~名画にみるアンティーク~
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今日ご紹介する画家は、今では世界中に広まったある習慣の
「はじめて」を描いた人物です。
ジョン・コルコット・ホーズリー/John Callcott Horsley(1817 - 1903)。
彼は1817年、ロンドンに生まれました。
父は音楽家であり、ヴィクトリア女王からナイトの位を
授かったコルコット卿の縁者でもありました。
1843年、画家として既に成功し、ロイヤル・アカデミーの会計会長の職務にあった彼がヴィクトリア&アルバート博物館の設立者ヘンリー・コールからの依頼で描いたのは世界初の「クリスマス・カード」でした。
さて、この絵。
タイトルは「A Pleasant Courner」。
製作年は1865年。
光り差し込む窓辺の花瓶にはスノー・ドロップが飾られています。
冬の終わり、まだ少し遠い春。
英国はまだまだ寒く、暖炉の炎はかかせないものでしょう。
でも窓から差し込む陽は暖かさを増し、
窓辺のベンチは心地よい光で溢れています。
ベンチ上、壁面の装飾はおそらくCUOI D'ORO/クオイドーロ。
日本では「金唐革/きんからかわ」という名前で知られています。
ルネサンスの巨匠・サンドロ・ボッティチェリが完成させた壁面装飾の技法です。牛革に特殊な金属箔をつかい、金型をつかって凹凸をつけたこの技法はイタリアを発祥とし、その後ヨーロッパ各地の宮廷や寺院などの壁面を飾ってきました。
そのようなクオイドーロがあるお屋敷は、さぞ立派なものだったに違いありません。
そんなお屋敷の一角。立派な書物をかかえる女性。
ドレスは深みのあるワインレッドのベルベット。
小脇には更に数冊の書物が見えます。
腰かけているベンチはがっしりとした作り。
恐らく英国家具で一番歴史が古い、オーク材でしょう。
修道士がつかっていたというモンクス・ベンチだったかもしれません。
頬の赤みは、暖炉の暖かさのせいか、
それとも、本から得られる心地よい興奮のためでしょうか。
遠くをみつめる柔らかい瞳に、満ちたりた生活が
あるからこその知的好奇心が輝いています。
豊かな安心。暖かさ。ぬくもり。
それは1865年の英国がもつ余裕そのもの。
いつまでも傍に置いて心癒されたくなる、そんな1枚です。
by N